創部9か月で強豪を追い詰めた 千葉・市川南ポニーを強くする「主役はみんな」の精神

全国V経験のある墨田ポニー相手に善戦した市川南ポニーナイン【写真:加治屋友輝】

ポニーリーグの第46回関東連盟春季大会が開幕し、各地で熱戦

勝利まであと1イニングだった。中学硬式ポニーリーグの「第46回関東連盟春季大会」が27日に千葉・柏市の柏の葉公園運動場などで開幕した。今大会初出場となる部員11名のポニー市川南マリーンズが1点差で墨田ポニーに惜敗。創部9か月のチームが全国V経験のある強豪を追い詰める展開は見応えがあった。強い、弱いは関係ない。小さなことの積み重ねが子どもたちの自信になっていた。

サヨナラ負けを告げる打球が左中間の芝生で弾んだ。2点のリードを持って迎えた最終7回。市川南は相手に3点を奪われて、5-6でサヨナラ負け。スコアボードを見ると、初回と最終回に3点ずつ奪われていた。山本芳洋監督の中で今後の課題は明確だった。

「これまでやってきたことができれば、なんとか強い相手でも戦えると思っていました。最初に“バタバタ”しまい、勝ちが見えた最後も慌ててしまいましたね。精神的に弱いところが出てしまいました」

墨田ポニーは全日本選手権で優勝経験のあるチーム。一方、市川南ポニーは昨年5月に立ち上げたばかり。部員集めも、練習環境もまだ整っていない。新しい時代に合わせた情熱のある指導者たちと、千葉や東京の野球が大好きな男女の中学生、その保護者で結成された。まだ“産声”をあげたばかりのチームだ。この日も対等に戦えたが、勝負どころでの集中力、勢いの差が試合を分けたと言っていい。

市川南の試合運びは見事だった。先制点は水谷元春外野手(3年)の中堅へのランニング本塁打だったが、他の4点は犠飛で奪ったもの。安打や四球で出た走者をしっかりと進め、確実に1点を取る野球を展開した。リードされても、1点ずつ、返していった。4回に同点に追いつき、5回に逆転。7回には1点を加点し、あとは最終回を1点以内に抑えるだけだった。

市川南ポニー・山本芳洋監督【写真:加治屋友輝】

「おとなしい子ばかり」という印象だった子たちが流した涙

強いチームに勝つためにはベンチ(采配)がどうやって1点を取るのかも重要なポイントだ。投手、野手も自分たちの役割を徹底し、山本監督の考えを選手たちが体現していた。それでも、強豪をあと一歩のところまで追い詰めたが、白星には手が届かなかった。山本監督は試合後、驚きの光景を見た。選手たちは三塁ベンチ裏の控室で、涙を流していた。

山本監督は9か月前のことを回想していた。

「このチームに入ってきた頃は、みんなおとなしい子ばかりでした。こっちが言わないと動けない。なので、最初は『自分のことは自分でやる』『片付けや準備は率先して行う』ということから徹底させました。あとは、主役はみんなだから、エラーしたって、失敗したっていい。常にチャレンジしながら、楽しみながら、勝って行こうということを伝えていましたね」

この日、選手たちは敗れはしたが、自分たちのやれることを考え、打撃に守備、そして継投など、それぞれを実践していた。9か月前、スタートを切った指揮官の言葉は、試合展開にも表れていたのではないだろうか。何が足りなかったのか――。その涙の理由は、これから分かっていけばいい。

「子どもたちが泣いている姿、初めて見ましたよ」

ポニーの今大会は、負けたら終わりのトーナメントではなく、リーグ戦で頂点を目指す試合方式。子どもたちに試合経験をたくさんして、うまくなってほしいと願っているからこそのルールだ。市川南は初戦で敗れたからといって、その先の道を絶たれたわけではない。山本監督は強豪を追い詰めた1試合に子どもの成長を確かに感じ、次のチャンスへ向けて、準備を進めていく。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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