「移民解禁」という愚策 茂木幹事長の危険な発想|山岡鉄秀 岸田政権は本当に「大移民政策」にかじを切るのか…。茂木敏充幹事長はかつて次のように語っている。「日本を『多様性のある多民族社会』に変える」ために、「定住外国人に地方参政権を与える」。若手時代の国家ビジョンとはいえ、非常にナイーヴでかつ危険な発想だ。岸田政権が日本解体政権とならないように、国民の監視が絶対に必要である。

日本を「多様性のある多民族社会」に変える

2021年11月18日、日経新聞が朝刊一面トップで、「外国人就労 『無期限』に」 「熟練者対象、農業など全分野」などと報じたのを見てぎょっとした。

現在、何度でもビザを更新可能で家族も帯同できる「特定技能2号」は、建設と造船・舶用工業の2分野だけに限定されているが、2022年度に農業や漁業、飲食料品製造業、産業機械製造業、外食業、宿泊業など11分野と、別の長期就労制度である「介護」を加え、在留期限をなくす方向で調整しているという。

以前より、経済界からは外国人労働者導入の圧力が強かった。しかし、海外から低賃金労働者を導入する政策は欧米諸国で大失敗に終わっており、それに周回遅れで追随するのは愚策であるとの反対意見も強く、抑制的に運用されてきた経緯がある。

しかし、岸田政権になって一気に水門を開こうとしているかのように見える。これは実質的な移民解禁に繫がらないのか。この問題には多面的な懸念があることを指摘したい。

まず、安易に移民を増やすことの問題点だが、私はこれが茂木敏充幹事長の意向の反映でなければいいがと思っている。というのも、茂木幹事長は自らの公式HPで、自分の国家ビジョンについて次のように語っているからである。

__一言で言えば21世紀の日本を『多様性のある多民族社会』に変えるということです。有能な人材が世界から日本に集まり、ここで世界に向けてサクセスストーリーが生まれるという国家を目指すべきです。このための具体的な政策課題として
⑴英語を第2公用語にする
⑵定住外国人に地方参政権を与える
⑶インターネットの接続料はじめ知的生産活動の基本コストを諸外国並みにする
⑷日本の制度やシステムの中で国際基準と合致しないものを一括して見直す
の4点を提案したいと思います。__

20年以上前の若手政治家時代の「ビジョン」であるが、いかにも、元マッキンゼーらしいグローバリスト的発想である。

私自身、長年海外の多民族社会で生活した経験に照らして言えば、大変僭越ながら、非常にナイーヴでかつ危険な発想だ。

中国系移民を抱えることは大きなリスク

この国家ビジョンで茂木氏が思い描く移民は、いわゆる知的エリートだろう。実際、高度な技能を持つ移民は日本にとってプラスになる。そういう移民は歓迎できるが、条件がある。まず、親日的で融和的であり、外国政府の支配下にないことが絶対的な条件だ。

たとえば、オーストラリアには多くの中国系移民がいる。彼(女)たちのなかには、非常に優秀な労働者も多い。私の部下にも数人の中国人がいた。彼女たちは品行方正で優秀だったが、全員共産党員だった。

個人的には日本と日本人が好きでフレンドリーなのだが、完全に洗脳されていて、天安門事件で学生の民主化要求運動を弾圧しなければ中国の今日の繁栄はなかった、と本気で信じていた。

そんな彼女たちは、オーストラリアに定住していても、中国の国防動員法や国家情報法に縛られている。ひとたび有事となれば、人民解放軍への協力を要請され、拒否することはできない。中国が仕掛けるサイレント・インベージョンに気付いて抵抗を始めたオーストラリアだが、すでに国内にあまりにも多くの中国系移民を抱えていることは大きなリスクになり得る。

このように、安全保障を考慮すれば、優秀なら誰でもよいというわけにはいかないのである。あとで気づいても遅すぎるのだ。

また、オーストラリアにおいても、選挙権を持つのはあくまでも帰化した場合であり、単なる定住者(永住者)であった場合は、何十年住んでも選挙権は与えられない。これは移民国家においても常識である。

茂木氏の発想だと、多民族国家を作ったつもりが、すでに日本ではなくなっているだろう。参政権に関しては明確な線を引かなければ、自ら外国のサイレント・インベージョンに道を開くことになる。

地方自治体の暴走が日本で起こる可能性

昨年末、辛うじて東京都武蔵野市における住民投票条例が否決されたが、危険な動きだ。松下玲子市長は再提出の構えだそうだが、確実に潰さなくてはならない。

オーストラリアには、すでにアジア人がマジョリティの自治体がたくさんある。そのような自治体を含む選挙区からは2大政党のどちらも、たとえば「中国系の候補者」を擁立することになる。

有権者のマジョリティが中国系なら必然的にそうなる。それらの中国系候補者は、白人系オーストラリア人と写真におさまりたがる。いまのところ、政界の中心はまだ白人系オーストラリア人が握っているからだ。

しかし、それらの候補者が地元でばら撒くビラは全て中国語で書かれていたりする。そうなると、主張も公約も読めなくなってしまう。そうして、段々とオーストラリアが変質していくことになる。同じことが日本でも起き得るのだ。そのような自治体が、独断で外国と協定を結んでしまったらどうなるだろうか。

拙書『vs.中国』(ハート出版)で解説したとおり、労働党政権のオーストラリア・ビクトリア州のダニエル・アンドリュース州首相は、連邦政府に無断で中国政府と一帯一路の協定を結んでしまい、大騒ぎとなった。

極左マルクス主義者のアンドリュース州首相は、連邦政府から再三警告されても応じず、情報の開示も拒否し続けた。ついに業を煮やした連邦政府が新しい法律「外国関係法」を施行して、やっと阻止した。

「外国関係法」は地方自治体が外国と結んでいる全ての合意や協定を連邦政府が見直し、国益に反していると判断したら外務大臣の権限でキャンセルできるという法律である。日本にも必要だろう。

アンドリュース州首相は、いったい何を狙っていたのだろうか。

それは実質的な連邦からの独立であったとしか考えられない。つまり、財政で連邦政府に依存せず、チャイナマネーでインフラを構築し、中国政府と直結してビクトリア州を実質的な独立国にしてしまおうと画策したのだろう。中国のサイレント・インベージョンに迎合したのだ。

このような地方自治体の暴走が日本で起こる可能性がある。辛うじて阻止されたが、武蔵野市の住民投票条例には注意が必要だ。これを許せば、次は参政権に繫がるだろう。

勘違いされては困るのは、住民の多様性と自治権は本質的に異なるということである。オーストラリアは白豪主義を捨て、多文化主義を国是として久しいが、前述のように、永住権を取っても参政権はない。

当たり前だ。正式にその国のメンバー(国民)になって初めて、自治権・参政権が得られるのである。

独立を目指す、川崎市の危険な動き

川崎市の動きも危険だ。川崎市はなんと政令指定都市では飽き足らず、特別自治市なるものになって神奈川県からの独立を目指すというのだ。そんなことが日本全国で起きたら収拾がつかなくなってしまうばかりか、サイレント・インベージョンの格好の標的となるだろう。

地方分権というと聞こえはいいが、地方の自立と独立は根本的に違う。地方が中央に依存せず、自立して存続できることは望ましいが、独立して勝手に行動し始めたら国の統治が乱れ、オーストラリアの例のように、安全保障上の問題に発展しかねない。

あくまでも国があり、国ができないことを県がやり、県ができないことを市町村が行う。その逆ではない。

安全保障を考慮せずに、徒に道州制への移行を目指す政党には要注意だ。グローバリストや共産主義者のビーチヘッド(上陸拠点)にされている可能性がある。

以上、安易に「多様性のある多民族社会」を目指して移民を増やせば大変なことになる、という話をした。さらにもう一点、言及したいことがある。それは、技能実習という建前で安価な労働者を導入しようとする発想は欺瞞であり、完全な時代遅れでもある、ということだ。

本来、技能実習制度とは、外国人が報酬を得ながら日本で技能を習得し、母国へ帰って役立ててもらうことを目的とする制度だが、単なる低賃金労働者導入制度に堕して久しい。

深刻な人手不足の解消が死活問題だというが、自国民がやりたがらないきつい仕事を外国人にやらせるという発想は、根本的に間違っている。

さらに、日本の経済人が理解していないのか、理解することを拒否しているのか不明だが、「発展途上国から豊かな日本に出稼ぎに来てもらう」という発想自体が、すでに時代遅れになりつつあるのである。失われた30年の間、日本と途上国間の格差はどんどん縮まっている。

もはや中国の人件費は以前ほど安くないし、生産技術も進化し、メイド・イン・チャイナも安かろう悪かろうではない。日本から学ぶものも多くあるわけではない。まだ人件費が安いベトナムでも、「日本に出稼ぎに行くのは自分たちの世代が最後だ」と囁かれているという。

「2度と日本へは行きたくない」

日本に来ても学ぶことがないばかりか、下手をすると奴隷労働を強いられてしまう。ベトナムへ帰国した実習生にアンケートを取っても2割程度しか回答がなく、「2度と日本へは行きたくない」というコメントがほとんどだという。

ブラジルからの日系実習生の言葉には胸が痛む。かつてブラジルに移民し、苦労して生活基盤を作った先祖から「日本は素晴らしい国だ」と聞いて来たら、とんでもない搾取の国だったので2度と来たくない、というのである。

1月6日、読売新聞によると、外国人技能実習生を企業などへ斡旋する監理団体のうち、30団体が法令違反によって許可が取り消されたが、その半数以上にあたる18団体は、国から「優良団体」との認定を受けていたことが分かった。それらの団体は、虚偽の監査報告書の提出や名義貸しなどの不正行為をしていた。

たとえば、塗装技術を学ぶはずだったベトナム人男性(32)が実際に斡旋された実習先では、アスベスト(石綿)の除去作業を指示され、体調を崩して退職した。

男性には渡航費用の借金50万円だけが残り、「日本に来なければよかった。実習生を大事にしてほしい」と嘆いているという。

こんなことを続けていれば、日本は人権を無視して外国人労働者を搾取する国だから、中国のウイグル人問題に関しても中国を批判できずに沈黙していると思われてしまうだろう。

やるべきことは2つある

実質的な移民解禁という愚策に走る前に、やるべきことは2つある。

まず、機械化を進めて単純労働への依存を低減すること。そして、技能実習と言いながら、実質は低賃金労働者の導入という姑息な本音と建前の使い分けをやめることだ。単純労働者が必要なら、正直に季節労働者制度を作ればよい。

オーストラリアとトンガの間にはそのような制度があり、トンガ人が半年契約などでオーストラリアの農場に出稼ぎに来る。半年間、家族と会えない寂しさを我慢してまとまったお金を持って帰国すると、家を建て替えたり、子どもを良い学校へ行かせたりして、生活の質向上に繫げている。

最初から始まりと終わりがはっきりした季節労働者制度と割り切り、厚遇してあげれば、ウィン&ウィンの関係を築くことができるだろう。

岸田政権が日本解体政権とならないように、国民の監視が絶対に必要だ。

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山岡鉄秀(Tetsuhide Yamaoka)

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