大谷翔平が学び、身につけた 目標設定よりも大事な『目標達成』の真意

花巻東高時代の大谷翔平【写真:花巻東高校提供】

花巻東・佐々木洋監督が明かす、高校時代の大谷は『世界最高のプレーヤーになる』と記していた

「もっともっと超えたい数字が、たくさんあります」――。二刀流としてシーズンを戦い抜き、投打に確かな結果を残したメジャー4年目の2021年を振り返り、エンゼルス・大谷翔平投手はそう語るのだ。彼の目には、どんな世界が映っているのだろうか。求める歩みや辿り着きたい場所、すなわち、彼が見つめる『目標』は我々の想像を常に超えていく。そして、その目標を達成するための思考と行動(実践)こそが、大谷自身をさらに高みへと押し上げていく。

【画像】熱心にカリキュラムの授業に取り組む高校時代の大谷翔平投手

「思考と行動の両輪を一緒に走らせていかないと、目的地(目標)には辿り着かないものだと思います」

大谷が高校3年間を過ごした花巻東の野球部監督である佐々木洋はそう語り、さらに言葉を加える。

「大谷は、たまたま二刀流をやっているのではなく、『二刀流をやろう』と明確に決めて進んでいます。メジャーでプレーすることも、たまたまそこに辿り着いたのではなく、高校の時から『メジャーへ行こう』と決めて、今こうしてプレーしています。高校時代の大谷は『世界最高のプレーヤーになる』と紙に書いていました。そこを目指して野球に打ち込んできた中で、昨シーズンのアメリカン・リーグのMVP獲得もあったのだと思います。要するに、目標とは設定するところから始まるのですが、大事なことは『目標を達成する』こと。目標に辿り着くために、管理や振り返り、そして実践していくことが、もっとも大切なことだと思います。大谷の根底には、そういった目標達成のノウハウが今でもしっかりとあるのだと思います」

大谷の思考の原点は、花巻東時代の取り組みにある。監督である佐々木洋は、チームの強化や個々の目標達成に向けて、さまざまアプローチを試みる指導者だ。目標達成のために何が必要か。たとえば経営教育に強みがある企業をリサーチし、野球部に落とし込める最善の取り組みはないか。そう模索し続ける佐々木洋が『アチーブメント』という会社と出会ったのが、大谷が在学中の時だった。

東京・江東区に本社を構える人材教育コンサルティング会社は2022年で創立35周年を迎え、ビジネスにおける個人と組織の目標達成を支援する研修やプログラムを経営者や社会人に提供している。その取り組みや、会社としての誠実な姿勢に感銘を受け、同社の協力の下で野球部に研修プログラムを導入した。

アチーブメントのカリキュラムに取り組む花巻東の生徒たち【写真:花巻東高校提供】

野球部だけでなく、今は花巻東全体に広がる共通意識に

今でこそ、チームスポーツにおけるマインド教育は増えてきたが、当時は独自でその取り組みを導入している高校、ひいては部活動は多くなかった。それだけに先進的な試みだったと言える。3年にわたって開催されたチームビルディング研修プログラムでは、部員1人ひとりの等身大の思いと向き合い、「なぜ日本一になりたいのか」という目標の明確化を推し進めるワークが行われた。

それは、実際にアチーブメント株式会社が社会人向けの研修で取り入れているワーク。多くの企業の業績向上を果たしてきた実績に裏付けられた内容だ。そのプログラムを通じて、野球部の選手たちの『目標達成』に向けた思考と行動は大きく変化していった。目標とは、それぞれに違うものだ。1人ひとりが将来的に社会に出た時に大切になる人間力を育む内容でもあった。大谷もまた、その研修プログラムを受け、自らの目標を達成するメソッドを身につけていった1人だった。

当時は野球部だけで取り組んでいたプログラムは今、花巻東高校全体に波及している。すべての生徒が目標達成の大切さを学び、その喜びを実感してほしいと考えた同校が、アチーブメントと連携して全校生徒を対象とした特別カリキュラムを取り入れたのが2019年。受動的な知識のインプット型の教育ではなく、生徒1人ひとりが自らの目標や夢を持ち、その実現のために主体的に日々の生活を送ることを大切にする考えを持つ花巻東は、『立志 夢実現』という言葉を掲げる。

『立志 夢実現プランナー』というオリジナル生徒手帳を作ったのも、特別カリキュラムの一環。高校生活のみならず、将来のビジョン、つまりは人生を見据えた長期的な視点から、3年間の高校生活を設計して目標を立て、日々の具体的な行動管理によって目標達成に導いていく内容になっている。単なる目標設定と、その管理ツールではない。それぞれに大切にしたい価値観や、目指す理想像などを整理しながら、それぞれの目標達成に向けて突き進む。そして、目標に辿り着き、その達成した経験から自らの強みを見い出す。オリジナル生徒手帳が果たす役割は、そういった側面もある。

メディアへの出演が少ないのは、自身の思考をコントロールしている証

目標達成とは、まさにテクノロジー(技術)だ。目標とは、辿り着きたいゴールである『目的』に向けて定めた指標である。自身の行動を方向づけていくものを目的とするならば、その目的をしっかりと持って実践することこそが大切なのだ。重要なのは、正しい実践(努力)。そのために必要なのが「やる気」であり、その感情を自分自身で管理することも大切である。

レギュラーシーズンを終えてからの大谷は、シーズンオフの間に体のケアと来シーズンに向けた技術の向上に努める。メディアへの出演が極端に少ないのは、自身の思考をコントロールし、明確な目的とやるべきことを実践している証でもある。

目指したい姿や場所に向かって、そのために必要なものを自らの行動に落とし込んでいく作業があってはじめて、目標を設定することにも意味合いが生まれるものだろう。つまりは、目標よりも大切なことは目的であり、その考えにつながる『目標達成』というワードにこそ、本物の価値がある。われわれ人間が唯一コントロールでき、人生において大切なその思考を、大谷は花巻東時代に学んだ。

メジャーを舞台に世界最高のプレーヤーを求め、常に目標達成の思考と行動を持って突き進んでいる大谷翔平には、今でも高校時代の学びが生き続いている。

【画像】熱心にカリキュラムの授業に取り組む高校時代の大谷翔平投手

熱心にカリキュラムの授業に取り組む高校時代の大谷翔平投手(右)【写真:花巻東高校提供】 signature

(佐々木亨 / Toru Sasaki)

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