コロナ禍の卒業

 高校教師であり歌人の千葉聡さんに、青春を詠んだ一首がある。〈コンビニまでペンだこのある者同士へんとつくりになって歩いた〉。横に並んだ「偏(へん)」と「旁(つくり)」、自分たちを2人で一つの漢字に見立てている▲例えば登下校の道で同級生と交わした、何げない会話。たわいもないふざけ合い。遠い遠い昔だが、高校生の頃の一場面が今もふと頭をよぎることがある▲友人との思い出だろうか、熱中した部活だろうか。おのおの光景を胸に刻んで、きのう多くの高校で卒業生が学びやを巣立った▲例年になく、この3年間には「我慢の日々」が強く刻まれている。1年生の終わりに新型コロナが広がり、2年前の今頃から長い一斉休校を経験した▲2年の時の県高総体は初めて中止になり、3年の時には体育祭や文化祭が中止や無観客になった学校もある。心に空白ができてしまった一方で、我慢やさみしさを分かち合い、自分が「偏」、誰かが「旁」となる友情もまた、育ったことだろう▲もう一首、千葉さんの作を。〈「Y」よりも「T」よりも「个(か)」になるくらい手を振り君を見送る空港〉。「Y」は手を高く上げる姿で、少し疲れて肩の高さの「T」になり、「个」は手を振りすぎて腕が上がらなくなっている。別れの時に手を振り合って「个」の字になる春が近い。(徹)

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