会社経営のプログラミング言語「会計」を物語で学ぼう|加藤弘之『ストーリーで分かる会計マインド入門』幻冬舎

ビジネス系書籍をアカデミズムの世界から紹介してくださるのは、福岡大学・商学部の飛田努准教授です。アントレプレナーシップを重視したプログラムなどで起業家精神を養う研究、講義を大切にされています。毎年更新されるゼミ生への課題図書リストを参考に、ビジネスマンに今読んで欲しい一冊を紹介していただきます。

今回は,私の専門分野でもある会計に関連して『ストーリーで分かる会計マインド入門』をご紹介します。

会計と聞くと数字の話なので嫌がる人,たくさんいるかもしれませんね。私が勤務する大学,学部でも会計学や簿記を学ぶ講義がありますが,必ずしも人気があるとは言えません(これは私自身のキャラクターにもよるかもしれませんが)。全国各地の先生方と話をしていても,「会計学は人気が…」と言われてしまいます。

しかし,多くの社会人の方が感じられているかもしれませんが,簿記や会計は社会人になって学んでおくべき大切な知識の1つと言えるでしょう。ただ,ここではあえて会計を「金勘定」を学ぶという言い方をしてみます。何をどれだけ仕入れて,人件費を支払って,いくらで売れば儲けが出るか。それで自分の生活が成り立つかどうか。わたしたちの生活にとって「金勘定」は切っても切れないものですよね。会社を経営する経営者だけでなく,働く従業員にとっても大切な知識,感覚。それが「金勘定」なのかもしれません。

本書ではそれを「会計マインド」という言葉で説明しています。「会計マインド」とは「数字をベースとした原因と結果の分析」のこと。本書の主人公は老舗和菓子屋で働く若手女性社員さくら。経営危機に陥った和菓子屋を「会計マインド」を学ぶことで再建に導いていきます。彼女は会計を学びながら,次のことに気づいていきます。

「今の白餅堂に足りないのは,投資と回収の意識,それに会計マインドを通じたコミュニケーションだったんだわ」

会社が生み出した成果を,価値を「貨幣的価値(金額)で測る」という言い方をすると無味乾燥に聞こえるかもしれません。しかし,これが健康診断や体重といった自分のカラダに関わることであればどうでしょう。急に体重が増えれば,検査で異常が出れば,気になりますよね。本書でも会計を知っておく意義を同じようなたとえで説明しています。

会計は会社をより良くする,自分の仕事の成果を目に見えるようにする,見えるからコミュニケーションや判断ができるとても大切な装置だとも言えます。また,過去情報を一定のルールで記述することで,過去だけでなく未来をどう形作りたいのかを数字で表すことのできる装置だとも言えます。

数字の裏側には人々の営みがある。その営みが貨幣的価値で記述されている。

これが会計を学ぶ意味だと言えるでしょう。本書を通じて「会計マインド」を身につけ,皆さんの日々の仕事がより豊かになることを祈念します。ぜひご一読ください。

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