2021年の「新語・流行語大賞」のトップ10に入った「ジェンダー(文化的・社会的性別)平等」。この潮流は近年、おもちゃにも波及し、性別にとらわれない商品が登場している。業界全体の意識も変化しつつあるようだ。(京都新聞・堤冬樹)
■「メルちゃん」に男児の友達、父親の育児参加が背景に
「本当に驚いた」と話すのは、今年30周年を迎えるお世話人形「メルちゃん」(パイロットコーポレーション)の担当者。パイロットコーポレーションは2016年に初めて名前付きの男の子人形「あおくん」を発売した。ブランドカラーはピンクで、それまで購入者の大半が女児だった。「男の子がピンクのパッケージを選ぶのは抵抗がある」との意見も参考に、あおくんの箱などを水色にした結果、男児ユーザーが15%に上った。
受け入れられた要因として、男性の育児参加の広がりも挙げる。「赤ちゃんを抱くお父さんの姿が日常的な光景になった。お世話遊びは『大人と同じことをしたい』とまねることが基本。お父さんが赤ちゃんをお世話しているのを見て、男の子もやってみたくなるのでは」と担当者。イメージ色が紫や緑のお友達人形や、性別にこだわらない着せ替え服の導入など、男女問わず遊べる環境を目指している。
■シルバニアファミリー「男女や職業のバランス、広告にも配慮」
ドールハウス「シルバニアファミリー」(エポック)の男児ユーザーも10年前より約5%増えて1割近くになった。車やキャンプシリーズの登場がきっかけで、エポックは「シルバニアファミリーの遊びの本質である『家族での暮らしを再現して遊ぶ』は本来ジェンダーニュートラル。人形の男女のバランスや、職業や性格を決める過程でジェンダーの偏見が生まれないよう意識している」。広告やカタログに女児だけでなく男児も起用するなど配慮を欠かさない。
■バンダイ「すべての子どもに楽しんでもらいたい」
バンダイが2019年に発売した男の子のお世話人形「ホルン」は、約4割が男児ユーザーだ。バンダイの担当者によると、保育園を視察した際、女児だけでなく男児もお世話遊びを楽しんでいることにあらためて気付いたという。
「お世話遊びは今も昔も、誰かを思いやる心をはぐくむのにとても大切。『ジェンダー平等』の言葉を特に意識した訳ではなく、すべての子どもに楽しんでもらいたいという姿勢は他の製品でも変わらない」としている。
■DIYしたかった女児「興味の幅広げてくれた」
工具系おもちゃは男児向けが多かったが、ピープルは2018年に女児向けに「ねじハピ」を発表した。電動ドライバーを使い、キラキラした箱や家を作り上げる。DIYブームが背景にあり「安全性を踏まえた上で、リアルさとかわいさのバランスを心掛けた。DIYをしたかった女児は想像より多く、目を輝かせて遊んでいたのが印象的」と開発担当の上原麻里衣さん。保護者からも「これまでなかった」「興味の幅を広げてくれた」と好評で、男児ユーザーもいる。
その一方で、上原さんは「おもちゃから性差を無くせばいいかと言うと、表面的な対応では逆に個性が失われかねない」とも。「ねじハピが支持されたのもかわいさを貫いた結果。子どもたちが求めるものをしっかり見極めることがより重要になる」と指摘する。
■「おもちゃ業界は間違っていた」
小学校では2020年度からプログラミング教育が必修化されたが、米国ではいち早く「科学・技術・工学・数学」の各分野を生かした「STEM教育」が、将来のキャリア選択も見据えて熱を帯びている。
デビー・スターリングさんは米国で、女児も工学に興味を持てるよう組み立て玩具を開発し、脚光を浴びたエンジニアだ。ネット配信されている「次世代の女性エンジニアに希望を」と題したTEDトークで、スターリングさんは「工学は女性に向いていないのでは」と悩んだ学生時代や、レゴブロックが男児のおもちゃだと思っていた幼少期の体験を交え、こう訴えた。「これまでおもちゃ業界は間違っていた。確かにお姫さまやティアラが好きな女の子もいるし、私も好きだけど、もっと他にも面白いことがある。可能性はたくさんある」
■「おもちゃに性別いるのかな」りゅうちぇるさんの問いかけ
おもちゃとジェンダーにまつわるメッセージの発信は国内でも。マテル・インターナショナルは2020年、SDGs(持続可能な開発目標)を体現し、育児への造詣も深いタレントのりゅうちぇる(現ryuchell)さんを起用し、商品キャンペーン「#おもちゃに性別いるのかな」を展開した。
りゅうちぇるさんは、写真共有アプリ「インスタグラム」でのライブ配信で、幼い頃のエピソードを紹介。クリスマスプレゼントにバービー人形が欲しかったのに、両親の顔色や周囲の雰囲気を感じ取り、興味のなかった顕微鏡を選んだという。「子どもは無言の圧力に気付きやすく、傷つきやすい」「自分を認めてもらうことは優しさにつながる」などとし、「保護者や大人が『おもちゃに性別いるのかな』と投げ掛け、考えるきっかけにしてほしい」と訴えた。
■性差の否定ではなく、選択肢の拡大
こうした動きの中、メーカーや小売りなどでつくる日本玩具協会は、2021年の日本おもちゃ大賞から「ボーイズ・トイ」「ガールズ・トイ」部門を廃止し、新たに「キャラクター・トイ」部門などを設けた。業界内でSDGsの目標「ジェンダー平等」への機運が高まっているため、という。
日本玩具協会は2019年に先進地の英国を視察した。津田博専務理事は「おもちゃ売り場でも男女の分類が撤廃されていたが、例えば女児向け玩具を求める高齢者への柔軟な接客など配慮や工夫も見られた」と振り返り、言葉にこう力を込めた。「性差の否定ではなく、性別による押し付けで選択肢の幅を狭めないことが大切。子どもたちが好きなものを選び個性を伸ばせるよう、業界として取り組みを進めていきたい」