イノカ、人工的に海洋環境を再現し真冬のサンゴ産卵に成功 保全活動の進展に成果

サンゴの産卵の様子

サンゴ礁を研究するイノカ(東京・港区)は2月18日、IoT技術を活用し人工的に海洋環境を再現した水槽内で、サンゴの産卵に成功したと発表した。同社は沖縄県の水温データをもとに、自然の海と4カ月ずらして四季を再現。日本では6月に観測されるサンゴの産卵を2月に実現した。研究が進めば、従来は年に一度の産卵時に限られていたサンゴの卵、幼生の研究がいつでも可能となり、保全活動や基礎研究の進展が期待できるという。(横田伸治)

イノカはこれまで、天然海水を使わず、水質・水温・水流・照明環境などを独自のIoTデバイスを用いて管理することで、任意の生態系を水槽内に再現する「環境移送技術」を開発してきた。今回産卵に成功したのは、温暖な浅い海に生息するエダコモンサンゴ。「人工海水を使用し、かつ本来の産卵時期ではない季節での産卵は世界初ではないか」と同社の高倉葉太CEOは話す。

サンゴの産卵に向けたプロジェクトは2019年のイノカ創業以来の悲願だが、同年は抱卵に成功したものの産卵が実現せず、2020年はサンゴの体調不良を引き起こしてしまうなど、生態が未知であることによる飼育の難しさを痛感してきた。

今回のプロジェクトでは、2019年12月から2020年6月までの沖縄県瀬底島の海水温データをもとに、2021年8月から、サンゴ水槽の環境を同島の12月の環境と同期。実際の季節と水槽内の季節を4カ月ずらした状態で飼育を続け、産卵成功にこぎつけた。

https://youtu.be/5VO7IvYh6Yo

イノカによると、サンゴ礁には海洋生物の約25%となる約9万3000種が生息し、護岸効果や漁場の提供、近年では医薬品開発への活用も期待されているという。しかし、気候変動による海水温の上昇により、今後20年でサンゴ礁の70~90%が死滅する可能性が指摘され、欧州を中心に、国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が環境破壊リスクを開示する仕組みづくりを始めるなど、気候変動に続き、生物多様性を重視する風潮が高まっている。

人工環境下での産卵が成功したことで、今後は時期によらずサンゴのライフサイクルの研究が可能となり、生態の基礎研究が大きく進み、サンゴ保全につながるという。高倉CEOは「研究機関ではなくベンチャーが成功させたことに意味がある。初心に帰り、事業拡大の中でサンゴの研究に貢献していきたい」と手ごたえを語った。

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