ビッグデータを活用し食料システムに変革を起こす米スタートアップ ユニリーバなどとも連携

IMAGE: JOURNEY FOODS

ビッグデータを活用し、食品の開発から市場投入にいたるまでを支援するソフトウェア会社ジャーニーフーズ(米テキサス・オースティン)は、一つの食品からフードシステム全体に革命的な変化を起こすことを目指している。同社が抱える数百万もの食品と食材に関する170億以上のデータポイントを活用することで、世界中の食品企業が製品開発から市場に流通するまでのライフサイクル全体を最適化することが可能だ。米サステナブル・ブランドが取材した。

起業家で同社CEOの リアナ・リン氏 は食品業界に存在する多くの問題に対してさまざまな形でアプローチをしている。その取り組みで最も興味深い点は、既にあるものとテクノロジーを連携させて即座に問題を解決しようとする彼女の意志かもしれない。

リンCEOは、米サステナブル・ブランドの取材に「既存のフードシステムはあまりにも悲惨な状況です。巨大企業によって食品産業は支配されてきました。過去150年にわたって、農業は人々の食と味覚を支配してきたのです」と語った。

食品開発とフードシステム改革のためのポートフォリオ・インテリジェンスやライフサイクル・マネジメントに特化したソフトウェア企業ジャーニーフーズ(Journey Foods)は、科学者やイノベーター、食への関心が高いフード・ラバー、製品の普及と事業の成長を担うグロース・デザイナーが結集し2019年に設立された。同社はAIや物流など多方面からアプローチをすることで、フードシステムにイノベーションを起こすことを目指している。

米テキサス州オースティンを拠点とする同社は、あらゆる規模の食品企業の製品開発から市場流通までのライフサイクル全般を最適化するためのサポートをする。例えば、原料が環境にもたらす影響から生産工程にかかるコストの非効率性と廃棄までのすべてを理解するために、さらにそのプロセス全体を改善する機会を与えるための、特徴的なプラットフォーム機能を備えている。

食の未来を考える

リンCEOは、現行の食料栽培や生産方法、とりわけ100年前には食べられていなかった新しい種類の食品の消費が、気候変動や糖尿病、メンタルヘルス問題の主な原因と直結していると指摘している。パンデミックによる食品の在庫バランスの崩れなど、グローバルサプライチェーン全体で発生している課題への対応が求められている一方で、彼女は、そうした社会的課題が、大手食品企業が影響力のある意思決定を下していくために必要で、さらに実用的なデータベースをつくる原動力になったという。

「インパクトをもたらすためには『アクションの起こしやすさ』を重視する必要があります。簡単にしないければ3兆円の産業は回りません。まず考えるべきことは、『何を』『どのように』やるかです。サプライチェーンとコストを考えるのはその次のステップです」

ユニリーバなどもデータを活用

ビッグデータは現代の人々の生活様式を大きく変える力を持っており、ビッグデータが溜まっている今が食産業を変革する最大のチャンスだ。ジャーニーフーズは設立以来、200万以上の食品やレシピ、食材をスキャンし、合計で170億以上のデータポイントを取得した。ジャーニーフーズのプラットフォームを利用する企業にとって、これらのデータポイントは製品開発を裏付けるための指標となる。

さらに、今後も増え続けるデータをAIに読み込ませ機械学習させることで、このプラットフォームを通して食品科学とサプライチェーンの非効率性を解決するだけでなく、食品企業が地球環境に配慮した方法で効率よく製品を生産する新たな手法を世の中に広めることもできる。また、製品開発の過程で行われる試験の回数を最小限に抑えることで、時間も大幅に短縮できる。例えば、ユニリーバはジャーニーフーズと連携して、環境への影響を軽減しながらより健康に焦点をあてた製品のコストを9%削減。通常の製品よりも47%短い期間で商品を市場に投入することに成功した。

その他の事例:

●チョコレートを製造するグローバル企業は、食品に含まれる非天然の添加物や油脂を改善したいと考え、代替原料にかかるコスト増を避けられる3つの代替原料を探していた。そこでジャーニーフーズは独自のプラットフォームを活用して、コストと食感の機能性という面で条件に合う原料を探し出し、試験的に調達した。

●大手クッキーメーカーは、低水分の小麦粉を使用したグルテンフリークッキーの全国販売を検討していた。ジャーニーフーズは、まず味と食感のパラメータで選別した後、手に入りやすく最適な低水分使用の代替品を提案した。

●グローバルに製品を展開する日本の大手企業は、水と砂糖の量を減らしながら、規制値を満たす新しいパッケージを使った新たなコーヒー製品の発売を計画していた。ジャーニーフーズは、国ごとの最新の栄養成分の配合を識別する支援をした。

●植物由来のコーヒーミルクを開発中のスタートアップ企業は、ジャーニーフーズのデータを利用して、グリセミック・インデックス(食後血糖値の上昇を示す指標)とコストに基づいた原材料のマッチングを行った。

リンCEOが率いるチームは、ビッグデータを大手食品企業のための実用的な使用事例に変換し、既存の技術プラットフォームに統合して、新しい製品の開発や改良に役立てている。

未来の食品業界で働く人たちに力を与える

ジャーニーフーズの取り組みの一つであるジャーニーラボ・イニシアティブは、全国の学生に食品データを取り扱う権限を与えるだけではなく、この分野において学生自身が自分の専門性を見つけられるような機会の提供もおこなっている。ジャーニーラボで学生が取り組んでいる研究が彼らの明日の仕事につながることを目指している。

リン氏は「データと分析のコーディングは最低限必要なスキル」とし、「食品の自然な需要、消費者の行動変容、そしてデータは、食品業界で将来働くフードワーカーを訓練する過程において中核をなすことは間違いないでしょう。私たちは近い将来に80億人を養わなければいけなくなり、そうした状況になった時にはかなりの混乱が起きてしまいます」と語る。

同イニシアティブは、歴史的に黒人の多い大学(HBCU)やコロンビア大学、コーネル大学などのレガシースクールなども含むさまざまな大学生を繋ぎ、データを用いて、食の未来を定義する後押しをするものだ。

リンCEOは、多様で意欲的な人材を育成することが、食の次のフロンティアを成功させ、持続させるカギであるという。ジャーニーラボのようなプログラムは、こうした機会を前面に押し出しており、例えば、コロンビア大学とのパートナーシップは、3Dプリントされた新しい食品の生産につながる可能性を秘めている。その他にも、ジャーニーラボは初期段階の企業や創業者に対して成長を助ける重要なデータツールへのアクセスを提供する予定だ。

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