3年ぶりに開催、特別な「静岡ダービー」 若い清水が内容の濃い試合を制す

J1 磐田―清水 前半、先制ゴールを決め喜ぶ鈴木唯(中央)ら清水イレブン=静岡

 赤と黒のユニホームのフリット、ファンバステン、ライカールト。一方、青と黒はマテウス、クリンスマン、ブレーメ。1988年欧州選手権王者のオランダと1990年W杯優勝の西ドイツ(当時)の主力がミラノのライバルチームに分かれて激突した試合を、1990年のクリスマスが迫った時期に「サンシーロ」で観戦した。このインテル・ミラノ対ACミランが筆者にとって初めての「ダービー」体験。当時、世界でも最高のカードだった。

 ミラノの象徴、大聖堂の近くにACミランの公式ショップがあった。ショーウインドーがとても美しい店だ。ところが朝に通りかかると、いつもガラスが汚れている。掃除する店員に聞くと、夜の間にライバルであるインテルのサポーターが唾をはきかけていくそうだ。「ダービー」を戦うライバル関係というのは、そんなレベルまで敵対するものなのかと妙に納得した覚えがある。

 今では日本にも多くの「ダービー」が存在するようになった。その中で個人的にはライバル心やサッカー文化の土壌を考えると「静岡ダービー」が、その名に一番ふさわしいと考えている。そのジュビロ磐田対清水エスパルスの一戦がJ1で3年ぶりに復活した。

 2月26日にエコパで行われた第2節。伊藤彰監督を迎え、つなぐサッカーを志向する磐田が開始からペースを握ったように思えた。ただ、サッカーの局面は一瞬にして変わる。それが開始9分の場面だった。

 磐田は最終ラインの選手も含め、ほぼ全員が清水の陣内に入って攻め込んでいる状態だった。圧倒しているようだが、見方を変えると最終ラインの後方には広大なスペースを空けているともいえた。そのスペースを清水に突かれ、手痛いカウンターを決められた。

 きっかけは磐田が横パスを引っかけられたことだ。こぼれ球に清水の神谷優太がいち早く反応。鈴木唯人の前方にスルーパスを送った。前方を向いてスタートを切った鈴木唯に対し、磐田の最終ラインにいた山本義道は入れ替わる形になった。ターンしてから追いかけるが、追い付けるはずがない。鈴木唯はゴール正面までドリブルで持ち込むと、狙い澄ました右足シュートでボールをゴール右にたたき込んだ。

 今年1月には日本代表に初選出された20歳。スピードとテクニックを併せ持ったアタッカーは一見の価値がある。特に相手を抜ききってしまうドリブルは、J1屈指のドリブラーといわれた三笘薫とも違うリズムを持ち、大きな武器だ。ドリブルからのパスも出せ、シュートも狙える。シュートの決定率がもう少し高まると、日本版のクリスティアノ・ロナルドになる可能性は十分にあるだろう。

 攻め込みながらも先制点を許した磐田が、素晴らしいゴールで同点にする。前半23分、センターライン付近にいた大井健太郎がフリーでボールを持つ。ペナルティーエリア内の右、鈴木雄斗の走り込んだ場所に狙い澄ました浮き球のロングパスを送る。これに体を投げ出すように鈴木は右足を伸ばした。ハーフバウンドでミートされたボールは、ポジションを前に取ったGKの頭上をふわりと越える同点のシュートとなった。

 J1に復帰した磐田に対し、なんとかJ1に残留した清水。この点から考えれば、下位チーム同士の対戦ともいえるが、どちらもとてもアグレッシブで積極的にゴールを狙う。磐田の三浦龍輝、清水の権田修一。両チームのGKの活躍がなかったら、もう少しゴールが生まれてもおかしくなかった。

 試合内容を反映してか、決勝点もダイナミックな展開からのゴールだった。またも鮮やかなカウンター。後半22分、相手のパスをインターセプトした縦パスが前線に入る。同時に清水の数多くの選手が反応した。右の鈴木唯から中央の神谷、そして左サイドの中山克広に渡ったボール。ペナルティーエリアの左手前あたりで中山がボールを持ったとき、味方の選手3人がペナルティーエリアに走り込んだ。さらに後方から2人が駆け上がる。中山は仲間をうまくおとりに使った。

 「あのシーンは瑛ちゃん(片山瑛一)が良いランニングでコースをあけてくれたので」。首を振って味方を見る視線のフェイントから一歩カットイン。右足インサイドの巻くシュートでゴール右隅にボールを送り込んだ。

 内容も濃い好試合。ただ、少し後味が悪かったのは磐田に2人の退場者が出たから。後半29分、前半に1枚イエローカードをもらっていた山本義が2枚目のカードをもらって退場になった。あそこでスライディングをする必要があったのだろうか。さらに後半33分に乱暴な行為で一発退場となったファビアン・ゴンザレスは論外だろう。その意味で磐田は好試合を自らぶちこわした形になってしまった。

 3年ぶりに復活した伝統の「ダービー」は、清水が2―1の勝利を収めた。鈴木唯の言葉が新鮮だった。「ダービーをやったことがある選手が多くなくて、どのような形になるのかあまり聞けなかったのですが、いつもと違った独特の雰囲気を感じた」。その雰囲気の中で、特別な試合として「ダービー」の歴史を大切に育てていってもらいたい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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