2017年に初観測された「キロノバ」X線の減衰が2020年にストップ。原因は衝撃波かブラックホール?

【▲ キロノバ発生後の様子を描いた想像図(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)】

ノースウェスタン大学のAprajita Hajelaさんを筆頭とする研究グループは、2017年に史上初めて「キロノバ」が検出された中性子星どうしの合体に関して、新たな研究成果を発表しました。研究グループによると、合体にともなうX線放射はその後弱まり続けていたものの、2020年に減衰が止まった様子が観測されており、その理由として「合体にともなう衝撃波」あるいは「合体によって誕生したブラックホール」が考えられるといいます。

■X線放射の減衰がストップ。衝撃波もしくはブラックホールの活動が影響か

【▲ レンズ状銀河「NGC 4993」の画像に、2017年8月22日・26日・28日に撮影されたキロノバの残光(アフターグロー)を重ねたもの(Credit: NASA and ESA. Acknowledgment: A.J. Levan (U. Warwick), N.R. Tanvir (U. Leicester), and A. Fruchter and O. Fox (STScI))】

2017年8月17日、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」と欧州の重力波望遠鏡「Virgo」は、「うみへび座」の方向約1億3000万光年先にあるレンズ状銀河「NGC 4993」で発生した重力波「GW170817」を検出。その方向を地上や宇宙から観測した結果、合体した中性子星の連星で発生することが理論上予測されていた電磁波の放射現象「キロノバ」が史上初めて検出されるに至りました。

中性子星どうしが合体すると、「r過程(rプロセス)」と呼ばれる元素合成のプロセスが引き起こされると考えられています。このプロセスでは、金・プラチナ・ウランといった、恒星内部の核融合反応では生み出されない鉄よりも重い様々な元素が生成されます。この時に生成された放射性元素が崩壊時に可視光線赤外線を放射することで、キロノバとして観測されると予想されていたのです。GW170817では重力波検出から数時間後、実際に可視光線と赤外線の放射が捉えられました。

いっぽう、X線での見え方は異なっていたといいます。アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「チャンドラ」を運用するチャンドラX線センターによると、GW170817からのX線は重力波検出から2~3日後の段階では検出されず、9日後の8月26日に初めて検出されました。

GW170817では中性子星どうしの合体にともなって高エネルギー粒子の細く絞られたジェットが放出されたものの、人類はこのジェットを横方向から観測しているために、当初はジェットからのX線が検出できなかったと考えられています。やがてジェット内部の物質が周辺の物質と衝突・減速し、ジェットの円錐形状が広がり始めたことで、X線が検出されるようになったとみられています。その後もジェットが減速・拡大し続けたことで、GW170817から届くX線は減衰し続けました。

【▲ 中性子星どうしの合体で誕生した可能性があるブラックホールのイラスト。ブラックホールへ落下する物質が形成した降着円盤や、高エネルギー粒子のジェットが描かれている(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)】

ところがHajelaさんたちは、ある重要な手がかりを得ることになりました。GW170817から放射されたX線の減衰が止まり、2020年3月~2020年の終わりにかけてX線の輝度がほぼ一定であることに気付いたのです。研究に参加したカリフォルニア大学バークレー校のRaffaella Marguttiさんは「ジェット以外の何かがX線で検出されているという、これまでで最良の証拠です」と語ります。「私たちの観測を説明するには、全く異なるX線の発生源が必要なようです」(Marguttiさん)

X線の減衰が止まった理由について、研究グループでは2つの可能性を考えています。1つは中性子星どうしの合体にともなって発生した衝撃波です。合体にともなう衝撃波周辺の物質を加熱し、加熱された物質からX線が放射されると考えられています。

もう1つはブラックホールです。GW170817では中性子星どうしの合体後にブラックホールが誕生した可能性があります。ブラックホールに引き寄せられた物質は薄い降着円盤を形成し、らせん状に落下していきます。この過程で重力エネルギーが解放されることで、降着円盤からはX線をはじめ様々な波長の電磁波が放射されると考えられています。

つまり、「衝撃波に加熱された物質から放射されたX線」あるいは「ブラックホールの降着円盤から放射されたX線」のどちらかが、観測されるGW170817のX線輝度を一定に保っているのではないかというわけです。研究に参加したカリフォルニア大学バークレー校のJoe Brightさんは、どちらが理由であっても「非常に心躍ります」と語っています。

【▲ チャンドラがX線で検出したGW170817(疑似カラー)(Credit: NASA/CXC/Northwestern Univ./A. Hajela et al.)】

同じく研究に参加したノースウェスタン大学のKate Alexanderさんによると、衝撃波にともなうX線であれば、合体後ただちにブラックホールが形成されることはなかったことを意味するといいます。また、ブラックホールの活動にともなうX線であれば、誕生から数年後のブラックホールへどのように物質が落下するのかを研究する機会が得られるといいます。

チャンドラX線センターによると、衝撃波あるいはブラックホールの活動による影響を区別するにはX線と電波での観測が必要です。衝撃波の影響だった場合は時間が経つにつれて電波放射が強くなるため、今後数か月から数年で再び電波が検出されると予想されています。いっぽう、ブラックホールの活動だった場合はX線輝度が一定または急速に暗くなり、時間が経っても電波は検出されないと予想されています。

なお、研究グループは2021年12月にもチャンドラでGW170817を観測しており、現在その分析が進められていますが、今のところ関連する電波の検出は報告されていないとのこと。衝撃波とブラックホールのどちらがX線放射に関わっているのか、その謎を解くにはまだ少し時間がかかりそうです。

関連:キロノバと同時発生するガンマ線バーストが宇宙の距離測定に利用できるかもしれない

Source

  • Image Credit: NASA/CXC/M.Weiss, Northwestern Univ., A. Hajela et al.
  • Chandra X-ray Center \- The Unfolding Story of a Kilonova Told in X-rays
  • Northwestern University \- Kilonova afterglow potentially spotted for first time

文/松村武宏

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