UCC、コーヒー豆の水素焙煎に挑戦 2040年までにカーボンニュートラルなコーヒーを製造へ

UCC上島珈琲(神戸市)は2日、山梨県笛吹市に新設する工場で、水素を熱源としたコーヒー焙煎を可能にするための技術開発に取り組むことを明らかにした。同県などをパートナーとする官民・業界の垣根を超えた取り組みで、2040年には太陽光や水力など100%再生可能エネルギーを活用したグリーン水素のみを熱源とするよう開発を進める。コーヒーの焙煎はLNG(液体天然ガス)などの化石燃料が一般的で、グリーン水素での焙煎が実現すれば食品加工分野の脱炭素化の実現に向けて大きな一歩となるという。(廣末智子)

新工場「UCC山梨焙煎所」は、同社子会社の工場跡に建設。敷地面積は約3万4800平方メートルで、最新鋭の設備導入やAIの活用を通じてさらなる生産工程の自動化を進める。総事業費は約143億円に上る見込み。竣工は2024年上期の予定で、新工場の稼働後は富士工場(静岡県)と北関東工場(埼玉県)を閉鎖し、機能を集約する。

同社によると、コーヒー焙煎の熱源は一般的にLNGなどの化石燃料が使用されるが、新工場では、水の電気分解から生まれる「グリーン水素」を熱源とする小型・中型の焙煎機を開発する。工場の屋根には太陽光パネルを設置し、同県で主力の水力発電と合わせて活用することで、CO2フリーの熱源とする考えだ。まずはテスト機を導入して自家製水素の生成・貯蔵を行いつつ、調達水素も加えながら徐々に水素の構成を高める形で最適なエネルギーミックスを図る。なお調達水素については「必ずしもグリーン水素だけとはならない」としている。

その上で2023年には水素焙煎機を実用化し、そこから将来に向けて焙煎の熱源を完全にグリーン水素へとシフトさせる計画で、2040年には同工場においてスコープ1・2における温室効果ガスを100%削減し、「カーボンニュートラルなコーヒー製造の実現を目指す」という。

水素焙煎機の開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の採択を受け、山梨県(企業局)と東京電力エナジーパートナー、巴商会、東レとともに、電化が困難な産業部門の脱炭素化を目指すエネルギーネットワーク「やまなしモデル」の事業の一環として実施。大規模な水素製造拠点として周辺地域への水素供給システムを構築するための社会実装としての意味合いも大きい。

この日開かれたオンライン会見で同社の里見陵副社長は、「水素を熱源にコーヒー焙煎を実用化している例は世界でも聞かれず、技術的なハードルは高いが、業界最大手の企業として脱炭素に先陣を切って取り組むことを決めた。日照時間がトップクラスで、水力が調達しやすい環境にある山梨は地の利が非常に大きいと考える。焙煎は繊細な工程であり、味や香りをどう抽出するかといった面は正直これからの課題となるが、ガスで焙煎する以上の美味しいコーヒーを製造し、消費者に脱炭素社会への取り組みの意義とともに新しい水素焙煎コーヒーの味をアピールしたい」と意欲を語った。

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