<社説>ロシアの原発攻撃 人類を危険にさらす暴挙

 ウクライナのザポロジエ原子力発電所がロシア軍により「制圧」された。砲撃により周辺施設で火災が発生した。現時点で原子炉などに損傷はないようだが、史上初めて原発に戦火が及ぶという恐るべき事態が起きている。 地球規模の被害になりかねず、ジュネーブ条約でも攻撃対象としてはならないとされている原発を戦闘に巻き込むことは言語道断だ。ロシアは直ちに原発攻撃とウクライナへの軍事侵攻を中止せよ。

 ウクライナでは4カ所15基の原発が稼働しており、同国の電力の半分が原発から供給されている。ザポロジエ原発は同国最大の6基の原子炉がある。ロシアは、原発を管理下に置き電力供給を支配しようとしているのだろう。

 ザポロジエ原発では従業員らがバリケードを築いて抵抗しようとしていた。そこへロシアは戦車部隊を投入して突破したようだ。

 ロシア軍はウクライナへの侵攻開始から間もなくチェルノブイリ原発を占拠した。1986年に史上最悪の原発事故を起こした同原発は現在、セメントの「石棺」に覆われ、廃炉作業が続いている。メルトダウンを起こした核燃料もそのままだ。

 2月25日に占拠を発表したロシア国防省報道官は、敷地内に貯蔵されている放射性廃棄物がテロ組織などに渡ることを防ぐのが目的だと強調した。一時的な放射線量の上昇は、ロシア軍車両によって汚染土壌が飛散したためとされている。ロシア軍兵士らが被ばくした可能性がある。

 国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長はザポロジエ原発が砲撃され火災が発生したという報道を受け、深刻な危険が生じるとして攻撃停止を訴えた。IAEAは3日、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、ウクライナの原子力施設をウクライナに管理させるよう求める決議を可決した。理事国35カ国中26カ国が賛成し、ロシア、中国が反対、インドなど5カ国が棄権、2カ国が欠席した。

 戦争状態の中では、原発の運転はこれまでの作業員が当たるしかない。原発は、人為的ミスや故障によって深刻な事態になり得る。戦闘や制圧の結果、何が起こるか分からない。もし原子炉が爆発するようなことになれば、チェルノブイリを超える甚大な被害になりかねない。

 ロシア軍の攻撃で軍事施設のない民間地域でも大きな被害が出ている。住民保護を規定したジュネーブ条約違反は明白だ。国連総会は、ロシアを非難しウクライナからの無条件での即時撤退を求める決議を賛成141の圧倒的多数で採択した。反対はロシアを含め5カ国にとどまり、孤立が浮き彫りになった。

 ロシアのプーチン大統領は戦闘を続行する姿勢を崩していない。ロシアはこれ以上ウクライナの人々も世界も危険にさらしてはならない。直ちに停戦すべきだ。

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