夜空を見上げる小泉今日子「夜明けのMEW」から溢れ出る少女感  小泉今日子 デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー!

小泉今日子に親近感を覚える「夜明けのMEW」

私のなかで、小泉今日子のイメージはずっと “未確認飛行物体”。空を越えて、ララ星の彼方! 実際、UFOが瞬間移動しながら空を飛んでいくように、キョンキョンは小さな体でバブル期のカルチャーシーンを飛び回っていた。

特に1983年から86年の彼女は、ボーダーラインなんて存在しないイメージ。「まっ赤な女の子」で自ら髪を刈り上げ、奇抜な衣装で「なんてったってアイドル」をシャウトし。様々なクリエイター陣がこぞって彼女の個性に乗っかり、尖った作品を作り上げていた。

しかも、どんなヘンなことをしても、キョンキョンの凛とした個性は揺るがない。ただ、尊敬と同時に「私の16才」「ひとり街角」など、初期のアイドル性が高い楽曲が好きだった私は、段々遠い人になっていく寂しさもあった。

スゴいよ。スゴいけど、ちょっと追いつけないよキョンキョン……!

そんな彼女がふっと地上に降りてきて、こちらに寄り添ってくれた気がしたのが「The Stardust Memory」「魔女」、そして「夜明けのMEW」である。特に「夜明けのMEW」は、「なんてったってアイドル」「100%男女交際」という跳ねた楽曲を挟んだあとが続いたあとだったので、余計に沁みた。

ああ、キョンキョンの声はやっぱりやさしい。好きだなあ……!

“MEW” ってなんだ? 映画「子猫物語」の主題歌になる予定… だった

当時は何気なく聴いていたけど、“MEW” はなんなのか? なるほど、猫の鳴き声にヒントを得た言葉らしい。1986年に公開された、畑正憲監督・脚本の映画『子猫物語』の主題歌になる予定だったという。結局主題歌は吉永敬子「子猫物語」になり、小泉今日子は詩の朗読を担当した。私も観た覚えが…! チャトランを思い出す。

そういう経緯があった曲だとしても、“NYA(ニャー)” ではなく “MEW(ミュー)” という音が出てくるのが本当に素晴らしい。子猫の小ささも思わせるし、女の子の、思わず口から洩れた泣き声も重ねて想像でき、胸が切なくなる。作詞は秋元康氏だが、当時おニャン子全盛期で恐ろしく忙しかったはず。そんななか、このクオリティ維持……。やっぱり天才だ。

歌い出しの「夜明けのMEW 君が泣いた」の「MEW……」というキョンキョンの声は悶えるほどセンチメンタル。歌の舞台は真夜中から朝にかけて、ベッドの上。とても短い時間、とても狭いスペースの描写ではあるが、その夏に起こったいろんな出来事や2人の後悔が見えてくるようだ。

武部聡志によるアレンジも素晴らしく、私はこんなに雨粒みたいな柔らかさを持つシンセサイザーの音を他に知らない。

ちなみにこの歌と同時期、1986年にヒットした夏うたはTUBEの「シーズン・イン・ザ・サン」、KUWATA BANDの「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」、1986オメガトライブの「君は1000%」「Super Chance」、杉山清貴「さよならのオーシャン」など。凄まじいほど豊作の年! そんななか、「夜明けのMEW」は14週チャートインするロングヒットとなっている。

小泉今日子の声の魅力は “ガールズ・ネクストドア(隣のお姉さん)”

2016年に発行された『MEKURU Vol.07』(ギャンビット パブリッシング)のインタビューで、“青春時代歌っていた歌” について、

「今振り返ると素敵な曲ばかりなんだけど、ちょっと奇をてらった曲が多かったから『またふざけたタイトルだなあ』とか『聖子ちゃんみたいな曲も歌いたいぜ』みたいな気持ちもあったよね(笑)」

… とあって、本当に驚いた。私はずっと彼女が、正統派アイドルの世界観が照れくさくて、自ら時代をぶっ壊しにかかっていると思いこんでいたから。

多分、彼女のいう “奇をてらった楽曲” の最たるものは「なんてったってアイドル」だったと想像する。だからこそ、その「なんてったって~」を作った秋元康・筒美京平コンビから、今までのシングルにないメロウな「夜明けのMEW」を与えられたのは、キョンキョンにとって大きな意味を持ったに違いない。

実際、彼女もラジオ番組で、

「「夜明けのMEW」を歌えたことは嬉しかった」

… と話している。

糸井重里氏は、彼女の声の魅力について「ガールズ・ネクストドア(隣のお姉さん)」と答えている。確かに、ミディアムな曲を歌うとき溢れ出るのは、夜空を見上げるような少女感。

キョンキョンは未確認飛行物体などではなかった。ずっとその声は横にいたのだな、と「夜明けのMEW」を聴いて、しみじみと思う。

カタリベ: 田中稲

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