原発を攻撃

 殴り合いを続ける子を「素手はいいけど、バットを持ち出すのはやめなさい」と諭すのは、明らかにピントがずれている。真っ先に止めなければならないのは、目の前の殴り合いだ▲戦争でも“やっていいこと”と“いけないこと”がある-という論法は矛盾に満ちている気がしてならない。戦争そのものをなくすことができない人間の愚かさや無力を象徴している気がしてならない▲だが、だからといって「暴挙」のさなかに行われた「新たな暴挙」を見過ごすわけにはいかない。ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍が稼働中の原子力発電所を攻撃、制圧した。6基の原子炉を備える欧州最大級の施設という▲「ロシア軍はあらゆる方向から発砲している。既に火災が発生している」「爆発すればチェルノブイリの10倍の被害になる」-ウクライナの外相はツイッターで訴えた。核の惨禍を知る国の悲鳴だ▲岸田文雄首相は原発への攻撃を「最も強い言葉で非難する」と述べた。暴挙、蛮行、狂気の沙汰…どんなに言葉を重ねても、核施設を人質に取る行為の危うさと卑劣さには到底足りない▲最も強い言葉-長崎の被爆者団体のリーダーがかつて、ある国の核実験に対する抗議の場でこう叫んだのを思い出す。「地球から出て行け」。あの大統領に聞かせたい。(智)


© 株式会社長崎新聞社