Zeshin Onomichi(ぜしん おのみち) ~ タイの魅力を伝えたい!タイ料理と雑貨に癒されるお庭カフェ

ほほ笑みの国、敬虔(けいけん)な仏教国、親日国として知られるタイ王国。

日本と同じお米文化の国で生まれたタイ料理には、蒸し暑い土地で元気に過ごすための知恵がいっぱいにつまっているといわれています。

尾道市防地町で親子が経営する小さなカフェ「Zeshin Onomichi」には、本場のレシピでていねいに作られるタイ料理をはじめ、ココナッツシュガー、竹細工など、タイの魅力がいっぱいです。

日常から少し離れ、タイの空気を感じに訪れてみませんか。

お庭カフェ

好きなタイのことをもっと知ってほしい、タイのことを伝えたい。

その思いで2021年10月にオープンしたのが、お庭カフェ「Zeshin Onomichi」(以降:Zeshin)です。

タイで5年半暮らした経験を持つ、代表の鳥内 美邦(とりうち みな)さんと、お母さん、妹さんの3人で切り盛りしています。

フードメニュー

タイのレシピで作られている料理は、グリーンカレーカオマンガイガパオライスパッタイの4種類。

美邦さんが一番好きなタイ料理だという、グリーンカレーを注文しました。

まず運ばれてきたのは、お母さん手作りの前菜です。

庭で採れたきんかんや、畑で育った野菜などを使った和風の前菜は、実家に帰ってきたような気分になる、優しいほっとする味。

添えられた水には、ゆずのスライスが浮かんでいます。

昭和レトロなグラスと、爽やかなゆずの香りに癒される水でした。

続いて出てきたのは、サラダとスープ。

大根と人参のサラダは、シャキシャキと心地よい食感です。

チキンスープは、なんだかほんのりと不思議な風味。

「実は、タイではパクチーの根を一緒に煮込んで風味付けをするんですよ。
タイではむしろ、パクチーは葉っぱよりも根っこのほうをよく使います」

という美邦さんの説明にうなずきました。

いよいよグリーンカレーの登場です。

食べ方は?と尋ねると、ご飯にカレーをかけても、ご飯をカレーに浸しても、別々に食べても、どんな食べ方でもよいとのこと。

粘り気の少ないあっさりとしたタイのお米は、カレーとの相性が抜群です。

具だくさんのグリーンカレーには、鶏肉、たけのこ、ナスが入っています。

夏には畑で育てたタイのナスを、冬は普通の長なすの皮をむいて使用しているそうです。

グリーンカレーは、パクチーやレモングラス、青唐辛子などの自然なハーブの色を生かしたカレー

ココナッツミルクを使うこともタイのカレーの特徴で、浮いているのはココナッツミルクから分離させた自然のオイルです。

正直に言うと筆者はココナッツの独特の香りが少し苦手なのですが、このグリーンカレーはココナッツ臭があまりしません。

それよりも、ハーブの香りがしっかりと感じられます。

グリーンカレーのおいしさを初めて味わうことができました!

デザートメニュー

デザートは、ココナッツシュガーブレッドココナッツミルクゼリーの2種類です。

デザートに付いてくるヨーグルトには、ココナッツシュガー自家製蜂蜜のどちらを添えるか選べます。

蜂蜜も気になるところですが、ここはやはりココナッツシュガーで。

コーヒーはタイとエチオピアの2種類の豆から、タイのコーヒーをお願いしました。

見てください、このココナッツミルクゼリーの美しさを!

グラデーションの色合いが美しいだけではありません。

花びらの1枚1枚、筋の1本1本まで繊細に象られたこの形の見事さときたら!

本当にこれがゼリーなのでしょうか。

ためらいながらスプーンを入れると、すっと切り取ることができました。

くどさのない、それでいてしみじみとした甘みが口の中に広がります。

本当にゼリーです。

天然色素であるビーツやクチナシを使って色をつけ、シリコン型に流してこの形を作るとのこと。

水切りヨーグルトに添えられたココナッツシュガーは、ココナッツ特有の香りはなく、やさしい甘みが濃縮した天上の食べ物のようです。

ココナッツバターで作ったココナッツチョコレートは、シリアルとナッツ入り。

バリから輸入したカカオニブ(カカオ豆を焙煎して砕いたもの)をトッピングしています。

かつて、貧しかったタイ北部の人々は、現金収入を得るためにアヘンの材料となるケシを栽培していました。

タイから麻薬をなくそうと1988年からタイ王室が進めたのが、ケシの花のかわりにコーヒーを植えるプロジェクトです。

フェアトレード・有機JASなど、自然や社会に配慮したコーヒー生産を進めた結果、タイでは今、世界的に評価の高い、質の良いコーヒー豆が作られています。

そのひとつであるドイチャンコーヒーの特徴は、柔らかく奥深いコクと、柔らかな酸味、そしてチョコレートのような香り。

この豆のおいしさを最大限に引き出すよう心を込めて焙煎しているのは、「焙煎香房 Segar-Beans」の花岡 小百合さんです。

美邦さんと花岡さんの2人の情熱が生んだタイのコーヒーは、Zeshinでしか飲めません。

天気がよければ、庭のテーブルでのんびりと過ごすのも気持ちよさそうですね。

ココナッツシュガーとタイ雑貨

カフェの一角では、雑貨も販売しています。

ココナッツシュガーは、ココナッツの花の蜜から作られる砂糖です。

タイでは一般的な粗糖のひとつで、Zeshinのグリーンカレーやパッタイなどにも使われています。

ココナッツシュガーがダイエット中の人や血糖値を気にする人などに注目されるのは、食べても血糖値が上がりにくいから。

グラニュー糖と比べると、血糖値の上がりやすさは3分の1ほどです。

ココナッツゼリーを作るためのシリコン型も販売しています。

タイに以前からあったココナッツミルクゼリーが、このような繊細な花の形で流行し始めたのは、2019年頃から。

街中どこでもお供え用の花束や花輪が売られているほど、タイの人々は花が好きです。

また、宮中料理としてのタイ料理は繊細で美しい飾り付けで知られています。

きれいな花の形を作れるシリコン型が登場した途端に、流行するのも納得ですね。

日本にもさまざまなシリコン型はありますが、華やかなデザインと高さを兼ね備えていて、花の形のゼリーを作るのに最適なのは、やはりタイのシリコン型なのだとか。

キャンドルやアロマストーンなどのクラフト用に買う人もいるそうです。

ていねいに手編みされた竹かごもあります。

タイには日本のお歳暮のように、年末年始の挨拶として竹かごに食べ物を入れて取引先に渡す習慣があり、タイ北部では竹細工作りが今も盛んに行われています。

インテリアとしても取り入れてみたい竹かごのフードカバーは、タイのホテルのブッフェなどでも、しゃれた演出としてよく使われているそうです。

この竹かごの中には、コーヒー用のミルクと砂糖が隠れています。

竹かごの重箱に、お菓子を入れても雰囲気がいいですね。

ハーブ入りのキャンドルの火をくゆらせる、癒しのひとときはいかがでしょうか。

容器も美しいので、部屋に置いておくだけでも絵になりますね。

立体刺繍

タイといえば有名なのがタイシルク。

シルク産業で知られるスリン県から輸入した生糸を使って、妹さんがひと針ずつ作っているのが、立体刺繍のアクセサリーです。

ただタイシルクを輸入するだけでなく、Zeshinだけのオリジナル作品に仕上げています。

デザインは、妹さんのオリジナル。

タイの陽気を思わせる、鮮やかな花のモチーフがかわいいですね。

布を芯にして立体的に刺繍を施した作品は、どれも2つと同じものがありません。

漂白していない生糸は、触ると意外にゴワゴワとして固さを感じます。

この作品では、花びらに上質なフランス刺繍糸を、雄しべの先にタイシルクを使っているそうです。

創作人形と友禅

お母さんは日本工芸会に所属していた、創作人形と友禅の作家でもあります。

数々の品評会で入賞する腕前の持ち主で、年に数回マルシェで作品を販売したり、デパートでの展示会を行なったりしているとのこと。

Zeshinの名前の元となったのは「是心」。

もともとお母さんが絵の先生につけてもらった作家名で、仏教的な慈悲の心、を意味しています。

おひなさまのほほ笑みは、ほほ笑みの国であり仏教国であるタイとつながっているのかもしれません。

庭では、たくさんのお地蔵さまが祈っておられました。

美邦さんのエプロンの絵もお母さんの作品です。

タイのこと、カフェのことを、美邦さんへさらに詳しく聞いてみました。

タイが好き、人が好き!鳥内 美邦(とりうち みな)さんインタビュー

ほほ笑みの国タイが大好きだと語る美邦さん自身も、明るい笑顔が素敵な人です。

タイ在住歴5年半

──美邦さんとタイとの関わりを教えてください。

鳥内美邦(敬称略)──

25歳のころ、ふと、語学を学びたいと思ったんです。

英語は学校で勉強したのに全然話せない、それなら、何語ならいいだろうと考えたときに、旅行で訪れたタイが思い浮かんだんですね。

近所のカルチャーセンターにタイ語教室があったので、これだ!とタイ語を学び始めました。

そうすると、タイ人やタイが好きな日本人とのつながりが広がります。

それで、ますますタイが好きになりました。

27歳で思い切ってタイへ語学留学に行き、住んでさらにタイに魅せられてしまったんです。

1年半の語学留学を終えた後、現地採用で日本人上司の秘書として3年働きました。

一度帰国したのですが、また出張で1年ほどタイに行ったので、合計5年半、タイで暮らしたことになります。

タイは日本からほどよい距離にありながら、治安がよくインフラが充実しているうえに、親日的な国です。

女性がひとりでも歩ける国、といったらタイの治安をイメージしてもらえるでしょうか。

これらの理由から、タイには日本企業も数多く進出していますね。

カフェオープンの経緯

──カフェのオープン前にココナッツシュガーの輸入販売をしていたとか。

美邦──

はい。妹が身体によい砂糖を探していて、ココナッツシュガーに興味を持ったんです。

タイでは普通に食べられている砂糖だったので、それなら日本にココナッツシュガーを広めよう、それがタイのことを知ってもらうためのきっかけにもなる、と思いました。

ココナッツシュガーは、作っている農家によって少しずつ風味が違うので、知り合いのつてをたどったり、Facebookから農家を探したりして仕入れています。

あるとき、ココナッツシュガーをもっと知ってもらおうと、Segar-Beansの花岡さんとユニットを組んで、イベントとして1日だけのカフェを出すことにしたんです。

そのときに、お菓子と一緒にタイ料理も出してみました。

──それがカフェのオープンにつながったわけですね。

美邦──

そうですね、母方の祖父母が亡くなって空いてしまった家をリフォームすることにしたときに、私にできること、やりたいことを考えたら、タイだったんです。

これから歳を重ねていく母が、生き生きと働ける場所も作りたかった。

大好きなタイと、母のために作ったのがこのカフェです。

──なるほど。お母さんやご家族への気持ちがこのカフェの心地よさを作っていたのですね。こちらのタイ料理は食べやすく感じたのですが、日本人向けにアレンジをしていますか。

美邦──

いいえ。タイで覚えたレシピをそのまま使っています。

タイ料理は、そもそも日本人の口にとても合う料理なんですよ。

レシピだけではなく、お皿もタイのセラドン焼を使っています。

タイの料理は、タイのお皿に載せたときが一番美しく見えるんです。

タイ3大焼き物の1つであるセラドン焼

──タイ料理にはたくさんのハーブを使うと聞きました。

美邦──

はい。タイ料理にはさまざまなスパイスやフレッシュハーブを使います。

レモングラスやパンダンリーフ(ニオイタコノキ)、タイバジル、パクチーなどは、庭や温室で育てています。

でも、なかなか冬越しができないですね。

タイ料理には欠かせないコブミカン(マックルー)も、鉢植えで育てているところです。

柑橘系の独特の強い香りがあって、葉っぱはグリーンカレーの風味づけにも使います。

これも冬越しが難しいので、国内ではあまり栽培されていないようです。

コブミカンの葉

──デザートのヨーグルトには、ココナッツシュガーか自家製の蜂蜜かを選べるのですね。この蜂蜜とは?

美邦──

ここでニホンミツバチを飼っています。

本物の、自家製蜂蜜です。

壁際にある木箱がハチの巣箱
ニホンミツバチ

これからの夢

──ここに来るお客さんはどんな人ですか。

美邦──

近所から来てくれる人のほか、Instagramを見て足を運んでくれる人も多く、倉敷や広島市内からも来られます。

オープニングやクリスマスにはイベントを企画したのですが、定期的なイベントでお客さんにくつろいでもらいたいと思っています。

Zeshinに行けば楽しいことがある、コーヒーを飲みながらおしゃべりをして楽しい時間を過ごせる、そんなふうに思ってもらえる場にしていきたいですね。

──タイのこともいろいろ聞けるカフェ、ですね。

美邦──

そうですね。私は、タイのことを伝えていけるのが、本当に楽しくて仕方ない。

お客さんにも、コロナ禍が終わったら一緒にタイに行きましょう、私と行ったら絶対楽しいですよ、と言っています。

タイは治安がいいし、ローカルなところも、ハイソサエティなところも両方楽しめるところが魅力です。

タイってこんなに素敵なんです、楽しい、いいところなんです、と伝えたい

タイの料理だけでなく、タイの文化、タイそのものを感じてもらえる場所にしていけたらいいな、と思っています。

海外に行くようになって知ったのですが、私の「ミナ」という名前はどこの国にもあって、どこでも呼んでもらえる名前なんです。

また、海外の人は日本の漢字には意味があることを知ると、ミナの名前にはどういう意味があるんだ、と聞いてきます。

私が「美しい日本」という意味ですと答えると、「素晴らしい!」ととても喜んでくれるんです。

いい名前をつけてもらったな、と両親に感謝しています。

タイを感じる、タイが身近になるカフェ

Zeshinは、大好きなタイとお母さんのために作られた、温かみに満ちたカフェです。

ここで味わえるのは、タイ料理だけではなく、タイの心、タイそのもの。

美しい日本という名前の美邦さんが、日本とタイとをつなぎます。

タイを身近に感じたい人はぜひ、美邦さんの話を聞きに行ってみてください。

© 一般社団法人はれとこ