地産食用米「はるみ」使い新たな日本酒 伊勢原の吉川醸造 うまみ生かして「大転換」 風味豊かで甘みも 

伊勢原産「はるみ」を使った新酒「雨降 THE SEA CHANGE」を手に持つ吉川醸造の合頭社長(左)と水野杜氏

 「雨降」の銘柄で知られる神奈川県伊勢原市唯一の酒蔵、吉川(きっかわ)醸造(同市神戸)が同市産の食用米「はるみ」を使った初の日本酒を試験醸造した。本来は酒造りに向かない食用米だが、酒造方法の工夫ではるみが持つうまみを生かした1本に“大転換”。米と水の双方が霊峰大山の豊かな自然で育まれた1本に、関係者は「地元を意識した、従来とは違う新しい酒造りが開拓できた」と話す。

 1月中旬、同社の蔵では水野雅則杜氏(とうじ)(44)が「はるみ」約185キロと水約300リットルを発酵させたもろみ入りのタンク(直径1.2メートル)と搾り機をホースでつないでいた。搾り機が動き始め、水野さんがたるをかき回すと、マスク越しに甘い香りが漂ってきた。

 一般的な酒造りは、米の表面を削るほどに雑味が少なくなり、「大吟醸」を仕込む場合は50%以上削る必要がある。表面のタンパク質や脂質が発酵時の分解で雑味となるためだという。しかし、同社の合頭(ごうとう)義理社長(49)は「裏を返せば米のうまみを捨てているということ」と指摘する。

 そこで注目したのが、米をあまり削らず、通常より低い温度で長時間仕込むことで雑味が少なく風味豊かになる「低精白」という手法だ。水野杜氏は「食用米は酒米よりもタンパク質が多い。はるみが本来持つ甘みやうまみを丁寧に引き出せる」と話す。

 商品名は「雨降 THE SEA CHANGE」。「はるみ」の由来「晴れた海」と食用米を使った酒という珍しさから「大転換」の意味を込めたという。

 今月1日に行われた発表会で、合頭社長は「日本酒もワインのようにテロワール(ブドウを作る土壌、気候などの地域特性)が重視される時代になる。今後も伊勢原に根ざした酒造りをしていく」と述べた。水野杜氏は「グレープフルーツのようなフレッシュさ、洋なしのような甘さを備えた。アルコール度数も低く、日本酒が初めての人でも楽しめる」とアピールした。

 720ミリリットルで1750円(税込み)。試験醸造のため、150本限定だが同社直売所など4店舗で販売する。問い合わせは同社電話0463(95)3071。

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