<社説>辺野古サンゴ散乱 命と自治の破壊止めよ

 名護市辺野古沖の海域で、大量のハマサンゴが散乱していることが、市民団体によって確認された。普天間飛行場移設に伴う新基地建設の現場だ。沖縄防衛局が2021年8月に移植作業を始めた場所でもある。専門家はサンゴが人為的に採取されたものであり、ある程度時間がたったものだという見方をしている。 新基地建設に伴う作業の一環として、辺野古の海に生きるサンゴを破壊したとすれば言語道断である。辺野古の新基地建設は民意を無視し、地方自治をないがしろにする状況が続いている。サンゴの命と地方自治の破壊を見過ごすことはできない。国は直ちに工事を止めるべきだ。

 散乱するサンゴが確認されたのは辺野古沖にある「長島」の北側で「P地区」と呼ばれる海域だ。県がサンゴ移植許可を撤回したのに対し、農相が21年8月に撤回の効力を執行停止した。同12月には農相が県の撤回を違法として正式に取り消している。

 県が許可を撤回したのは、サンゴの生息に負荷が大きいとして高水温期の移植を避けるなどとした条件を逸脱して国が移植を実施したからだ。

 そもそも軟弱地盤が広範囲に広がる辺野古海域は、工事本体が可能かどうか見通せない状況にある。今回サンゴの散乱が見つかった現場は軟弱地盤の外縁部にあるが、工事そのものができるか分からないのであれば、いくらサンゴを移植しようと意味はない。

 19年の県民投票で示された通り、辺野古新基地に対する県民の答えは「ノー」だ。辺野古サンゴ訴訟で最高裁の少数意見にあったように、護岸工事のみに着目するのは「『木を見て森を見ず』の弊に陥る」。小手先の「環境への配慮」は、最高裁が指摘した通りの弊害を示している。

 散乱するサンゴの状況について、専門家は切断面に藻類が生えたり、ひっくり返ったりしているものがあること、海底の基盤から?がれていることを指摘し「人為的に採取されたもの」と結論付けた。

 海洋生物の専門家は当初からサンゴ移植の難しさを指摘していた。21年10月に辺野古の海中で移植現場を視察した大久保奈弥・東京経済大准教授は作業する人のサンゴの扱いを見て「単なる物を扱っているようにしか思えない」と批判していた。

 沖縄防衛局が設置する「環境監視等委員会」はこれまで防衛局側の言い分を追認し、こうした専門家の指摘に正面から向き合わず、国の新基地建設強行にお墨付きを与えてきた。散乱するサンゴが移植せず投棄されたものだとしたら、委員会の存在そのものも問われてくるだろう。

 サンゴ礁や藻場が広がり、多くの生物がすむ辺野古の海は、沖縄の生物多様性を示す象徴的な場所だ。その破壊行為はSDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す国際世論にも逆行することを国は肝に銘ずべきだ。

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