【高校野球】甲子園勝利直後にコロナで2回戦辞退 巣立つ東北学院3年生に監督が贈った言葉

卒業式を迎えた東北学院の3年生24人にはなむけの言葉を送った渡辺徹監督【写真:高橋昌江】

3月1日に卒業式を迎えた東北学院の3年生24人に渡辺徹監督がはなむけの言葉

昨夏の甲子園に創部50年で初出場した宮城・東北学院(宮城)。1回戦で名門・愛工大名電(愛知)を5-3で下し、初勝利を挙げた。その後、選手ひとりの新型コロナウイルス感染が判明し、2回戦は辞退。あれから196日――。3月1日に卒業を迎えた3年生24人に対し、渡辺徹監督は「これからの出会いも大切に、“未来思考”で成長できるように」とはなむけの言葉を送った。【高橋昌江】

礼拝堂で挙行された厳かな卒業式と教室でのホームルームを終えた東北学院ナインが、3年間練習に励んだグラウンドに向かう。学ラン姿の24人全員が揃うと、練習後のミーティングと同じように、一塁ベンチ前に立つ恩師を囲んだ。渡辺監督は、半年前にユニホームを脱ぎ、それぞれの進路に向かって努力した「四十八の瞳」を見つめながら口を開いた。

「君たちが一番、素晴らしいと思っているのは、後輩に目を向け、先輩の責任を果たしながら全員が自分の役割をきちんと果たしてくれたことです。甲子園に行き、テレビに映る時間が長かった人や打点を挙げた人がいたり、クローズアップされたりしたこともあったけど、本質はそこじゃないよね。普段のグラウンドでみんなで試行錯誤し、いいチームを作るためにミーティングですり合わせをし、それぞれがチームのためにできることを考えて取り組んだ。本質的に大切だったのはそういうところだと思う。だから、結果は結果だ。負けない、いいチームを目指して取り組んできたというそのプロセスを忘れてほしくないと思います」

渡辺監督は、特に昨年3月からの日々を回想する。3年生部員たちの脳裏にも同じ日々が過ぎったことだろう。ある練習試合で大敗した直後、コロナ禍で対外試合が禁止になり、「対相手」での実戦ができなくなった。だが、東北学院にとってはむしろプラスだった。毎週のように練習試合があると勝敗に左右され、ミスが浮き彫りになることで「追い立てられる感じ」になるという。

対外試合ができないことで「じっくりと強化ポイントに取り組めた。その期間に落ち着いて自力をつける活動ができたと思う」と渡辺監督。練習では学生コーチや打撃、守備などの各班チーフ、主将、副主将らを中心に、相手ではなく、「東北学院」と向き合い続けた。意見を出し合いながら、時にはぶつかりながら必要な力を模索。甲子園へとつながったその一日、一日が大切だったのだと渡辺監督は伝えた。

「未来に進んでいくこと」を教え子に求めた【写真:高橋昌江】

教え子たちに求める“未来思考”の人生「過去の栄光にすがってほしくない」

レギュラーとしてチームを背負った人、ベンチで自分の出番に備えた人、自分の実力と葛藤してチームをサポートした人……。それぞれの力を結集させて挑んだ宮城大会では、全6試合中5試合が逆転勝ち。どんな展開にも慌てず、築いてきた戦いを貫いた。

春夏通じて初の甲子園でも、それは変わらなかった。1回戦の相手は春夏通算22度出場の愛工大名電。渡辺監督は「シートノックを見たら社会人野球」と苦笑するが、いざ試合が始まると選手たちは堂々と立ち向かい、初陣を飾った。いざ、2回戦へ――。ところが、選手ひとりが発熱。新型コロナ感染が判明し、2回戦は辞退した。

「ふとした拍子に、例えば、これから始まる選抜大会や夏の甲子園の話題で、その時の感情が蘇ることがあるかもしれません。(部員に対して)願いがあるとすれば、複雑ないろんな思いをしたチームメートがいて、そのどれもが間違いじゃないというところに思いを馳せてほしいということですね」

当事者たちの胸がチクリとする話題。探り、選びながら言葉を紡いだ渡辺監督。まっすぐな眼差しを向ける3年生24人に求めたのは、過去に生きるのではなく、未来に進んでいくことだ。

「過去の栄光にいつまでも、すがってほしくない。仮にだよ、甲子園で優勝したとしても、それは過去のこと。甲子園に出場でき、初勝利を挙げました、校歌を歌いました、それももう過去のことです。大事なことは、これからの人生にそれを生かして、より成長できるようにつなげていくこと。仲間を大切にして、これからの出会いも大切にして、“未来思考”でいつまでも自分が成長できるように。あの時点にとどまっている人はいないと思うけど、前を向いて、力強く歩んでください」

多くは新生活に向け、しばらく忙しい日々を送る。6分20秒の花向けの言葉の最後には「落ち着いたら、グラウンドに足を運んでほしい。後輩たちの頑張りも見て、激励もしてほしい。ここはみんなのホームグラウンド。いつでも開放していますので、遊びに来てもらえたら嬉しいです」と話した渡辺監督。3年間、学年主任も務めた世代との濃い時間は、素敵な“過去”だ。

「彼らにとっても、東北学院硬式野球部にとってもゴールではなく、ここからが始まりのような感覚です」(高橋昌江 / Masae Takahashi)

© 株式会社Creative2