ハードルを越えて進学した女性たちの手応え データでみる都道府県のジェンダー平等(2)後編、大学で「働く×学ぶ」進学第一世代

岩手県大槌町の放課後スクール「大槌臨学舎」で働く高木桜子さん=2020年4月(カタリバ提供)

 大学に行く意味が分からない、勉強の仕方が分からない―。地方在住だったり、近しい人に大卒者がいなかったりする女子にとって、大学進学の壁は高い。文部科学省の学校基本調査を基に調べたところ、2021年春の女子の四年制大進学率は51・3%。男子の57・4%に及ばず、30%台に低迷する県も多かった。一方で、経済面などのハードルを乗り越えて学びを得た女性たちの中には、手応えを得た人も多い。大学職員として働きながら夜間に学んだり、親族が大卒ではない「進学第一世代」対象の奨学金を受けたりと、さまざまな支援を活用することで進学を実現している。(共同通信・酒井沙知子)

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 ▽7人家族、東日本大震災に被災

 岩手県大槌町の高木桜子さん(24)は東洋大(東京)に進学し、日中は職員として働き、夜間に学ぶ制度を利用した。

 

 高木さんは両親ときょうだいの7人家族。中学1年だった2011年3月、東日本大震災の津波で自宅が流された。家族は無事だったが、自営業の父の仕事は打撃を被った。仮設住宅で暮らした時期もあり、将来は「県内の大学に行くのかも」と漠然と考えるぐらいだった。

 しかし、認定NPO法人カタリバ(東京)が中高生の学習支援や居場所づくりを目的に設けた「大槌臨学舎」に通うようになり、世界が広がった。大学生スタッフの女性は、高校を中退し、自分でためた資金でカナダに留学していた。「そんな生き方があるんだ」と驚かされた。

 臨学舎でオンライン英会話を楽しみ、英語力を磨きたいと進学意欲が湧いた。東洋大の制度を知り「受からなければ高卒で働く」と心に決めて受験。合格後は入試課職員と学生という二足のわらじをはき、多くの友人を得た。タイでの研修や英国留学も経験した。

 昨春卒業し、臨学舎スタッフとしてふるさとに戻った。「東京や海外を知り、大槌の良さも課題も見えた。地元の子どもの将来を広げる仕事ができれば」と意気込む。

岩手県大槌町の放課後スクール「大槌臨学舎」で中学生と一緒に学習ゲームをする高木桜子さん(右)=21年5月(カタリバ提供) (2)

 ▽「やり方」が分からない

 東京工業大は、ノーベル賞受賞者の大隅良典栄誉教授の寄付を原資に、大卒の両親を持たない学生を対象にした奨学金「ファーストジェネレーション枠」を創設。20年春入学者から月5万円を給付している。

 第1期生の柳田涼華さん(21)=情報理工学院数理・計算科学系2年=の父は高専卒、母は高卒で、近い親族にも大学へ進んだ人はいない。システムエンジニアの父の影響を受け、情報学に興味を持って東工大を志望した。

 中学、高校時代は塾に行かず、学校の授業や教科書中心に勉強した。浪人して初めて予備校に通い、翌春に合格した。

 学費免除や返済不要の奨学金も受け、大学近くで下宿する。「全国から集まった意欲ある人たちと過ごすのは楽しい」。高度な数学、プログラミングといった勉学に励み、大学生活を便利にするアプリを作るサークルなどにも所属する。

大学職員と話す東工大2年の柳田涼華さん(手前)=2月、東京都目黒区

 柳田さんは似た境遇の高校生に向けてエールを送る。「周りに進学した人がいないと、勉強方法や自分に合った奨学金を知るのが難しい。高校の先生らに頼り、情報を集めて受験に臨んで」

 ▽幼い頃からのささいな「違い」将来を左右

 四年制大進学率には、なお男女差がある。背景に何があるのか。ジェンダーと教育に詳しい宮崎公立大の寺町晋哉准教授に聞いた。

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宮崎公立大の寺町晋哉准教授(本人提供)

 地方の高校生が自宅通学以外で進学する場合、下宿費の負担は重い。家庭内で教育費抑制の力学が働き、女子は男子に比べ自宅にとどめられやすい。家族から何げなく「女子はわざわざ県外に行かなくていい」と言われる経験は、その時気にならなくとも真綿で首を絞められるようなものとなってしまう。

 

 また、大卒ではない親は、進学に価値を見いだしづらい。地方では大卒者が少なく、所得水準も低い傾向にある。物価が高い都市部での下宿費用負担は難しく、子どもへの進学期待も低くなる。さまざまなハードルが組み合わさり、地方の女子の進学を阻んでいる。

 こうした状況は、男性にとっても息苦しい。男子には「大学へ行け」、その先に「働いて家族を養え」という強いプレッシャーがかかる。10代の自殺で学業を理由にしたものは男子に多い。改善は急務だ。 

 

 男女の進学傾向の違いは何から生まれるのか。教育現場では幼い頃から、整列や名簿の順番、「君」「さん」呼びなど多くの場面で男女に分けている。子ども自身も性別を認識することで、自分を縛ってしまう。

 教員が「女子は理系が不得意」というステレオタイプを持っていると、子どもへの学習支援にも影響を及ぼす。教員の何げないふるまいの影響は甚大だ。身近なロールモデルとなる女性教員に理数系科目担当が少ないのも気になる。

 高校や大学への進学にも、これらの影響が及んでいるのではないか。一つ一つはささいな経験であっても、その積み重ねによって将来を狭める。子どもの可能性を尊重するためにも、学校では可能な限り、名簿や整列順などは男女混合にするほうがよい。

 18歳の選択が人生を決める社会はいびつだ。大学進学しなかった、できなかった地方の男女も、どのような教育を受けた人でも、安心して暮らせる社会が望ましい。

 男女平等というテーマは丁寧に議論する必要がある。大学入試でも、入試要項に男子優遇と書かれてはおらず「入り口」の平等は実現している。しかし「入り口」へ至るプロセスを丁寧に見れば、男女で異なる点が多い。評価軸をどこに置き、何を問題にするか。「男女どっちがつらい」という争いにせず、目線を合わせて問題に取り組んでいかなければならない。

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 てらまち・しんや 1983年生まれ。大阪府出身。専門は教育社会学。(了)

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