「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 一緒に見ればもっと面白くなる映画4選 【映画レビュアー・茶一郎】

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 2022年3月11日全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 一緒に見ればもっと面白くなる映画4選 【映画レビュアー・茶一郎 動画公式書き起こし】

お疲れ様です。茶一郎でございます。いよいよ『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の公開が近づいています(3月11日公開)。一足先に拝見いたしまして、もう大好きです。間違いなく「バットマン」の映画化、いやアメコミ映画の文脈で一つの転換点、記念碑的一本になっています。ただ尖っています。10人観て10人全員が好きとは言いづらい、ある一定の観客を切り捨てた事でバットマンの本当の「黒」を表現することを成し遂げました。より詳しい感想はTwitterに書いています。まだ映画ご覧になる前に感想を聞きたくない方もいらっしゃると思いますので、これ以上は申し上げません。

今回は『THE BATMAN』から少し距離を置きまして、より本作を魅力的にする作品のご紹介です。よくツイッター等で「『THE BATMAN』の前に観る必要がある映画ありますか?」というご質問を頂きます。答えは「無いです」。最近、アメコミ映画と言えば予習が必要なのが当たり前になっていますが、この『THE BATMAN』は全く今までとは関係ないリブート、リランチです。ただ『THE BATMAN』をご覧になる前、もしくはご覧頂いた後、観て頂くとより作品の魅力をご堪能頂ける作品があります。今回はその何本かを、配信レンタルで見やすい作品からチョイスしました。『THE BATMAN』の魅力を読み解く映画探偵の旅、どうぞお付き合い下さい。

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 2022年3月11日全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

1本目 正義に取り憑かれた男『ゾディアック』

1本目は2006年の『ゾディアック』です。1968年から74年にかけて起きたアメリカで最も有名な未解決事件「ゾディアック事件」。本作は、この事件の犯人ゾディアックを当時追っていた新聞記者、刑事、そして漫画家。この3人を描くノンフィクション作品です。

ご存じの方も多いと思いますが、今回の『THE BATMAN』の舞台となるゴッサム・シティで連続殺人を起こす悪役リドラーのキャラ造形は、「ゾディアック事件」の犯人からインスパイアを受けて作られたとのことです。ゾディアック事件は、犯人ゾディアックが新聞、メディアに犯行声明を暗号として出す、いわゆる「劇場型犯罪」で、『THE BATMAN』のリドラーもまた、犯行声明を「なぞなぞ」としてバットマンや警察に出します。“ゾディアック”リドラーの出す暗号・なぞなぞは、メディアを通じて人々に恐怖を与えていきます。

今回のリドラーと同じく、ゾディアックを元にしたとても有名な悪役がいます。それは『ダーティ・ハリー』の映画史に残る悪役スコルピオです。映画『ゾディアック』の監督デヴィッド・フィンチャーは、12歳の頃に『ダーティ・ハリー』を見て、とてもガッカリしたそうなんですね。そんなフィンチャーが作った映画『ゾディアック』。フィンチャーと連続殺人犯と言えば『セブン』がとても有名ですね。サイコスリラーとしてエポックメイキングなこの『セブン』を連想しがちですが、本作はかなり違います。監督の言葉を引用しましょう。「この映画『ゾディアック』は『殺人鬼を描く映画』ではなく『正義に取り憑かれる事についての映画』だ」と。本作『ゾディアック』は「真犯人はお前だ!」と犯人探しの回答を爽快に描くミステリーではありません。『ダーティ・ハリー』、『セブン』のように分かりやすい悪である犯人に翻弄されるサイコスリラーでもありません。

『ゾディアック』には4回の事件シーンがありますが、その度に犯人ゾディアックの見た目、風貌、背丈が変わります。これは1つ1つの事件の目撃者の証言を元に、犯人ゾディアックの造形を毎回作り上げて、その証言が語るゾディアック像が証言ごとに少し変わっているので、毎回犯人ゾディアックの姿・見た目が変わるという、デヴィッド・フィンチャーの現実に緻密すぎる細かい演出なんですが、これが気持ち悪いですね、結果として、犯人は見た目が一定ではない不気味な得体の知れない存在として描かれ、その不定形な犯人ゾディアックを中心とした、底の見えない「ゾディアック事件」という底無し沼にはまっていく登場人物を描くのが『ゾディアック』です。なので安易なジャンル分けを許してくれません。敢えて言うなら「捜査・取材・調査映画」。調査をして、聞き込みをして、筆跡鑑定をして、現場検証をして、その過程こそがスリリングな物語になると。これが『THE BATMAN』と似ています。

『THE BATMAN』は、宣伝だと「謎解きサスペンス・アクション」と謳われていますが、ちょっとこれは『THE BATMAN』の魅力と違うような気がして、バットマンが悪役が提示するピースを地道に繋げていく、この調査・捜査が面白いドラマじゃないかと。そして捜査を通じて描かれる主人公のドラマは、先ほどの監督の言葉通り「正義に取り憑かれる事」という訳です。映画『ゾディアック』では暗号が送られた新聞社でたまたま漫画を書いていた暗号解読好きのグレイスミスという男筆頭に、3人の人物が、底なし沼に。犯人探しという正義に取り憑かれて、どんどんとおかしくなっていきます。この過程こそがドラマだと。またこ『ゾディアック』は、主人公グレイスミスが漫画家というのが「正義への執着」を強調します。別に担当記者でも刑事でも何でもない主人公が、事件に、正義に取り憑かれてしまう。犯人探しが犯人の狂気以上に、本来正義の側の方の狂気を浮かび上がらせてしまうと。『THE BATMAN』は、アメコミ映画、アクション大作以上に本作『ゾディアック』を中心とするデヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』、『ゾディアック』、ドラマ『マインドハンター』に通じる一本と言えると思います。

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 2022年3月11日全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

2本目 都市に隠された陰謀『大統領の陰謀』

2本目は、1976年の『大統領の陰謀』という映画。そしてこの作品を三本目とする、『パララックス・ビュー』、『コールガール』を合わせた、アラン・J・パクラ監督の「陰謀パラノイア三部作」です。勝手に三部作と呼んでいるだけなんですが、『THE BATMAN』は、この「陰謀パラノイア三部作」の双子の生き別れた弟のような作品と言えます。親が同じだから似て当然というお話です。

この三部作の特徴を簡単に言うと、最初はなんてことのない些細な事件を捜査していた主人公が、次第に得体の知れない、国全体を巻き込んだ「陰謀」に巻き込まれていく。同時にロサンゼルス、ニューヨーク、ワシントンと、空虚な大都市の闇に孤独な主人公が吸い寄せられ、パラノイア=精神を病んでいくという、こういう三部作です。この三部作の中で特に『THE BATMAN』の監督マット・リーヴスが影響を受けたと公言しているのが『大統領の陰謀』、そして『コールガール』です。『大統領の陰謀』に関しては、デヴィッド・フィンチャーも『ゾディアック』の中でオマージュを捧げています。

『大統領の陰謀』のお話から始めると、この作品はウォーターゲート事件、ニクソン大統領、国のトップが盗聴を命じて辞任に追い込まれた実際の事件を描くノンフィクション作品ですが、驚くことにこの『大統領の陰謀』で描かれるのは、ウォーターゲート事件の最初の7ヶ月だけなんですね。二人の記者を主人公に、事件の全貌ではなく、最初だけを描く。つまり先ほど『ゾディアック』と同じく、「犯人はお前だったのか!」というミステリー解決の一つの快感を放棄して、記者の主人公が地道に地道に捜査、調査するその過程だけを描くという、そういう映画。ある種、新聞記者のお仕事映画なんですね。初めて『大統領の陰謀』を観た時、衝撃を受けました。主人公たちが聞き込みしたり、記録を調べたり、調査しているだけなのに面白いという、このドラマの作り方は、『ゾディアック』という子供を産み、今回『THE BATMAN』という隠し子が誕生しました。『THE BATMAN』は、謎解きサスペンス・アクションではありません。捜査映画、調査映画です、何なら「バットマンというお仕事ムービー」「バットマンという強迫観念」「バットマンという生き方についての映画」です。それが作品の軸の魅力だと思います。

『大統領の陰謀』では、最初はなんてことのない不法侵入を調べていた記者の主人公が、その裁判になぜか政治家の弁護士がいることに気づき、不審に思う。そこから地道な調査を続けていったら、タイトルの通り「大統領」までたどり着くという物語です。これが現実のお話ですからすごいですね。この「陰謀パラノイア三部作」に特徴的なショットがありまして、主人公が調査する途中で挿入される異常なワイドショットですね。例えば『大統領の陰謀』では主人公二人が図書館の貸し出し記録を一つ一つ調べる骨が折れる地道な調査の様子を、異常なほど俯瞰で捉えるショットが出てきます。もう見るだけでゾクゾクします。地道なこの調査の背景に、とても大きな何か、主人公の背後に大きな世界の陰謀があることを示すという、怖い怖いショットです。

また『大統領の陰謀』では、主人公を導く謎の男ディープスロートという人物が登場します。ちなみにこの男は、のちに当時のFBI副長官だという事が分かりました。FBIの副長官が新聞記者を大統領の悪事解明のために導いていたという現実の凄い話です。劇中でこのディープスロートは、顔も見せずに、暗闇にいて、主人公が取材で得たパズルのような断片的な情報に一つの方向性を示して、主人公を陰謀に導く謎の男です。これも映画の中でとても不気味な存在ですね。「フォロー・ザ・マネー」「金を追え」。何なのかよく分からないヒントだけを出して、主人公を導く。この記者の主人公と謎の男ディープスロートとの不思議な関係性。さて『THE BATMAN』ではこれがどう生まれ変わったかを、チェックしてみて下さい。

マット・リーヴス監督はこの『大統領の陰謀』の影響を公言していますし、三部作からのもう一本『コールガール』という映画の影響も公言しています。『コールガール』も同じような話です。主人公が新聞記者から探偵に代わり、探偵がある失踪事件を調査していく過程で、大都市ニューヨークに隠された陰謀が明らかになります。『THE BATMAN』につながる点として、主人公が事件を調査していく過程で、ある高級コールガールの女性と出会うんですね。ジェーン・フォンダ演じるブリーという、ニューヨークの都市の闇に普段から接している女性です。探偵の主人公は、この女性を半ば脅すような形で調査の手伝いをさせる。次第に主人公とこのブリーの間で奇妙な絆が生まれていく。お分かりの通り、これが『THE BATMAN』のバットマンとキャットウーマンことセリーナとの関係として再現されています。『THE BATMAN 』の、敵か味方か分からない、街の権力者相手に盗みをするキャットウーマン=セリーナ。

『コールガール』という映画は原題が “Klute” という探偵の主人公の名前なんですが、映画を見ると、主人公クルートはずっと死んだ目をしています。都市に隠された空虚さに絶望して、「お前は生きているのか!」と言いたくなるほどにずっと死んだ魚の目をしている主人公なんですね。一方で日本のタイトル『コールガール』が指すブリーの方が生き生きと血の通った女性として、空虚な都市を孤独に病みながらもサバイブしようとしている。この二人の対比も、超病んでいる今回のバットマン=ブルースとセリーナとを重ねてしまう辺りですね。主人公“Klute”が調査の過程で都市の闇に心を蝕まれ、出会った孤独な女性と奇妙にもつながっていく物語。

『大統領の陰謀』、そして『コールガール』。アラン・J・パクラ監督の「陰謀パラノイア三部作」ですが、僕は今回ご紹介しない『パララックス・ビュー』という映画を観て、凄いと。この70年代の政治陰謀スリラーの映画世界にハマっていきました。もう少しだけこの陰謀にまみれる映画の世界を調査していきます。

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3本目 都市の魔力と逃れられない過去『チャイナタウン』

3本目の映画は、1974年の『チャイナタウン』です。僕がご紹介するのも恐れ多い、映画史上最高のオリジナル脚本の映画として名高い。ご存じの方も多いと思います。私立探偵の主人公ギテスが浮気調査をする過程で、一人の女性に出会い、その女性に吸い込まれるように都市に隠された陰謀に巻き込まれていくという映画です。1930年代の犯罪映画「フィルム・ノワール」にオマージュを捧げた、現代版「フィルム・ノワール」=ネオ・ノワールの代表作です。

何気ない事件から陰謀へ。と、先ほど挙げた三部作に似ているストーリーですが、異なるのは舞台となる街がある種の魔力を持っているということだと思います。先ほどの三部作はどちらかというと大都市の空虚さの方が強調されましたが、この『チャイナタウン』は舞台となる1930年代のロサンゼルスの水にまつわる物語。街の血液たる「水」がとても重要なモチーフとなるロサンゼルスという街が、第二の主役として存在感を放っている映画です。街が隠れ主役という意味で、まさしく「バットマン」の映画は今回の『THE BATMAN』に限らず、ゴッサム・シティという架空の街、舞台が隠れ主役、第二の主役として魅力・魔力を放って、登場人物だけではなく我々観客を魅了してきました。今回のゴッサム・シティは最悪にして最高です。“オリコン調べ住みたくない街5年連続一位”という具合に、ゴッサム・シティが、土地が、怪しい魅力を放っています。最悪にして最高。

ただ『チャイナタウン』のタイトルは、妙なことにその第二の主役でありメインの舞台であるロサンゼルスではありません。「チャイナタウン」は、主人公ギテスがかつて警官をしていた街です。「チャイタウンはなまけ者の町」。いくつもの言語が入り乱れ、犯罪組織が複雑に絡み合うチャイタウンでは、警官は何もしないのが一番。この『チャイナタウン』の物語が本当に美しく、また残酷なのは、主人公ギテスが調査をしていく過程で、過去が運命のように絡みついて追いかけてくる。やはり都市の磁場というか、街の魔力に吸い寄せられてしまうというこの物語です。これは主人公の過去がほとんど描かれない先ほどの三部作とは、大きく異なります。都市の魔力が見事にフィルムに刻まれたのが『チャイナタウン』だと思います。

4本目の映画も少しベタになってしまいますが、これを挙げないのは不自然でしょう。ここまで長らくお付き合い頂いた映画探偵の旅、最後の作品です。

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4本目 汚れた街と暴走するエゴ『タクシードライバー』

4本目の映画は、『タクシードライバー』です。「夜に出歩いているのはケダモノばかりだ。不健全で。腐っている。いつの日かこのクズどもを洗い流してくれる雨が降るだろう」(主人公トラヴィスの言葉)。全編、不眠症のタクシー運転手、主人公トラヴィスの孤独で病んだ主観で描かれる、起きたまま悪夢を見ているような映画です。脚本のポール・シュレイダーは車の中で何週間も寝泊まりした経験から、“まるで車は自分を世界から孤立させる棺桶のようだ”と、孤独を強く感じたと言います。「タクシーは孤独のメタファー」。世界から隔絶されタクシーの中で生きる孤独なトラヴィスは、その閉じた世界で自意識を暴走させる、自我を肥大化させていく。選挙事務所で働く女性ベッツィに恋心を抱きながら、その選挙候補のスローガンは “We Are The People” その“We”の中に俺の存在はあるのか。きっと孤独を強く感じている人は、この映画に救われた事が一度はあると思います。逆に、「インセルのファンタジー」と問題視、怒る人もいるでしょう。

『チャイナタウン』ではロサンゼルスが第2の主役だったように、監督のマーティン・スコセッシは、過去作同様、リアルなニューヨークの街、主人公トラヴィスから見たこの「汚(けが)れた街」を、裏の主役として切り取っています。汚い汚い70年代のニューヨークで、自我を暴走させるトラヴィス。このトラヴィスの病みは、『THE BATMAN』へと受け継がれました。

予告でもお分かりの通り、今回のバットマン=ブルース・ウェインは病んでいます。トラヴィスの願いを叶えたかのように、ずっと雨が降っている嘘にまみれた汚(けが)れた街「ゴッサム・シティ」で、バットマンという自我・エゴを暴走させる。『THE BATMAN』の原作の1つは、ダーウィン・クックのコミック『バットマン:エゴ』です。映画公開のタイミングで小プロ(小学館集英社プロダクション)さんから翻訳版が発売されましたので、ぜひ映画とあわせてお楽しみ下さい。この原作「バットマン:エゴ」でバットマン=ブルースが対峙するのは、タイトルの通り「エゴ」です。ブルースが幼少期から持っている「恐怖」「トラウマ」「自我」がバットマンとして現れ、ブルースと対峙する。とても精神分析的なストーリーになっています。そんな「バットマン:エゴ」を原作にした『THE BATMAN』が、『タクシードライバー』とその肥大したエゴの物語として共鳴したのは必然でしょう。雨のやまない汚(けが)れたゴッサム・シティで、悪党を退治というより、バットマンという恐怖/エゴを暴走させているブルースは、トラヴィスのように病んでいます。

お気付きの通り、この『タクシードライバー』を元にしたというより、ほとんど現代版『タクシードライバー』、アメコミ映画版『タクシードライバー』として仕上げたのが、2019年の『ジョーカー』です。今まで『THE BATMAN』につながる映画のほとんどが70年代のスリラー、犯罪劇でした。『ジョーカー』もまた、少し毛色は違いますが、70年代の犯罪劇に直接的に影響を受け、オマージュを捧げた映画です。『ジョーカー』とあわせて語る『THE BATMAN』の宣伝コピーがしばしば批判されがちですが、『ジョーカー』と『THE BATMAN』は、どちらも70年代犯罪劇オマージュ作になっています。あながち的外れなコピーではありません。単純に続編と勘違いしてしまうお客さんがいるのでちょっと嫌ですが。

ともかく同時期に作られた『THE BATMAN』そして『ジョーカー』が、政治を信じられない、政治が不安定な時期に作られた作品だからこそ、時代の雰囲気が似ている70年代オマージュ作品になったのは、必然と言えば必然なのかもしれません。2作とも、『タクシードライバー』に、病んだ孤独な男が自我を肥大化させていくトラヴィスの物語にたどり着きました。病んだブルースを体現したバットマン役ロバート・パティンソンの素晴らしさは、言うまでもありません。もしロバート・パティンソンという最高の俳優について、「ハリー・ポッター」のセドリック役でしか、『トワイライト』シリーズのバンパイアでしか、『TENET テネット』のニール役でしか知らない方は、続きもぜひご覧下さい。

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」 2022年3月11日全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

最高の「バットマン」俳優ロバート・パティンソン

傑作クライム劇『グッドタイム』。行き当たりばったりの銀行強盗をして弟が捕まってしまった主人公が、弟を救い出す。奇遇にも『グッドタイム』は、現代版『狼たちの午後』としばしば評されます。70年代クライム劇の傑作の現代版で存在感を見せたロバート・パティンソンが、『THE BATMAN』でも70年代の犯罪劇の世界に戻ってきました。

ロバート・パティンソンが不眠症の億万長者を演じた、まるで今回のブルース・ウェイン・エピソード0のような『コズモポリス』もオススメです。物語は“ザ・不条理劇”ですので、やや見づらいかもしれませんが、ロバート・パティンソンは病んだ青年億万長者を見事に演じています。この演技は必見です。この『グッドタイム』と『コズモポリス』を見れば、今までロバート・パティンソンがブルース・ウェインを演じていなかったのが不思議なくらい。今回『THE BATMAN』の起用は当然の流れだったように見えてきます。

今回のバットマンは病んでいます。地道です。ゴッサム・シティも病んでいます。闇に、陰謀に包み込まれています。『THE BATMAN』、尖っています。皆さんが作品お楽しみ頂けること願っております。今回は『ゾディアック』から始まり、70年代陰謀にまみれた捜査映画を経て、止まらない自我の暴走へとたどる『THE BATMAN』の魅力を読み解く映画の旅でございました。次回は『THE BATMAN』のレビューでお会いしましょう。さようなら。

本記事は、圧倒的な情報量と豊富な知識に裏打ちされた考察、流麗な語り口で人気のYouTube映画レビュアーの茶一郎さんによる動画の、公式書き起こしです。読みやすさなどを考慮し、編集部で一部変更・加筆しています。


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

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