官民連携による社会課題解決とは? 官民連携事業研究所 鷲見英利代表インタビュー

自治体と民間企業が協力して社会課題解決に取り組む「官民連携」を推進し、今、多くの自治体から引く手あまたの企業がある。起業家・鷲見英利代表が率いる「株式会社官民連携事業研究所」だ。

自治体が抱える課題を解決しながら、企業にとってはビジネスチャンスにもなりうる「官民連携」について、鷲見代表にインタビューを行った。

子供服を自治体の赤ちゃんへプレゼント

選挙ドットコム編集部(以下、編集部):

「官民連携」とはどのようなものなのでしょうか。鷲見代表が取り組んだ官民連携プロジェクトの具体例を教えてください。

官民連携事業研究所 鷲見英利代表(以下、鷲見代表):

「官民連携」とは、自治体と民間企業がタッグを組むことです。ひとつわかりやすい具体例をお話ししましょう。

子供服の会社(以下、A社)では、毎年、在庫となった子供服や雑貨を海外の子どもたちに送るか、処分していました。

そこで、当時からご縁のあった四條畷市の子育て政策と繋げられないかと考えました。四條畷市では毎年約500人の子供が生まれます。そこで、2年間で生まれた約1000人の子供にプレゼント出来るよう、1000万円相当の子供服を寄贈いただき、有効に使われることになりました。

ただ、寄贈していただくだけではなく、お子さんの2ヶ月検診の家庭訪問のときに保健師さんが持って行く仕組みに変えました。何らかの事情を抱える家庭の場合、保健師さんの訪問時に歓迎されないようなことがあったのですが、A社の子供服を持参することで訪問しやすくなりました。この取り組みで訪問率を高め、家庭の情報を集めることで、児童虐待などを未然に防ぐ効果となりました。

A社にとっては環境事業の一環やブランディングにつながり、四條畷市においては、子育て政策を充実させることができました。

なぜ「官」と「民」をつなぐように? きっかけは「みかん」

編集部:

自治体と民間企業の間に立つ貴社は、どのような流れで案件を受注するのでしょうか。

鷲見代表:

官民連携での課題解決の実績を積み重ねていくと、自然と首長や、全国の市や町とのネットワークが広がっていきます。

様々なご相談をいただき、以前は無償で政策を作っていた時期もありました。

今では、企業が動くことで自治体のどのような課題を解決できるか、企業にとってはどのようなブランディングになるかなど、自然とわかるようになりましたね。

編集部:

実績が大変豊富な貴社は自治体にとっても企業にとっても心強い存在だと思います。

「官民連携」のフィールドに鷲見代表が入ってこられたきっかけはどのようなものでしたか。

鷲見代表:

もともとは企業に勤めて海外との取引や、外国人専門の不動産会社の運営など、海外との接点が多い環境にいました。

官民連携のフィールドにきたきっかけは、和歌山県有田市と官民連携プロジェクトを行ったことでした。

編集部:

和歌山県有田市とは、どのような官民連携プロジェクトを実施したのでしょうか。

鷲見代表:

和歌山県有田市は「有田みかん」が特産品です。

当時私はAR・VR専門のアプリ政策企業の副社長をしておりましたので、その技術を使って「みかん農園育成ゲーム」をリリースし、10万回以上のダウンロード数を記録し、多くの方に楽しんでいただけました。

このみかん農園育成ゲームは、例えば、原産地保証制度専用シールを画像認識すると「ガチャ」ができる「リアル→デジタル」、ゲーム上でみかんを育てると本物のみかんの応募券が手に入る「デジタル→リアル」を組み合わせて、ユーザーの方に楽しく有田みかんを食べていただくような内容でした。

その中で特にうれしかった思い出は、ユーザーから「子供がこのアプリで遊んで得たみかん栽培の知識を、スーパーでの買い物の際にいっぱい教えてくれる」と投書をいただいたこと。社長を含め開発メンバーの愛情あふれるコンテンツだったと今でも覚えております。

編集部:

10万ダウンロードを超えるとは、自治体アプリとしては異例のヒットですね。

鷲見代表:

はい。そして、それ以降、有田市の事例をきっかけに、様々な自治体の首長からアプリの話しをはじめ、様々な課題解決の相談を持ちかけられ、多くの政策や施策をつくり出すという関係ができていきました。

「官」と「民」のマッチングをうまく成立させるためには?

編集部:

「官」と「民」の間に立ってマッチングをうまく成立させるために、気をつけていることはどんなことでしょうか。

鷲見代表:

自治体には課題があります。民間企業もやる気・ソリューション・テクノロジーを持っていることが多いです。ただ、それらを出し合うだけだとマッチングは成立しません。

私は「両者無理なく」とよく話しています。自治体も予算をとってこなくていい、民間企業にも無理をしてまでやる必要はない、と。

官民連携は最初の1歩が大事で、1つ実績ができると2歩目、3歩目を踏み出せるものです。

小さくても価値のある結果をはじめの1歩をつくり上げられるようにサポートしています。

編集部:

官民連携をうまく成立させるためには、まず、最初の1歩を踏み出すことが大切なのですね。

鷲見代表:

はい。官民連携の実績を積み重ねていくと、小さな自治体でも、事例についての問い合わせが増えるなど、多くの企業から注目を集めることができます。

自治体に必要なのは、民間企業を理解し、見極めた上での伴走役に巻き込める環境です。そのような環境を醸成するのも、首長や職員の方々の腕の見せどころではないでしょうか。

実際に社会課題を解決、もしくは地域発展の実現を目指し、自治体の環境を企業の技術や知見を用いて解決に導く糧をつくり出す官民連携は、最初は小さな表面的な結果しか生まれない活動からでも、それをどのように成長をさせ、いずれ大きな政策にとなるよう意志を持って育んでいくところに、官民連携事業だけではなく、自治体や企業の組織進化につながっていくと信じております。

よりスケールの大きい社会貢献を

編集部:

今後鷲見代表が取り組んでいきたいことはどのようなことでしょうか。

鷲見代表:

社外との関わり合いの中では、様々な自治体、様々な民間企業と、より大きな課題解決につながるプロジェクトに取り組みたいですね。私の重点分野は子育て・教育・環境ですので、最近では子育て関連企業の連合体のようなものを協力してつくりあげていけたら、と考えています。

また社内外においての後進の育成です。社内人材の育成だけではなく、我々と同じように社会課題を解決する事業を創出する企業も育てていきたいです。我々だけではできることは限られ、そのような企業が多く存在するからこそ、広く深く社会の希望が生まれますから。というと周りからは「競合を育ててどうするの」って言われますけどね(笑)。

2022年3月1日、さとゆめと業務提供を発表。右は、株式会社さとゆめ 代表取締役社長 の嶋田俊平氏

編集部:

本日はありがとうございました。

選挙ドットコム運営のイチニ株式会社は、官民連携事業研究所と事業提携を行いました。

今後より一層社会貢献に励んでいきます。

鷲見英利(わしみひでとし)氏 プロフィール

2002年ハイアールジャパンホールディングスに社⾧補佐として入社。青島海爾の日本市場開拓、ブランディング構築に従事。同社退職後、2006年ジャパンハウジングなど設立し、海外企業の日本参入で得た知見、ネットワークを活かし複数事業を立上げる。2012 年一般社団法人KAI OTSUCHI設立して初代理事⾧就任、その後プロジェクトが評価され総務省地域情報化 大賞奨励賞を受賞。また取締役を務めたママスクエアでも翌年総務省地域情報化大賞奨励賞を受賞し、2 年連続で異なるプロジェクトで評価を受ける。2017年四條畷市特別参与に就任、そして2018年11 月に官民連携事業研究所を創業。延岡市官民連携アドバイザー、京都府スマートシティアクセラレーター、 総務省地域情報化アドバイザーなど兼務する。 

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