「豊かになる前に老いる中国」の悲劇―データが示す中国経済の近未来|澁谷司 全人代で李克強首相が「需要の縮小、供給網への衝撃、市場の期待の後退」という「三重の圧力にさらされている」と危機感を表明した中国経済。経済より政治が優先される習近平政権下で今何が起きているのか。確かなデータをもとに中国経済の現状と近未来を緊急分析する。

中国の財政赤字は、少なくともGDPの300%以上

中国経済に暗雲が垂れ込めている。2008年に起きた「リーマン・ショック」の時期を挟んで、中国経済は割と好調に見えた。だが、2012年11月、習近平政権が発足して以来、徐々に中国経済(<民間>投資と消費)の成長率が鈍化している。

その理由を考える前に、若干、横道にそれるが、不可思議な中国の国民総生産(GDP)について触れておこう(〔図表1〕・〔図表2〕)。

図表1
図表2

GDP=投資+消費+貿易収支+政府支出

〔図表1〕・〔図表2〕の通り、中国のGDPは、概ね、「投資>消費」となる。ただし、投資は消費の2倍ほどは大きくない。

ところが、2009年以降、〔貿易収支+政府支出〕のプラス分があるにもかかわらず、なぜか〔投資+消費〕の2項目だけで、GDPを超えてしまっている(2020年に元に戻る)。そして、投資が消費の2倍近くにもなる。

中国の場合、貿易赤字に陥ったのは、1991年以降、1993年だけで、他の年はすべて貿易黒字である。だから、21世紀以降、貿易収支は常にプラスとなっている。

また、政府支出は必ずプラスとなり、マイナスになることはない。というのは、政府は公務員に給料を払わなければならないし、公務員はその業務をするにあたり、事務用品(PCを含む)等が必要である。また、政府は公共事業も行わねばならないだろう。

〔貿易収支+政府支出〕の2項目が共にプラスにもかかわらず、なぜ〔投資+消費〕の2項目だけでGDPを遥かに超えるのだろうか。おそらく、中国共産党は、投資という項目の中に、政府支出(特に、公共事業)の大半を入れているのではないか。とすれば、北京政府は(財政赤字を覚悟して)政府が巨額の投資を行い、経済成長させていると推測できよう。

そのためか、中国の財政赤字は、少なくともGDPの300%以上ある(『ロイター』「中国の債務がGDPの300%を突破、世界全体の15%に:IIF(国際金融協会)」<2019年7月18日付>)という。

閑話休題。今度は〔図表3〕・〔図表4〕をご覧いただきたい(昨2021年は前年の「コロナ禍」の反動で、投資・消費共に増加)。

図表3
図表4

冒頭述べたように、投資・消費の伸長は共に右肩下がりになっている。なぜ、中国経済は停滞しているのだろうか。

習近平政権は、鄧小平路線の「改革・開放」を捨て、再び社会主義路線へ回帰した。また、習近平政権下では、経済よりも政治が優先されている。これでは、経済発展は難しいだろう。

具体的には、主因は3つあるのではないか。

(1)「混合所有制」改革の実施、(2)「第2文化大革命」(以下、「第2文革」)の発動、(3)「戦狼外交」の展開、である。

ゾンビ企業を存続させる「混合所有制」

第1に、「混合所有制」だが、この改革で(収益率の高い)活きの良い民間企業と(収益率の低い)ゾンビ、またはゾンビまがいの国有企業を合併した。当然、活きの良い民間企業は活力を失って行く。本来、中国共産党はゾンビ企業を救済するよりも、国有企業を倒産させた方が良いのではないか。ゾンビ企業を存続させれば、中国全体での成長は阻害されるだろう。

だが、それにもかかわらず、なぜ習近平政権は、「混合所有制」を導入したのか。もし、国有企業が次々と倒産すれば、大量の失業者が生まれ、更に社会が不安定になるからではないか。他方、「民進国退」(民間経済の拡大と国有経済の縮小)よりも「国進民退」(国有経済の拡大と民有経済の縮小)の方が、中国共産党の影響力を多くの企業へ及ぼすことができるからだろう。

「第2文化大革命」が発動

第2に、習近平主席による「第2文革」の発動である。

中国共産党は1960年代後半、毛沢東と「四人組」が始めた「文化大革命」(以下、「文革」)という政治運動で数千万もの人が死傷した。「文革」のために、中国社会全体が傷ついたと言っても過言ではない。1980年代前半、同党は、「文革」を完全に否定し、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓っていた。

しかしながら、習近平政権は「第2文革」を推し進めている。

具体的には、①西欧的価値観(自由・民主主義、基本的人権)の否定、②(習近平主席への)個人崇拝の奨励、③「習近平思想」学習の強要、④宗教への全面的禁圧、⑤ウイグル人をはじめとする少数民族への弾圧、⑥人権派弁護士へ抑圧、⑦香港への圧政、⑧「密告」(<共産党の教えとは異なる>親や教師の言説を党に通報させる)制度の復活、などである。

近頃、中国共産党は、学校の宿題を禁止したり、学習塾を取り締まったりしている。また、18歳未満の子供のゲーム時間を週末1時間に制限した。更に、当局は、“低俗な”番組をテレビなどから排除し、中国の文化を重視するよう通達を出している。

「戦狼外交」で対外的八方ふさがり

第3に、習近平政権は、海外で「戦狼外交」を展開している。台湾に対する強硬な態度もその一環かもしれない。そのため、対外的に八方ふさがりとなっている。

2010年代前半、中国共産党は、米国を中心とする国際秩序に異議を唱え始めた。おそらく、米国に代わって中国が世界の覇権を握ろうとしているのではないだろうか。特に、米国やオーストラリア等に強硬姿勢を取っている。

例えば、2021年4月、オーストラリアは「新型コロナ」発症地と見られている武漢へ“独立調査団”の派遣を要求した。その反発から、習近平政権は、豪州に対し、石炭やワイン・農産物等の禁輸措置を取った。また、中国当局は中国人観光客が当地への旅行を控えるよう指示するなど、政治と経済をリンクさせた対応を採っている。

「一帯一路」で途上国の隠れ債務が42兆円

他方、習近平政権が肝煎りで推し進める「一帯一路」構想は「コロナ禍」で行き詰まっている。世界貿易が円滑に行われていないので、同構想はあまり機能していないのではないか。

実は、中国の「一帯一路政策」がもたらした途上国の隠れた債務が3850億ドル(約42兆7500億円)に達する(『日経新聞』「[FT]一帯一路関連「隠れ債務」、途上国の見えざる脅威 途上国の対中国未公表債務は約43兆円、米民間調査機関が試算」2021年9月30日付)という。

一方、周知の如く、中国全土に不動産建設が行われ、すでに34億人以上も住めるマンションが建てられている(『サーチナ』「中国の『鬼城』<ゴーストタウン>50カ所以上、破たんに突き進む不動産開発=青島大教授が警鐘」<2015年12月23日付>)。

中国の不動産会社は、中国恒大以外、全体の合計で560兆円の負債を抱えているという試算(『ウォール・ストリート・ジャーナル』「恒大以外にも、中国不動産業者に560兆円負債」2021 年 10 月 11 日付)もある。

最近、3線級、4線級と言われる地方都市では、不動産が値崩れしている(拙稿「値崩れし始めた中国不動産市場」『Japan In-depth』2022年2月20日付)。その現象を(黒竜江省)「鶴崗化(かくこうか)」(鶴崗市は事実上財政破綻した)という。また、その値崩れした不動産価格は「白菜価格」と呼ばれる。

いくら中国の地方の物価は安いと言っても、中古の2LDK(約50〜60平方メートル)が100万円〜200万円程度で買うことができるという。ひょっとしたら、今後、1線級、2線級という大都市でも不動産が値崩れを起こさないとも限らないだろう。

80%が手取り月収5万4000円未満

さて、話は変わるが、中国庶民は余り豊かではないと考えられる。

2021年、中国人1人当たりのGDPが1万2000米ドル(約138万円)を超えたと当局が発表した。
ここで、中国を20%ずつ5つの層に分類し、各層の1人当たりの年間可処分所得(「手取り」年収)を見てみよう。もしかしたら、「手取り」月収の方がわかりやすいかもしれない(〔図表5〕)。

図表5

いつ“革命”が起きてもおかしくない

すると、低所得層は、1ヶ月の手取り「1万円余り」、下位中所得層は、同「2万1000円余り」、中所得層は、同「3万4000円近く」、上位中所得層は、同「5万3000円余り」、高所得層でさえ、同「10万4000円未満」に過ぎない。このように、高所得層(人口の20%)だけが、1人当たりのGDP1万米ドルを超える。だが、残りの80%は、手取り月収5万4000円未満で暮らしているのである。

毎年、『フォーブス』誌では、世界の長者版番付を発表する(“Forbes world’s billionaires list The richest in 2021”)。2021年度版では、第1位から50位までの中で、日本人はたった2人(ソフトバンクグループの孫正義氏とユニクロの柳井正氏)しかいない。けれども、中国人は何と10人もいる。
他方、いわゆる収入不平等指数であるジニ係数(0~1)は、中国の場合、2020年には、0.704である(任沢平「任沢平が中国收入分配報告2021を語る:現状と国際比較」)。著名な経済学者、任沢平は同年、中国の富裕層上位1%の富全体に占める割合が30.6%まで上昇したと鋭く指摘した。

一般に、ジニ係数が0.6以上になると、社会不安が増大し、“革命”が起きやすくなるという。したがって、中国ではいつ“革命”が起きてもおかしくない状況にある。しかし、中国共産党は、「デジタル専制」体制で住民の蜂起を阻止しているのではないだろうか。

ちなみに、少し数字は古いが、厚生労働省の「図表1-3-1 OECD主要国のジニ係数の推移」では、2011年のドイツは0.293、2012年の日本は0.33、(同)米国は0.389となっている。

なぜ、中国では、このように貧富の差が大きいのか。同国には「相続税」、あるいは、固定資産税のような「財産税」がないからだろう。以前、中国共産党は「相続税」等の導入が考えていたようだが、結局、導入されていない。同党幹部らは、自腹を切ってまで富の再分配を行いたくなかったに違いない。

矛盾した新生児数

ところで、目下、中国共産党が危惧しているのは、「少子高齢化」社会の到来ではないだろうか。

まず、「少子化」だが、2020年には、出生数が1200万人となり、前年比265万人も減った(〔図表6〕)。

図表6

そして、翌2021年(同5月に「3人っ子政策」が採用される)には、1062万人で、前年比138万減となっている。出生数は2016年(同年に「2人っ子政策」が実施)には、1786万人(近年では最大の数字)から5年で4割以上も減少した。建国以来、最低の出生数だという。

その原因は色々あるだろうが、結婚数が年々減少(〔図表7〕)しているのもその一因ではないか(逆に、<「コロナ禍」の2020年を除き>離婚数が増えている)。

図表7

その他、中国全体の「都市化」で、男女ともに「晩婚化」が進んでいる。また、教育費の高騰で、2人目以降を産むのをためらうカップルも少なくないだろう。

他方、中国公安部発表の「『2021年全国氏名報告書』公布」によれば、2021年12月31日現在、公安当局に戸籍を登録した新生児は887万3000人だった(『人民網』2022年1月24日付)。

既述の通り、国家統計局発表した2021年生まれの新生児数は1062万人である。前者は後者に比べ、174万7000人も少ない。なぜ、このように矛盾した数字が出てくるのか不思議である。公安局に登録されていない新生児は養子に行くのか、それとも国内外へ売られてしまうのだろうか。

次に、中国にも「高齢化」の波が押し寄せている。近年、15歳~64歳(中国では16歳~59歳までを“労働年齢”とする場合がある)の人口が減少(〔図表8〕)してきた。特に、2019年から翌2020年にかけて、2681万人も急減している。

図表8

豊かになる前に老いる国

また、65歳以上の老齢人口が、2015年と2020年を比べると、4540万人も増加(〔図表9〕)した。全人口に占める割合も、10.5%から13.5%と3ポイントも増えている。

図表9

中国に関しては、以前から囁かれていた「(皆が)豊かになる前に老いる(高齢化する)」という現象が現実化したと考えられる。そして、現在、中国は(生産年齢人口の多い)「人口ボーナス」から(被扶養人口の多い)「人口オーナス」へという道を辿っているのではないか。つまり、労働者数の減少で消費が低迷する一方、1人当たりの社会保障負担が増大傾向にある。

中国の未来は暗い

以上、縷々述べてきたが、政治優先の習近平政権下では、中国経済は益々悪化するに違いない(同時に、「習近平派」対「反習近平派」の党内闘争は熾烈化しよう)。そして、中国の「少子高齢化」という潮流を見る限り、同国の未来は決して明るいとは言えないのではないだろうか。
(付記:この小論は、『Japan In-depth』に掲載されたコラムをまとめたものである。)

澁谷司

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