完全復活に手応え。昨年大不振の山本尚貴が午後トップタイム「クルマが戻った。走っていてうれしかった」

 一昨年のチャンピオン獲得から、昨年はドライバーズランキング13位と、まさに天国から地獄へとも言える大不振に陥ってしまった山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)。2022年の走り始めとなる鈴鹿サーキットで行われたスーパーフォーミュラ第1回公式テストの午後のセッションで、その山本がトップタイムをマークして存在感を見せた。

 初日の総合トップはOTS(オーバーテイクシステム)が使用できた午前セッションでトップタイムをマークした坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)となったが、OTSが使えない午後のセッションでトップに立ち、大きなインパクトを与えたのは山本だった。山本は2日前に行われた鈴鹿ファン感謝デーで今年のクルマに乗ったときから、いい感触があったという。

「土日のファン感で走った時から、去年とは違った感触、手応えを感じていました。昨年のオフから今年にかけて、クルマをもう一度見直してもらって、チームがやってきてくれたことが手応えとして感じられたので、もしかしたらと思っていたのですけど」

「ただ、今日の午前中はクルマの雰囲気は悪くなかったのですけど、まだ合わせきれていないところがあったなかで、午後に向けてちょっと合わせ込みは必要だなと思っていました。それでもクルマのベースとしてかなり進歩が感じられて、ポテンシャルが上がった印象があったので、かなり期待はしていました」

 それでも、午前中のセッションでいい感触を得ながらも山本は11番手に終わり、自らの感覚を疑う場面もあったという。

「午前中にアタックしたときもいい感触はあったのですけど、その割には11番手だったので、自分の感覚とタイム、順位が合わないというのはちょっと……なんて言ったらいいのか、(自分のパフォーマンスが)落ちちゃったのかなと。去年の自信喪失とは違った意味で、さらに追い打ちがかかった感じがありました」

「でも、午後に調整してセッティングを試して、最後にタイムが出そうだなというセットアップの組み合わせで走ったらフィーリングもよくなったし、ラップタイムもよくて、おまけに順番で言ったら一番で帰って来れた。どんな条件であれ、1番時計は気分としてはいいですよね。去年はなかったので」と、素直にうれしさを語る山本。

 スーパーフォーミュラで見せる久々の笑顔からも、今年への手応えと自信を取り戻しつつある姿が伺える。

「去年、替えられるもの(パーツ)は全部替えてもらっていたのですけど、去年1年間は何も成績を変えられずに終わってしまった。こんなに替えても感度として変わったものがなかったので、何か見落としているものがあるのかなと。チームにリクエストを全部飲んでもらったなかでずっと結果を出せなかったので、どんどん説得力はなくなってしまっていたのですけど、このシーズンオフにもう一度クルマを見直してもらって走り出したら、かなり上手く走れるようになったので、まだレースが始まってもいないし、シーズンが始まったばかりですけど……走っていてうれしかったです」

 クルマの症状としては、アンダーステアが改善されたという。

「去年1年間、ずっとアンダーステアに苦しんでいて、決勝でもフロントタイヤが痛みやすくて決勝でペースを上げることもなかなかできない状態だった。今年はそのアンダーステアもコントロールできる範疇で、バランスを取る作業で解決できるところまで持って来れた感じがあります。ようやくクルマが素に戻って、スタートラインに立てたのかなという感触があります」

「まだあくまでもテストですし、多くのドライバーがダメ出しをしている時期なので、タイムは出ていないけど僕みたいに最後に合わせ込めば1周のタイムを出してこれる選手はたくさんいると思うので、どのシーズンもそうですけど結局、開幕してみないとわからないとは思います。でも、去年は1回もトップグループに入れなかったなかで、まずはそういう枠のなかに入れた。ここからのステップは去年とは違うステップだと思うので、これを皮切りに、決して楽観視することなくどんどんステップを踏んでいきたいなと思います」

 今年のスーパーフォーミュラではパッケージとして変更点は多くはないが、そのひとつとして、ワンメイクのヨコハマタイヤのリヤの構造が新しくなった。その変更による影響もあるのだろうか。

「タイヤによる変化はあまり感じていないですね。去年のクルマのバランスがあまりまともではなかったこともあるので、去年からは全体的にクルマがよくなった感じはあるのですけど、それがリヤタイヤが変わったからよくなったというわけではないと思っています。タイヤの変更も性能と言うよりは安全面が担保されるような部分だと思うので、このタイヤでみんなが安全に走ることができればいいなと思います」と山本。

 他の数名のドライバーにも聞いたが、今の段階ではリヤタイヤの構造変更の影響は大きくはなさそうな気配だ。いずれにしても、使用しているクルマやタイヤ、エンジンに大きな変更がないなかで、今季の走り始めのテストで昨年の好調チーム&ドライバーと、不振に喘いだドライバーが入れ替わるような現象が起きているのは興味深い点だ。

「クルマって、改めて難しいものだなと思いましたね。本当に自分が落ちちゃったのかなと思う瞬間もあったのですけど、その自信を取り戻してくれたチームのみんなにはすごく感謝しています。でも、これで終わったわけではないので、ここからきちんと組み立てて、シーズンを通してチャンピオン争いができるような組み立て方を今からしたいなと思います。そのスタートラインには立たせてもらったと思っています」

 山本の完全復活間近の走りとともに、今年のスーパーフォーミュラが昨年とまったく異なる勢力図になりそうな気配が今季の走り始めから感じられた。

ピンクのラインが追加された今年のTCS NAKAJIMA RACINGのカラーリング

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