【レースフォーカス】表彰台の頂点に立ったバスティアニーニ、対してドゥカティファクトリー二人が喫したリタイア/MotoGP第1戦カタールGP

 エネア・バスティアニーニ(グレシーニ・レーシングMotoGP)が2022年シーズンの開幕戦の決勝レースで、トップでフィニッシュラインを駆け抜けた。ドゥカティのサテライトチームであるグレシーニ・レーシングMotoGPのバスティアニーニが、優勝した瞬間だった。
 
 一方、ドゥカティのファクトリーチームは全くと言っていいほど奮わなかった。ドゥカティ・レノボ・チームのジャック・ミラーとフランセスコ・バニャイアはそれぞれ異なる理由でリタイアに終わった。
 
 開幕戦カタールGPのドゥカティ勢について触れていきたい。
 

■初優勝のバスティアニーニ、「ファウストが空からプッシュしてくれた」

 予選で2番グリッドを獲得したバスティアニーニは、フロントロウから決勝レースをスタートした。予選のフロントロウ獲得は、バスティアニーニにとって最高峰クラスで初めてのことだった。
 
 スタート後、レース序盤は5番手付近にポジションを下げたが、レース中盤には3番手、2番手にポジションを回復。そして残り5周、それまでトップを独走していたポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)をかわすとトップに浮上し、そのままチェッカーを受けたのだった。
 
 バスティアニーニがメインストレートの加速でポル・エスパルガロをかわしたあと、確かにポル・エスパルガロは1コーナーにオーバースピードで突っ込んでしまい、コースアウトしたことで3番手に後退した。ただ、リヤにソフトタイヤを選んだポル・エスパルガロはトップを走るという想定外の展開もあって、レース終盤に「タイヤが終わってしまった」と語っている。対するバスティアニーニは、リヤにミディアムタイヤを選び、レース序盤にタイヤを温存したことがレース終盤までの速さの維持につながった。
 
「今日はだいたい状況をコントロールできていたけれど、ポルに追いつけるのかはわからなかった。ポルはすごく速かったから。けれどリヤにミディアムタイヤを履いていたので、レース後半で少し速く走れたんだ」

「フロントロウからスタートするのは初めてだったから、今日は作戦というのは特になかったんだけど、レース序盤は4、5番手あたりを走行し、レース終盤のためにタイヤを温存しておく必要があったんだ。というのも、ここ2、3年、レース後半のためにタイヤを温存しておくのが常に最善の選択だと思っているから。もちろんみんなそういうことをしているけれど、今日僕はタイヤ温存がかなりうまくいったライダーなんだと思う」

 バスティアニーニはレース後の会見のなかで、そう述べた。振り返ってみれば、バスティアニーニにとってルーキーイヤーであった2021年に3位を獲得した2度のレース(サンマリノGP、エミリア・ロマーニャGP)でも、じりじりと追い上げ、レース終盤に3番手のポジションを得ていた。バスティアニーニの経験とタイヤ選択が奏功したレースだったと言えるのだろう。

 とはいえ、バスティアニーニにとってカタールGPの優勝は「思いがけないことだった」ともコメントしている。「今日、表彰台に立てて素晴らしかったよ。優勝を成し遂げたことはかなり予想外だった」

 バスティアニーニはパルクフェルメで、2021年2月に新型コロナウイルス感染症で逝去したチームオーナー、ファウスト・グレシーニ氏について触れ、「この優勝を、ファウスト(・グレシーニ)に捧げたい。彼が空から僕をプッシュしてくれたんだ」と言ってから少しだけ言葉を切ってうつむいた。
 
 また、「僕はナディア(・パドヴァーニ氏。グレシーニ氏の妻で、遺志を引き継いでチームオーナー兼代表を引き継いだ)の目の中にファウストの存在を感じた。つまり、ファウストの、このチームとともに歩むというモチベーションだ。それに、チームのみんなの顔が見えて、最高だったよ」と、表彰台に立ったときの感情を表していた。バスティアニーニ、そしてグレシーニ・レーシングMotoGPにとって、甘美であり歓喜の瞬間だったことだろう。

■ドゥカティが選んだエンジン

 優勝を飾ったバスティアニーニが今季から走らせているのは、2021年型マシンである。すでにそのポテンシャルは昨シーズンに証明されており、バスティアニーニも「このバイクは最高のバイクの一つだと思う」と高く評価している。
 
 その一方で、2022年型マシンを駆るファクトリーチームにとっては失望のカタールGPとなっていた。バニャイアとミラーがそろってリタイアを喫したのだ。
 
 2列目4番グリッドに並んだミラーは、スタートからずるずるとポジションを落とした。そしてついには7周目にリタイア。電子制御のトラブルだったという。ミラーはレース後、こう説明している。

「最初っからバイクがよくなかったってことだよ。電子制御で何か欠けている部分があったんだ。バイクはかなり損なわれたような状態だった。ものすごく変なところでパワーが100パーセントになり、それからストレートに入るとパワーがなくなってしまった。かなりダイレクトに4速に入れなければならず、最終コーナーではみんなが僕を抜いていった。あまりにも遅くて、最終コーナーの立ち上がりでは(後ろから)追突されるんじゃないかと思ったくらいだ」

 ミラーは「知らないバイクみたいだった」と、決勝レースでのデスモセディチGP22を評している。
 
 そしてバニャイアは、9番手を走行していた12周目に8番手のホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)を1コーナーでかわそうとしてインサイドに入ったところで、スリップダウンを喫し、マルティンを巻き込む形で転倒リタイアとなってしまった。ただ、このアクシデントがなかったとしても、二人はこの日、優勝や表彰台を争うペースがなかったと考えていた。バニャイアは「今日は現実的に考えて、6位か7位だっただろう」と言い、ポールポジションからスタートしたマルティンも「今日は強いレースができなくて怒っている。表彰台、優勝争いさえ考えていたのに、ペースが悪くて問題を抱えていた。どれが今の強みなのかわからない。今日はいけても7位とか8位だったと思う」と述べた。

 ここで、今週末の話題の一つとなっていた、ドゥカティのエンジンについて触れたい。ドゥカティは今季、ファクトリーライダーの二人のバイクに2021年と2022年を合わせたエンジンを使用する決断を下し、2022年型マシンを駆るプラマック・レーシングとルカ・マリーニ(ムーニー・VR46・レーシングチーム)には2022年型エンジンを供給している、と見られている。

 フリー走行1回目のセッション中にMotoGP.comの中継のなかでチームマネージャーのダビデ・タルドッツィ氏がエンジンについて尋ねられているが、ここでは明確にファクトリーライダーがどのエンジンスペックを使用するのかについて言及を避け、「ペコ(フランセスコ・バニャイア)は『2022年型エンジンが悪い、2021年型がいい』なんて言っていません。私たちは、ペコに異なるスペックのエンジンを与えます。私たちはライダーのライディングスタイルに合わせて、エンジンをマネジメントすることができます。そしてこのエンジンは、ペコのライディングスタイルに合っています。それから、ジャックにもね。そして、ほかのライダーたちは異なるスペックのエンジンに満足しています」と語るにとどめている。
 
 一方、金曜日の走行後、バニャイアはエンジンについて質問されるとこう答えていた。こちらの方がもう少し明瞭な回答だと言えるだろう。

「僕たちは2022年エンジンを使っていない。可能な限りベストなパッケージを使用している。(2月に行われたインドネシアの)マンダリカテストのあと、この決断を下した。このエンジン、つまり(2022年型と2021年型の)ミックス(エンジン)の方を好んでいる。以前のものより、新しいものよりも気に入っている。これは昨年のエンジンでもないし、完全に今年のエンジンでもない。ミックスなんだ」

 こうした変更が開幕戦のレースウイークに影響を及ぼしたと考えられる。つまり、選択したエンジンに合わせる作業が必要だったはずだ。初日、そして土曜日のライダーのコメントにもそれがにじんでいた。バニャイアは決勝レース後、今週末についてテストライダーのような気分なのでは? と問われ、「テストライダー(のような気分)ではないけれど。ファクトリーチームにいるなら、ライディングだけに集中するものだ。今はこの先に向けた途中といったところだろう」と答えている。

 バスティアニーニの優勝の一方で、ドゥカティ勢としては懸念が残る結果となった開幕戦だが、ドゥカティの開発のスピードは昨シーズン後半戦の成績が示している。今後どのような巻き返しを見せるのか、ドゥカティには注目せざるをえないだろう。

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