3月8日は国際女性デー【世界29カ国の中堅企業の経営幹部における女性比率】調査対象国平均は30%台を維持

日本は前回調査から横ばいの15%で調査対象国中唯一の10%台を記録し、過去12年において最下位

2022年3月7日
太陽グラントソントン https://www.grantthornton.jp/

太陽グラントソントンは、2021年10月~12月に実施した非上場企業を中心とする中堅企業経営者の意識調査の結果を公表した。この調査は、グラントソントン加盟主要29カ国が実施する世界同時調査の一環である。

・アジア太平洋地域を含む世界のすべての地域で経営幹部における女性比率が30%を超える
・日本の経営幹部における女性比率は調査対象国中唯一の10%台を記録し、世界最低水準に
・企業の経営幹部に女性が在籍する割合は調査対象国平均で90%、日本での割合は52%にとどまる

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表1および次項表3内の比率(%)が同じ国は、小数点以下の数値で順位付けしている。
※1:本質問の経営幹部には以下が含まれます。最高経営責任者(CEO)/代表取締役社長・会長・その他会社代表者、最高業務責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)/財務担当取締役、最高情報責任者(CIO)、取締役人事部長、最高マーケティング責任者(CMO)、取締役経営企画部長、財務部長、経理部長、取締役営業部長、パートナー、共同出資者、共同経営者等。
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世界29カ国の中堅企業経営者に、「自社の経営幹部(※1)の女性比率」について尋ねたところ、全調査対象国29カ国の平均は32%を記録し、2021年3月発表の前回の調査結果から1ポイント増加と緩やかな上昇をみせた。地域ごとでは、前回の調査では世界でアジア太平洋地域のみ30%を下回る結果となったが、今回2ポイント上昇し初めて30%台に到達した。

日本の中堅企業における経営幹部の女性比率は、前回の調査から横ばいの15%で調査対象国中唯一の10%台を記録し、引き続き調査対象国中最下位となった。

国別に見ると、経営幹部の女性比率が最も高かったのは南アフリカの42%であり (前回調査比1ポイント減) 、次いでトルコ40% (前回調査比5ポイント増) 、マレーシア40%(前回調査比3ポイント増)であった。調査対象国29カ国中25カ国が30%台またはそれ以上の割合を記録した。

「経営幹部に一人も女性がいない」中堅企業の比率は日本が引き続きワースト1位

唯一の40%台で各国から大きく引き離される

経営幹部に一人も女性がいない中堅企業の割合は、日本が48%と前回に引き続き調査対象国中で最も多く、調査対象国中唯一の40%台後半であった。
調査対象国平均は、前回より横ばいの10%であり、90%の企業は最低でも一人は経営幹部に女性を登用していることが明らかになった。
近年、経営幹部に一人も女性がいない中堅企業の割合において、一桁台%の水準を維持していたナイジェリアが、今回の調査でついに0%を記録した。
減少幅が大きかった国では、イタリア(12%、前回調査比11ポイント低下)、韓国(33%、前回調査比7ポイント低下))が並んだ。 (表3)

新型コロナウイルスが女性躍進へ与えた影響

新型コロナウイルスの感染拡大によって生まれた新しい働き方は、女性にとってメリットがあるかを尋ねたところ、調査対象国平均では「そう思う」または「とてもそう思う」と回答した割合が62%であったところ、日本では17%と大きな差が開いた。 (表4-A)

また、新しい働き方が女性の長期的なキャリアパスにプラスの影響を与えるかどうかを尋ねたところ、調査対象国平均では「そう思う」または「とてもそう思う」と回答した割合が73%にのぼった一方で、日本ではその割合は41%に留まった。 (表4-B)

女性人材が活躍しやすい働き方を取り入れているかを尋ねたところ、調査対象国平均では73%が、日本では42%が「とてもそう思う」または「そう思う」と回答した。 (表4-C)

外部のステークホルダー*からのジェンダーバランスに対する働きかけについては、調査対象国平均では過半数の61%が、日本では22%が強まっていくと予測した。 (表4-D)

新型コロナウイルスが女性のキャリア形成にあたえる影響は予測不能であるか尋ねたところ、調査対象国平均では62%、日本では56%が「とてもそう思う」または「そう思う」と回答した。 (表4-E)

従業員のエンゲージメントとインクルージョンの維持に向けた施策

新型コロナウイルスの影響を受けて、過去12ヶ月の間に従業員のエンゲージメントとインクルージョンを維持するために講じた施策について尋ねたところ、調査対象国平均および日本、米国、英国の3カ国で最も多かったのは、「従業員のワークライフバランスや柔軟性の促進」であった。
日本は「特に対策は取っていない」と回答した割合が22%と、ここでも調査対象各国との意識の差がうかがえる結果となった。(表5)

女性の上級管理職の内訳

実際に女性が就く上級管理職の内訳を尋ねたところ、調査対象国平均では取締役人事部長が最も多い39%となり、次いで最高財務責任者(CFO)の37%であった。日本においても、取締役人事部長が最も多く、16%であった。(表6)
また、経営幹部のうち、最高経営責任者(CEO)*の女性比率は、北米、南米、東南アジア諸国連合ではそれぞれ32%、34%、32%と比較的大きく、対照的にアジア太平洋地域では16%と少ない傾向にあった。

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世界29カ国の中堅企業の経営幹部における女性比率

矢島洋子 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主席研究員

今年の調査では、「経営幹部における女性比率」平均が、EU加盟国のみならず、アジア太平洋地域でも30%台に乗ったということが、特筆すべきことであろう。世界のジェンダー平等の推進という視点からは喜ばしい結果であるが、そのような状況下で、日本が引き続き最下位であると同時に、数値も横ばいで増加傾向がみられないということは、我々日本人が重く受け止めるべき結果であろう。表2の推移でみると、日本は2018年から2019年にかけて大きく増加したものの、それ以降はほぼ横ばいと言ってよい状況であろう。厚生労働省「雇用均等基本調査」の結果でみると、「課長相当職以上(役員を含む)」の割合は、平成25年度(2013年)から女性活躍推進法が施行された平成28年度(2016年)にかけて3%ほどの上昇がみられるが、その後直近の令和2年度(2020年)までほぼ横ばいで1%未満の上下にとどまっている。

雇用均等基本調査の結果には、女性活躍推進法の影響がみられる。法対応として、管理職手前で滞留していた女性社員を一斉に積極登用したため、法の施行前後に管理職比率が数%跳ね上がったが、中長期的に女性管理職を育成・登用するパイプラインができていなかったために、その後伸び悩んでいる。そうした大企業のここ数年の動向が、そのままデータにあらわれているように見える。

太陽グラントソントンによる調査は、非上場の中堅企業が対象であり、もしかしたら、2018年から2019年にかけての伸びは、大企業の対応に追従した結果であるかもしれない。だが、いずれにしろ、短期的なポジティブ・アクションで、管理職候補層の女性社員の積極登用を行った後の施策が続いていない、という問題は共通しているとみられる。

「経営幹部に一人も女性がいない」中堅企業の比率も、日本は唯一の40%台で断トツのワースト1である。昨年調査よりも、割合が高まっているというのも残念な結果だ。雇用均等基本調査でも、「課長相当職以上(役員を含む。)の女性管理職を有する企業」の割合は、平成27年度以降改善していない。令和2年度調査の比率が52.8%であり、今回の中堅企業の調査結果と同水準である。経営幹部層に一人も女性がいない企業でも、ゼロをイチにしようとする取組みがなされていないことがわかる。

これらの結果は、表5の「新型コロナウイルスの影響を受けて」「従業員のエンゲージメントとインクルージョンを確保するためにどのような行動を」とったか、という質問に、「特にない」と答えた企業が、日本では22%ととびぬけて高い割合であったこととも符合する。経営幹部への女性の育成・登用のパイプラインを作る取組みと、表5で示されている従業員のエンゲージメントやインクルージョンを確保するための行動とは共通している部分が多い。日本では、女性活躍のみならず、コロナ禍において、多様な社員のエンゲージメントやインクルージョンを確保することや、そのための働き方改革において、他の調査対象国と差が開いてしまっている可能性がある。

働き方についていえば、新型コロナ対応のため、世界各国で「テレワーク」等の柔軟な働き方が促進されたとみられる。日本でも従来に比すれば大幅な推進がはかられたが、その利用は、大企業の正社員(事務職、管理職、IT専門職等)を中心としたものに留まっている。結果として、非正規割合かつエッセンシャルワーカー等対人サービスの割合の高い女性においては、テレワーク利用率が低い状況にある。
また、2020年3月に発令された緊急事態宣言を契機として、急遽全社員を対象としたテレワーク活用が必要となったため、テレワークを主とした働き方で生産性の高い仕事ができる環境整備が追い付いていない。テレワークに必要なITツールの導入のみならず、ペーパレス化や電子申請・決済、テレワークを前提とした仕事のアサインや評価、コミュニケーションの取り方などのマネジメントルール。こうしたものが整っていないため、テレワークの活用に対しても、いまだネガティブな評価をする企業も少なくない。そのことが、今回の調査では、表4-A、B、Cの「新しい働き方」の効果に対して、日本の企業が他の調査対象国に比べて消極的な評価である原因のひとつであろう。
テレワークが十分導入できていない(利用できる企業・労働者が限られている)という問題と、テレワークを活用して生産性の高い仕事や公正な評価ができていない、という問題が、本来ならば期待されるはずの女性の活躍に対するテレワークの効果を弱めてしまっている。
責任は、企業にだけにあるのではなくコロナ禍により保育や介護サービスの利用が限定的になったり、小中学校の休校や不十分なオンライン授業環境により、家庭の負担が重くなることで、家事・育児の家庭内役割を多く担っている女性への負担が増していることにも原因の一端があろう。
テレワーク利用が可能になっても、男性と女性とでは、仕事に集中できる時間、環境に差がある。また、今回の調査は、企業を対象としたものであるため、女性の休業・失業者について、どこまで考慮されているか明確ではないが、日本でも他の調査対象国においても、飲食・宿泊業における休業や倒産の影響による女性の休業・失業は増加しているとみられる。
だが、もし欧州において推進されてきた、フレクシキュリティ政策が機能し、コロナ禍で職を失った労働者が、職業訓練を受け、コロナ禍でも成長・拡大を遂げる業界へ移ることができているとしたら、コロナ禍による失業のマイナスの影響は、日本よりも小さくできている可能性がある。こうした社会政策が機能しているかどうかも、コロナ禍における女性活躍推進に対する企業の積極性に、影響を与えている可能性がある。

今後の見通しについては、表4-Dの「外部のステークホルダーからのジェンダーバランスに対する働きかけ」に関する企業の見方が影響してくると考えられるが、ここでも、日本企業の意識は低い状況にある。日本でも、コーポレートガバナンスコードの改訂やESG投資に対する関心の高まりにより、上場企業経営層の管理職・役員における女性比率に対するコミットは高まっているとみられるが、非上場企業においては、まだ危機感を持たれていないようである。大企業においては、グローバルな人材獲得競争を意識して取り組んでいる面もあるが、中小・中堅企業も、日本の若年労働人口の大幅な減少という足もとの状況を踏まえ、多様な人材の受け入れと活躍を促すことのできる環境整備に、高い意識をもって取り組むことが肝要であろう。コロナ収束の目途が立てば、人材獲得競争は激化することが目に見えている。女性の採用、経営幹部層の育成・登用を可能とする柔軟な働き方とその働き方に即した適性な評価は、同時に、女性に限らず多様な人材を獲得し、活かす経営につながることは言うまでもない。世界がこのことを十分に理解して、毎年着実に取組みを推進して成果を上げているという事実を重く受け止め、日本企業も積極策に転じることが必要だ。

以上

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矢島 洋子(やじま ようこ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
執行役員 主席研究員
政策研究事業本部 東京本部副本部長

近年は、特に、「ダイバーシティを推進する働き方改革のあり方」、「職場における短時間勤務の運用方策」や「多様な働き方に前提としたキャリア形成のあり方」、「仕事と介護の両立支援」に着目した調査研究・コンサルティングに従事。

■専門分野: 少子高齢化社会対策、ワーク・ライフ・バランス、女性活躍推進

■経歴
学歴:慶應大学法学部卒
職歴:内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官(2004年4月~2007年3月)
大学講師など:中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2010年4月~2021年3月)

■パブリシティなど
女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室
https://www.murc.jp/corporate/bizdev/diversity/
「企業におけるダイバーシティ推進」(季刊 政策・経営研究 2017Vol.4)※英語版
https://www.murc.jp/english/report/quarterly_journal/qj1704/

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「経営幹部の女性比率」に関する世界29カ国同時調査 - 概要

実施期間:2021年10月~12月

参加国数:29カ国
(アジア太平洋地域) 日本、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、 フィリピン、韓国、ベトナム
(EU加盟国) フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、スペイン、スウェーデン
(北米・南米) 米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ
(アフリカ) 南アフリカ、ナイジェリア
(その他)英国、トルコ、ロシア、アラブ首長国連邦

調査対象:世界29カ国4608社の中堅企業ビジネスリーダーまたは経営トップ
日本からは従業員数100名以上1,000名未満の全国の中堅・中小企業から232社の意志決定権を持つ経営層が回答した。

調査について:質問表を各言語に翻訳し、オンラインおよび電話で行い、調査会社Dynata(旧社名:Research Now)がデータの取りまとめを行った。

利用上の注意:統計の数値は、表章単位未満の位で四捨五入しているため、総数と内訳の合計は必ずしも一致しない。
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太陽グラントソントン

所在地:東京都港区元赤坂1-2-7 赤坂Kタワー18F
代 表:梶川 融(公認会計士)
グループ会社:太陽有限責任監査法人、太陽グラントソントン税理士法人、太陽グラントソントン・アドバイザーズ株式会社、太陽グラントソントン株式会社、太陽グラントソントン社会保険労務士法人、太陽グラントソントン・アカウンティングサービス株式会社

太陽グラントソントンが提供する事業領域: 太陽グラントソントンは、Grant Thorntonの加盟事務所として世界水準の会計コンサルティング業務を提供します。 監査・保証業務、IPOサービス、内部統制、M&Aトランザクションサービス、IFRS アドバイザリーサービス、国際/国内税務、移転価格税制コンサルティング、事業承継、財団法人支援、外資系企業に対するコーポレート サービス、労働法務コンサルティング、海外進出支援、財務・業務管理システム導入・運用コンサルティング

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