“ヒーロー未満”のバットマン映画
なるほど、こう来るか! 1989年のティム・バートン×マイケル・キートンの『バットマン』、2005年からのクリストファー・ノーラン×クリスチャン・ベイルの『バットマン・ビギンズ』に始まるダークナイト3部作、そして2016年からのザック・スナイダー×ベン・アフレックによる『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』――。大河ドラマの織田信長ぐらい、何度も新たなクリエーター&解釈でリブートされてきたバットマン。
いわゆるスーパーヒーロー的なバットマンだったベン・アフレック版に対し、最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』はスーパーヒーローどころか、ヒーローとしても認められていないバットマンの物語です。ゴッサムの人々は突然現れた、このマント姿の自警団員(ヴィジランテ)をどう受け入れていいかわからない。そういう意味で、ブルースがバットマンになるまでをじっくり描いた『バットマン・ビギンズ』に似ていますが、それとの差別化を狙ったであろう3つの大きなポイントがあります。
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まずは“バットマンになるまで”、つまりデビュー年を描いた『バットマン・ビギンズ』に対し、本作は“バットマンになって2年目”の物語です。社会人でも学生でもそうですが、デビューまではなんとかなるけれど、自分がこれで&このままでいいのか? 的な迷いというのが2年目から始まります。
乱暴な言い方をすれば、デビューは勢いでなんとかなるけれど、それを続けられるか? 的な不安と言いますか。今回のブルースはなんとかバットマンになったけれど、まだまだ素人みたいな戦い方をするし、街の人からも信頼されていない。そういう状況です。したがってクリスチャン・ベイルのブルースよりも、ロバート・パティンソンは精神的に不安定。それが伝わってきます。
そしてバットマンとしての“準備”がまだできていなんですね。『ビギンズ』の時はルーシャス・フォックスがいてくれたので(笑)、バットスーツやバットモービル(バットタンブラー)等のガジェットも充実していたのですが、本作にはまだそういう物が出てこない。バットスーツは防弾仕様でケープ(マント)にも滑空機能等はあるのですが、そう、トム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズ(2017年~)でピーターが、トニー・スタークの作ったスーツではなく手作りのコスチュームで活躍していましたよね。あんな感じです。
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なのでバットマンがそんなに強くない、というかヒーロー無双ではない。メンタル的にもグラついていて(だから相手をたたきのめす時に力の加減も知らない)、しかも装備が不十分。バットマンの本来持っていた強い意志、ハイテク・ガジェットといったヒーロー要素がなくて大丈夫なのか? しかし、ここに今までのバットマン映画で描かれてこなかった武器、“知性”が描かれます。
実はバットマンの仇名には、ダークナイトの他に「ケープド・クルセーダー(マントをつけた救世主)」、そして「ワールズ・グレイテスト・ディテクティブ(世界最高の探偵)」というものがあります。今回のバットマンの武器はこの“探偵力”で、リドラーの謎解き犯罪を追っていくバットマン、というアプローチを取っています。リアル脱出ゲーム的なリドラーの挑発に翻弄されるバットマンなのです。
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新たなリドラー&キャットウーマンにも要注目!
今回のヴィランはリドラー。“リドル=なぞなぞ”に由来するキャラです(60年代のTVドラマ版が日本で放送された時は“ナゾラー”という名前で翻訳されていました)。ジョーカーにとって犯罪がジョークなら、リドラーにとって犯罪はゲームなのです。しかし、今回はコミックにはない設定を加えています。リドラーを連続殺人鬼にしたのです。
監督のマット・リーヴスは、実際にアメリカで起こった連続殺人事件の容疑者ゾディアックを参考にしたといいます。したがって、本作はブラッド・ピット出演の『セブン』(1995年)っぽいです。正直に言うとヒーロー映画としてのケレン味は少ないですが、え! この先どうなるの? と、約3時間の上映時間を飽きさせない濃厚な映画になっています。
また、ゾーイ・クラヴィッツ演じるセリーナ(後のキャットウーマン)が想像以上に良かった。野良猫感が出ていて、ゴッサムの暗部でたくましく生き抜いてきた女性をうまく演じています。全体を通して見応え十分だし、このバットマンたちで続きを観たい! と思わせてくれました。
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なお、本作で描かれるゴッサムの治安は過去の映画シリーズにおけるゴッサムの中でもトップクラスの最悪さです(笑)。というわけで“悪徳の街”ツアーをたっぷりお楽しみください。
文:杉山すぴ豊
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は2022年3月11日(金)より全国公開
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