倉敷が誇る、大原美術館。
わたしはアートが大好きで全国の美術館を訪れています。そのなかでも大原美術館は、特に好きな美術館のひとつです。
西洋美術から現代の国内外の作品まで、素晴らしい作品が展示されています。
しかし、大原美術館の魅力はそれだけではありません。「美術館ってハードルが高い」と思っているかたでも、楽しめるところなんです!
モデルの いさこさんと一緒に美術館を訪れ、スタッフの岡崎さんに案内してもらいました。
大原美術館の魅力を、ぎゅっと凝縮してお伝えします。
大原美術館内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。
大原美術館とは
大原美術館の成り立ち
大原美術館は1930年(昭和5年)に設立された、日本で最初の、西洋美術中心の私立美術館です。
当時の日本では、なかなか本物の西洋絵画を見ることができませんでした。
優れた作品を日本でも見られるようにしたい――画家・児島虎次郎(こじま とらじろう)の強い思いに、事業家である大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)が賛同。
日本芸術界の発展のため、孫三郎の支援のもとで、虎次郎は西洋絵画を収集しました。
現在大原美術館の中核をなしているのは、このとき集められた作品です。
ふたりは深い友情で結ばれていたそう。友情と熱意からできた美術館なんです。
大原美術館の構造
大原美術館は、本館、分館、工芸・東洋館にわかれています。
収蔵点数は約3,000点。2023年4月現在、展示されているのはそのうちの約半分です。
ミュージアムショップもあり、お土産を買うこともできます。
本館の正面にある「有隣荘」は通常非公開で、毎年春と秋に特別公開されています。
大原美術館関連施設
- 分館(休館中)
- 工芸・東洋館
- 児島虎次郎記念館(正式名称決定前は「新児島館(仮称)」。2024年度末グランドオープン予定)
- ミュージアムショップ
- 有隣荘
大原美術館 本館の見どころ 作品
山ほどある素晴らしい作品のなかから、見どころを簡単に紹介します。
エル・グレコ「受胎告知」
日本にあるのが奇跡といわれる作品です。
聖母マリアがキリストを身ごもったことを天使から告げられるシーンで、色使いも背景もドラマティック!
実は聖母マリアの頭上の輪っかは、後世に描き加えられたものだそうです。それも絵の歴史として、そのまま残しているそうですよ。
モネ「睡蓮」
数多ある「睡蓮」のなかでも、モネ本人のお気に入りで、売らずに手許に残しておいた作品だそうです。
大事な作品を渡してくれたのは、日本に対するリスペクトがあったと考えられます。
描かれているのは池と睡蓮ですが、水面に空や雲が映っているのがわかるでしょうか。
ぜひ、少し離れて観てみてください。
ゴーギャン「かぐわしき大地」
原始的な生活を求めたゴーギャンが、南太平洋に浮かぶタヒチに渡って描いた作品です。
神秘的な雰囲気を感じました。
ピカソ・藤田嗣治・マティス・モディリアーニなど、有名作家の作品
大原美術館には、作家の「傑作のひとつ」といわれるような作品が多数展示されています。
たとえば写真右のマティスの作品は、モデルであるマティスの娘さん本人が「やっぱり手放すんじゃなかったわ」と後悔したくらいの名作なんですよ。
現代美術もいろいろ
大原美術館に展示されているのは、中世の西洋絵画だけではありません!
たとえば、真っ赤に塗ったキャンバスを切り裂いた作品なども。
わたしは高校生の時にこの作品を見て、すごく衝撃を受けました。「アートはこうでなきゃいけない」なんてないんだなあと思ったのを、鮮明に覚えています。
美術界に激震を走らせたアーティストであるデュシャンの作品や、「水玉の女王」と呼ばれる草間彌生(くさま やよい)さんの作品など、幅広いジャンルの作品があるんですよ。
大原美術館 本館の見どころ 建物
ローマ神殿のような外観
大原美術館本館は、ローマ神殿風の建築です。
大きな柱から威厳を感じます。
建築様式の異なる内観
増築された本館アトリウムは、開放感のある吹き抜け。
壁や天井がモダンでおしゃれです。
写真右のほうにある鉄骨の柱は、増築工事をしたときに発見されたのだそう。美術館の歴史を感じられるものとして、残してあります。
白壁&珍しい赤壁の工芸・東洋館
工芸・東洋館は、和の建築です。
白壁だけでなく赤い壁の蔵もあって、目を引きます。
写真左奥に見える倉敷国際ホテルの壁の一部にも、同じなまこ壁風のデザインを使用しているそうです。大原美術館から見たときになじむように設計されているんですね。
美術館ってハードルが高い? 難しい?
アートを楽しむには知識や教養が必須だと思っていませんか?
そんなことはありません!
スタッフの岡崎さんに、アートの楽しみ方の例を教えてもらいました。
- 気になるものは、なんで気になるのかを考えてみる
- どういうふうに描かれているの?とじっくり観察してみる
- なんでこの色なんだろう?など、不思議がってみる
- 作品を見たときの自分の感情に着目してみる
- タイトルや作家名を隠して、純粋に見てみる
上記はあくまで例なので、楽しみ方は自分なりでOK。
「観察の目が変わると、毎日が変わります。面白いものとの出会いを楽しんでください」と話してくれました。
大原美術館をもっと楽しむ、ちょっとしたスポットとワザ
丸窓から見る景色
本館2階のギャラリーの丸窓は、窓も景色も美しいので、お見逃しなく!
美観地区は高い建物がほとんどないので、美観地区を間近で見渡せる場所は貴重です。(※大原家の旧別邸「有隣荘」からは見晴らしが良いですが、通常非公開)
入口にそびえ立っていた柱の上部の装飾も、間近に見えます。
ある場所から庭を広く見渡せる
本館内のある場所から、「新渓園」の日本庭園を広く眺めることができます。
気づきにくい場所にあるので探してみてくださいね。
別館(分館/工芸・東洋館)は後日見ることもできて、期限ナシ
大原美術館には3つの館(本館/分館/工芸・東洋館)があり、各館に入る時にそれぞれの入口でチケットに押印されます。
チケットにスタンプが押されていない館(入館していない館)は、チケットを持っていれば別の日でも利用できます。特に期限もありません!
もしあまり時間がなくても、「今回は本館だけ見て、また倉敷に来たときに分館と工芸・東洋館を見よう」といったことができます。
分館は新型コロナウイルス感染症拡大対策のために休館中です
大原美術館の活動
大原美術館は、作品を飾っているだけではありません。
地域のため、アート界のため、いろいろなかたに大原美術館を知ってもらうために、さまざまな活動をしています。
- 学芸員が、美術館の歴史や作品について解説する「ギャラリーツアー」
- 作品の前で感想などを話し合う「フレンドリートーク」
- 美術館の中でのコンサート
- 大原美術館内や旧別邸「有隣荘」で行うヨガ
- 館長による美術教室
- 参加型体験プログラム「チルドレンズ・アート・ミュージアム」
- 地元小・中学生向けの学習支援
- 未就学児童を対象とした体験プログラム
- 若手作家を倉敷に招いて滞在制作を支援し、展覧会を実施する「ARKO」
- ナゾ解きゲーム 大原美術館に眠る『ヒミツの絵画』を探せ
特にこども向けの支援活動の多さは、全国指折り!
「歴史があり世界的にも評価の高い美術館なので、”お高くとまって”いてもおかしくない」と個人的には思うのです。
それでも広く柔軟な活動をして、「みんなが楽しめる美術館」であること、こどもが気軽に本物と対面できる機会を作っていること、今を生きるアーティストを応援していること――わたしが大原美術館を大好きなところです。
後半の記事では、大原美術館のスタッフ岡崎翔太さんにインタビューし、大原美術館の思いやアートの面白さについて教えてもらいました。
取材協力
- モデル:いさこ
岡崎翔太さんにインタビュー
大原美術館のスタッフである岡崎翔太(おかざき しょうた)さんに、インタビューしました。
インタビューは2019年3月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
美術館はよどんだ陳列場ではいけない。大原美術館の理念
──大原美術館が目指すところ、理念を教えてください。
岡崎──(敬称略)──
孫三郎の跡を継いだ長男の大原總一郎(そういちろう)は、「美術館は倉庫のようによどんだ単なる陳列場であるのでなく、常に生きて成長しなければならない」と言っていました。
2019年で創立から89年経ちますが、孫三郎と總一郎の意志は今も生きていて、美術館としてどうあるべきか、スタッフは理念や使命を共有しています。
──使命とはどんなものですか?
岡崎──
ひとつに、アートやアーティストに対する使命があります。
現在から見るとモネやルノワールなどは「昔の人気作家」ですが、収集当事は生きている作家の「現代アート」だったんですよね。
大原美術館は、ずっと「現代アート」を扱ってきた美術館です。評価が定まった過去の作家の作品を買ってきたわけではありません。
今も、制作支援・企画展・作品購入などで今を生きる作家を支援しています。
次に、鑑賞者に対する使命です。
どんなかたに対しても分け隔てなく、あらゆる鑑賞者がアートと接することができる場であること。
特にこども向けのアートに親しんでもらう普及活動は、日本の美術館のなかでも際立って多く行なっていますね。
新展示棟は、アートを身近に感じられる作品が揃う
──本館のなかで、岡崎さんが個人的に特に好きなところはどこですか?
岡崎──
難しいですね。たくさんありますが強いて挙げるなら、2階のエル・グレコ『受胎告知』の先にある、新展示棟でしょうか。現在の展示では、抽象画の多いエリアです。
抽象画の作品は、「何が描かれているか」だけに着目すると見るものがなくなってしまうと思うんですね。どう描かれているか、見てどういう気分になったか、絵を通じて自分に向き合える作品が揃っています。
未知との遭遇を楽しめて、アートを身近に感じられるのではないでしょうか。
アートが面白くなると、何を見ても面白い
──岡崎さんは昔からアートと関わりが深かったんですか?
岡崎──
実は、そうではありません。むしろ今の仕事をするまでは、無意識にアートに対して勝手に壁を作っていたところがありました。
でも、絵との距離のとり方がわかったといいますか、アートを見るのに知識はそんなに必要なく、ただ単に作品との対話から始められることがわかって、面白いなあと。
アートって面白いんだなと心から思えるようになって、何を見ても面白くなりました。
絵に限らずいろいろなものをよく見るようになり、自分にプラスになっています。
──働いていてうれしいときはどんなときですか?
岡崎──
お客様と感覚を共有できたときですね。お客様とアートとの距離が縮まったなと感じると、嬉しいなと感じます。
鑑賞の感想と、インタビューを終えて
いさこさんの感想
正直ふだんアート作品を見ることはあまりありませんでしたが、楽しめました。奥が深くて面白かったです。
またゆっくり来たいと思います。
インタビューを終えて
「日本の芸術のために」という孫三郎と虎次郎の情熱からうまれた大原美術館には、今でもその理念が生きています。
作品を生み出した人、それを集めた人、作品を守りながら親しんでもらおうとする人、たくさんの人の熱い想いとパワーが詰まった空間だなあと感じました。
素敵なアートをゆっくり眺める時間は、きっと極上のとき!
世界的な名画が見られるだけではありません。お気に入りや不思議を探したり、建物や景色を眺めたり。きっと何か「面白い」に出会えます。
ぜひ大原美術館に足を踏み入れてみてください。