【客論】同志社大大学院総合政策科学研究科教授 大和田順子 持続可能な地域づくり研究

 世界では循環型社会、カーボン・ニュートラル、ネイチャー・ポジティブへの関心が高まっています。カタカナが多いのは困りますが、カーボン・ニュートラルは温室効果ガスであるCO2を排出と吸収でプラスマイナスゼロにしようという考え方。また、ネイチャー・ポジティブは、生物多様性や自然を優先し、これまでの減少傾向に歯止めをかけ、回復・増加に転じるよう取り組むという考え方です。おなじみのSDGsの目標で言うと、12=持続可能な生産と消費、13=気候変動対策、15=陸の生態系が近いでしょう。

 私は、2014年から6年間、世界農業遺産等専門家会議委員(農林水産省)を務めました。世界農業遺産(GIAHS)は国連食糧農業機関(FAO)が02年に開始した制度です。委員の期間中、初めて関わった申請は、15年に認定された「清流長良川の鮎」(岐阜県)、「みなべ・田辺の梅システム」(和歌山県)そして「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」の3地域。認定後は委員も地域活性化など支援を行うことができましたので、観光審議会委員を務めていたご縁もあり宮崎には足しげく通ってきました。

 15年にSDGsが採択されました。同じ国連機関の制度であるGIAHSもSDGsとの関わりを考え、その目標達成に向けた取り組みが需要だと言われてきました。私は18年からSDGsと世界農業遺産に関する研究を始め、認定地域の調査を行いました。それによれば、目標2=持続可能な農業、15=陸の生態系には全地域が取り組み、その他4=質の高い教育、6=水管理、12=持続可能な生産消費に取り組む地域が多いことが分かりました。

 昨年4月から大学の教員として京都暮らしを始めましたが、その前は、地域力創造アドバイザー(総務省)として日之影町に3年間通いました。日之影川の透明感、川沿いの森林セラピーロードの気持ち良さは忘れられません。体験制作したわら飾りや竹かごは今も自宅に飾ってあります。

 19年、町内の取り組みをSDGsの3側面(環境・社会・経済)から整理して、役場の皆さんとお話ししたことがあります。環境面では、日之影温泉のバイオマス熱利用、山腹用水路を活用した大人地区の小水力発電、環境配慮農産物に関する町独自の認証制度など。社会面では森林セラピー、神楽・歌舞伎を通じた地域の絆や交流。経済面では清流・有機農業・森林セラピー・バイオマスなどによる地域経済を挙げることができるでしょう。当時開発したマインドフルネスと森林セラピーを融合した「マインドフル森林セラピーツアー」。今年も定員に達し開催されるそうです。

 農山漁村は江戸時代以前から、森・里・川・海を守り、生業を続け、その地域固有の文化を守りつないできた地域であること、人と人、人と自然との豊かなつながりがあること、都市と違って100年単位でものを考える習慣があることを全国のGIAHS地域から学びました。まずは30年の持続可能な地域の未来について考えてみませんか。

 おおわだ・じゅんこ 1959年東京都生まれ。世界農業遺産等専門家会議委員として、高千穂郷・椎葉山地域の認定に関わった。京都市。

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