混沌の勢力図と低迷から一閃。いきなり優勝候補に浮上した坪井翔「きっかけはGT500のタイトル獲得」【鈴鹿公式テストあと読み】

 鈴鹿サーキットで開催されたスーパーフォーミュラ2022年の走り始めとなる公式合同テスト。その2日間/4回のセッションでは昨年低迷していたドライバーたちの顔ぶれが上位に並び、昨年からの勢力図が大きく変わりそうな気配が感じられた。クルマ、エンジンが変わっていないなかで唯一、リヤタイヤの形状がわずかに変わった今年のスーパーフォーミュラ。その変更の背景と、テストで大躍進を見せた坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)にフォーカスした。

 2022年のスーパーフォーミュラは昨年からリヤタイヤがわずかに変更になり、今回の鈴鹿サーキットでの公式合同テストから全6セットに投入された。その経緯をヨコハマタイヤの髙口紀貴エンジニアが話す。

「2022年仕様のリヤタイヤは耐久性の向上をメインに変えています。タイヤの特性を変えようという意図はまったくありません。タイヤは外側の形状が若干、変わっています。タイヤのトレッド面のショルダー部が若干、丸みを帯びるような形になっています」と髙口エンジニア。

昨年のタイヤと並べれば違いがわずかにわかるという程度の違いで、単体で見る限りではほとんど見分けが付かないが、それでもコーナーリング中などでのタイヤへの圧を緩和、分散させて耐久面での向上の狙いが実現されているという。

 その安全面での変更の効果は大きいようだが、今年のタイヤには髙口エンジニアよると「昨年(初投入したオフの鈴鹿テスト)の時点では7割程度のドライバーが『変わったと言われないとわからないレベル』で、残りの2割強のドライバーの方には『むしろよくなった』との評価を頂き、わずかですが性能ダウンを感じるという声も頂いています」という状況だという。

 今回の合同テストの取材で聞いたなかでは、山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)、坪井、大津弘樹(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)はほとんど変化を感じない、または他のセットアップの変化の方が大きくて気にならない、という意見。

 一方、山下健太(KONDO RACING)は「みんな変わらないと言ってるんですけど、俺は結構違うかなと感じています。ちょっと硬くなった印象があります」と、変化を感じている様子だった。

 その山下は初日の午前、午後も7番手、2日目の午前も7番手で好調そうに見えたが「トップは遠いですし、まだあと一歩足りない」という自己評価だったが、2日目午後に2番手タイムをマーク。「クルマが去年よりうまく合わせ込めて来ている感じはありますね。ステップを踏めてレベルアップできたかなと思います。去年よりは完全にポジティブにシーズンに入れます」と、好感触で1回目の公式テストを終えた。

 2022年仕様のリヤタイヤの変更による影響がどこまでなのか判断するのは難しいが、今回の合同テストで顕著だったのが昨年不調だった山本、坪井、そして山下がテスト両日でトップタイムを争うような高いパフォーマンスを見せたことだ。

 4つのセッションのうちトップ2回、2番手1回で今回のテストで一躍、今季の主役のひとりとなった坪井に聞いた。

●3つのセッションでトップを争った坪井。原点回帰のアプローチ

「(公式テスト直前の)ファン感で走った時はそこまで感触がよかったわけではないですけど、その時から、自分自身のフィーリングに対してタイムが付いてきたり、セットアップで変更したことをしっかりフィーリングとして感じ取れていたので、クルマとしてほしいところ、自分が『ここがほしい』と求めるところが具体的にわかるようになってきました」と、今年のスーパーフォーミュラでの走り出しについて話す坪井。

「ファン感で走り出したときは全然クルマとしてはよくなかったんですけど、走るごとに手応えを感じていたので、公式テストになったら結構、いいんじゃないかなと思っていたところ、それが形になった。ファン感から公式テスト1日目までは、これ以上ないくらいいい形で進んだと思います」と、初日のテストを振り返った。

 一昨年のスーパーフォーミュラで2勝/50ポイントを獲得して次世代チャンピオン候補と呼ばれるようになった坪井だったが、昨年は入賞わずか2回のドライバーズランキング15位。スーパーフォーミュラでは当然、悩める日々を過ごしていた。今年、どのようなアプローチでスーパーフォーミュラに臨んでいるのか。

「去年、何かを変えようとかいろいろ模索していた部分があったんですけど、一回原点に戻ってみようと。昨年はちょっと周りに惑わされてしまって、自分たちのやるべきことをできていなかったというのが反省点としてあった。まずは去年のことは1回忘れて、フラットな気持ちでもう1回乗ろうと思いました。去年の継続をするのではなくて、去年はちょっと悪夢すぎたので(苦笑)、一度断ち切って1回忘れて、今年は今年でと」

「原点に戻って自分たちのやり方で自分たちができる形でやろうということで、チームにも一度全員集まってもらって、一度仕切り直そうと話をしました。この3カ月のインターバルの間にいろいろ変えてきましたが、それが今回のテストでいい方向にいっている結果だと思っています。1年間この速さをずっとキープできるかをこれから考えていかなきゃいけないなと思いますけど、ひとまずトップタイムを出せるところまで来たので、やっと『ここからかな』と思っています」

 悩みに悩んだ昨年1年間を断ち切って、『もともとの自分を信じて原点回帰』という決断をするに至るきっかけとなったのが、スーパーGT500クラスのチャンピオン獲得だった。

「そのきっかけとしてGTでタイトルを獲れたのは大きいですね。自信も持てたし、誇りも持つことができた。『GT500でチャンピオンを獲れるのに、どうしてSFではビリを争わなければいけないんだ』と。いろいろ葛藤もあったなかで、GTでタイトルを獲れたのはすごく自信になったので、堂々とやれば結果はついてくるだろうと信じてオフの3カ月を過ごしてきました」

 今年のクルマのフィーリングとしては、具体的にどの部分がよくなったのだろう。

「クルマは1箇所だけではなくて、全体的に良くなっている感じです。乗り味も良くなっているし、自分が求めているところが出てきている。これまでは自分が求めているところがちょっと足りない部分があったりして、なかなか攻めきれない部分があったのが、自分が攻めたいところにクルマが付いてきてくれるようになってきています」

「そのフィーリングと、自分がほしいと思ったところで、そこを増やせるツールを見つけたことで、実際にタイムも上げることができたので、自分の感じているフィーリングは間違っていなかったというのを今回、改めて再確認できた。これは自分のなかで大きいかなと。今までは『このまま攻めて大丈夫かな?』という不安を抱えながら走っていたところがあったので、自信を持って攻められるようになった。そういうクルマを作れたことが1番ですね」

 2日目午後のセッションは最下位の21番手となったが、このセッションは完全にロングランのみの走行だった。

「アタックはまったくしませんでした。ファン感から乗っていましたし、セッション1-2-3でいろいろやりたいことはできて、だいたい合同テストのセッション4は路面のグリップもどんどん上がってきていて、そこでアタックをしてもあまり評価できないというかバランスの確認くらいしかできないので。そこまで結構順調に進んでいたので、ロングランを中心としたセッションにして、去年は予選も遅かったですけど決勝はもっと遅かったので、そこもきちんと克服したかった。いろいろロングランのセットアップメニューを確認して、ロングランの方でも見えてきたものがあるので、非常に有意義な2日間になりました」

 坪井に加え、山本、そして山下と昨年苦しんだドライバーたちが息を吹き返すように、タイムシートの上位に名前を戻し始めた今年の走り始めの公式合同テスト。唯一把握できたのは、昨年の勢力図がすでに見えなくなり、今シーズンが混沌の状況になっていることがわかったことだ。

リヤタイヤの角がわずかに丸くなったという2022年仕様のヨコハマタイヤ
初日の午後セッションでトップタイムをマークした山本尚貴は2日目もそれぞれ上位タイムをマークして完全復活間近
山本尚貴、坪井翔と同様に昨年大不振に喘いだ山下健太も最後のセッションで2番絵となり上昇気配
今回のてテストでどのセッションでもトップ争いができるパフォーマンスを見せた坪井。序盤戦の優勝候補に一躍浮上

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