中国時代劇の“強いヒロイン”とは?「狼殿下」が描く女性キャラクターを考察

中国時代劇のヒロインはこの10年余りで“守られる女性”から“強い女性”へと進化。より現代的な価値観を持つ女性像が描かれるようになってきています。

特に最近では世界的に女性同士の連帯を示す“シスターフッド”をテーマにした作品が増え、中国ドラマにもその波が到来。「30女の思うこと 〜上海女子物語〜」「摩天楼のモンタージュ~Horizon Tower~」のほか、時代劇でも「当家主母(原題)」など女性をテーマにした作品が目立つようになってきました。

2017年制作の「狼殿下-Fate of Love-」は「蘭陵王」を大ヒットさせた台湾の女性プロデューサー、フランキー・チェンが手がけた時代劇で、こうした時代の変化を先取りしたような自立した“強いヒロイン”像が描かれています。それを演じるのは「驪妃(りひ)-The Song of Glory-」 でも“強いヒロイン”を演じたリー・チン。彼女が「狼殿下-Fate of Love-」で演じた馬摘星(ばてきせい)のキャラクターに迫ります!

他人に惑わされない! 自分を信じるヒロイン

馬摘星は奎州城の民から愛される郡主。彼女は狼狩山で狼に育てられた少年・狼仔(ろうし)と出会って仲良くなり、彼とその仲間である狼たちを守るために一計を案じます。それまで狼狩山では狼狩りが横行していましたが、人間の欲のために狼を犠牲にしてはならないと考えた彼女は、人間が山に入らないようにしたのです。

この計画はうまく行き、彼女は狼仔と狼たちを守ることができましたが、皇帝の義弟がやってきて狼の肉を所望したことから、再び狼たちの身に危険が迫ることに。そして、ひょんなことから狼仔に皇帝の義弟を殺した容疑がかかってしまいます。

その時、誰もが狼仔を疑いましたが、馬摘星だけは狼仔が人間を殺すはずがないと信じて彼を助けることに。このように何事においても何が正義かを見極め、自分を信じて行動できるのが“強いヒロイン”の第一条件。その怖いもの知らずの行動にはハラハラさせられますが、勇気ある判断ができる彼女を応援したくなります。

使命感を持つ! 守るべきものがあるヒロイン

そんな馬摘星は一族を滅ぼされるという悲劇にも見舞われます。そして、家族という味方を失って一人きりになった彼女は否が応でも自立して生きていかなければいけなくなります。このように大きな試練が課されることで、ヒロインはさらに強く成長していくことになるのです。

さらに、馬摘星には狼仔にそっくりなのに冷酷非情に振る舞う皇子・渤王(ぼつおう)の政略結婚の相手として選ばれる運命も待ち受けます。それは彼女が奎州城を守る馬家の軍隊が忠誠を誓う郡主で、軍隊を動かすキーパーソンとなるからでした。そして、彼女は郡主として軍隊と民を守るため、その運命を果敢に引き受けます。

そんなふうに、守らなければならないものがあるのも、“強いヒロイン”をさらに強くする理由。最終的に馬摘星は民の平和を守るため、愛する人を救うため、自ら鎧を着て敵の前に立つことになります。襲い来る兵士たちに怯まず立ち向かい、堂々と戦う馬摘星の勇姿は見逃せません!

最後に手にする“幸せ”は…?生き様が美しいヒロイン

馬摘星は物語の中で、冷たい態度とは裏腹に彼女を密かに守る渤王、本当の身分を隠しながらそばで見守ってくれる疾沖(しっちゅう)という2人のヒーローに愛されます。そして、彼女のラブストーリーは運命に翻弄されながらドラマティックに進行していくことになります。

では、そんな彼女が最後に手にする“幸せ”とは何なのでしょうか?  ラブストーリーとはいえ単に“想い人と結ばれた”、それだけでは必ずしも“強いヒロイン”にふさわしい最後とは言えないかもしれません。なぜなら、時代劇における“強いヒロイン”にとっての“幸せ”とは、自分のためだけの“幸せ”ではないからです。むしろ、観終わった後に、美しい生き様だったと思える生き方こそ、“強いヒロイン”にふさわしいエンディング。観る者の心に深く訴える、馬摘星という唯一無二のヒロインの生き様に圧倒されるはずです!

「狼殿下-Fate of Love-」©2018 New Classics Int’l Media Limited

TEXT: 小酒真由子(フリーライター)

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