第30回「戦争で戦うな! 戦争と戦え!」

text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

俺は子どもや愛する者たちと、自分のために生きているのであって、国家のために生きているのではない

日本時間の2022年2月24日。ロシアがウクライナへ侵攻し戦争が始まった事実が、現在世界中の人間の心を痛めている。 幸い俺はテレビというものを全く見ないために、日本のマスコミがテレビのニュースで行なう偏った報道を目にすることはない。 ロシア情勢に詳しくもなく、ウクライナについては、あの原発事故があったチェルノブイリがあることや、息子がよく見ているゲーマーのユーチューバーが、ウクライナの若者だということぐらいしか知らない。 しかし現在、現実に起きている戦争に対して無関心ではいられないために、個人的にネットでウクライナ情勢について調べている最中だ。 様々な情報が飛び交う中、プーチンが悪いという意見でほぼ統一されている。当たり前だ。ウクライナに攻め込んだ張本人なのだから。 中にはプーチンやロシア側に立った目線もあるが、調べてみると極右系陰謀論などを垂れ流す雑誌などの関係だったりする場合もある。これに至っては、ウクライナ侵攻をダシに使った改憲論への誘導とも、個人的には感じられた。 おそらくではあるが、このロシアのウクライナ侵攻を例に挙げ「もし他国が日本に攻め込んできたら?」という架空の話の元で改憲論にするのだろうが、戦争の悲惨さを念頭に置いたものとは到底思えない。 戦争になれば被害に遭うのは俺たち一般市民だ。戦争で戦闘行為を行なう兵士だって一般市民だ。家族がいて愛する者がいる同じ人間だ。 そんな同じ人間が、国家の損得のために行なわれる戦争なんてものに生命を懸けるなんて、甚だ馬鹿げていると俺は思う。 俺は子どもや愛する者たちと、自分のために生きているのであって、国家のために生きているのではない。非国民だろうが何だろうが構わない。子どもや愛する者たち、自分の生命や幸せが大切であり、国家の利益などのために生命を投げ出す気はさらさらない。 ウクライナの一般市民に絶対死んでほしくないし、ロシア兵にもウクライナ兵にも死んでほしくない。 戦争などという愚かな行為からは、国民、兵士、全てが逃げ出して全く問題ないと思っている。 今回の戦争ではロシアが酷いと思っているし、核兵器の使用を示唆するなど非道にも程があると思っているし、即刻侵攻や戦闘行為をやめてほしいと思っている。 しかしウクライナも、市民を逃さずに火炎瓶を作らせたり、18歳から60歳の男性の出国禁止などの、信じられない行為を即刻やめてほしいと思っている。 ロシアにはロシアの正義があり、ウクライナにはウクライナの正義がある。国家の正義のために、なぜ一般市民が死んでいかなければならないんだ? 国家間の利害のために、関係ない一般市民を戦争に巻き込まないでくれ。 そこまでして行なう戦争で、勝者には何が残るんだ? 金か? 資源か? 国土か? 面子か? 国家間のパワーバランスか? 生命を懸けてそれらを守るために死んだ人間は、一体何を得られるんだ? 金か? 名誉か? 面子か? 死んでいくことで家族が守られると思うのか? 生き残った人間たちは、死んでいった人間を美しい思い出の中に葬るだろう。そうしなければ心のやり場がないからだ。しかし死んでいった人間たちは、ただの被害者で、国家の利益のために殺された犠牲者である。 名誉や金や面子が保たれれば、死んでいった生命は報われるのか? 名誉と金と面子を叩き返せば、死んだ人間は生き返るのか? 他国が侵略してくることや、それを防ぐために戦闘行為を仕掛けられるように改憲が必要だという前に、戦争そのものを想像してくれ。 一瞬の爆撃で、近所家族もろとも粉々になり跡形もなくなるんだぞ? 爆撃音に怯え、泣き叫ぶ子どもが見たいのか? 戦闘行為に巻き込まれて遺体になった愛する者を見つけて、泣き崩れる人間を見たいのか? 昨日まで笑っていた可愛い我が子が、一瞬にして死んでしまい、もう二度と会えなくなりたいのか? そうならないために改憲するなどという、先制攻撃を容認することや戦争そのものを容認することが、戦争を起こすんだ。 会ったこともない、喋ったこともない、見たこともない人間と殺し合いをしなければならない兵士は、一体誰の子で誰の恋人で誰の家族なんだ? 兵士には母親も父親も、家族も愛する者もいないのか? 戦争のどこに良いことがあるんだ? 戦争で得られるものなんて、この世に必要ない。 たとえもしそれが、国家の利益や資源や国土や面子や国家間のパワーバランスのためではなく、個人の金や名誉や面子のためでもない「自由」という名のものでも、生命を搾取して奪い、虐殺、殺戮を犯して手に入れた快楽であるそれを「自由」と呼ぶのなら、俺はそんな自由などいらない。殺さない、奪わない、生命を搾取しない生き方がある。 戦争で死ぬほど無意味で馬鹿げた無駄死にはない! 戦争を美化するな! あんなものはただの殺し合い、虐殺だ! 戦争で死ぬ必要はない! 戦争で戦うな! 戦争と戦え!

CRASS『FIGHT WAR NOT WARS』

FIGHT WAR NOT WARS(戦争で戦うな 戦争と戦え)

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CRASSは1977年から1984年まで活動し、“Anarchy & Peace”をスローガンとしたイギリスのアナーコ・パンク・バンド。“ダイヤルハウス”と呼ばれる家で自給自足の集団生活を送り、自身のレコードレーベル“CRASS RECORDS”を立ち上げ、DIY精神の基礎を確立した。「FIGHT WAR NOT WARS」は1979年発表の2ndアルバム『STATIONS OF THE CRASS』に収録。

【ISHIYA プロフィール】

ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。

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