ビットコインによる寄付と制裁回避、ウクライナ情勢で暗号資産に注目集まる

今年に入ってからロシアとウクライナの緊張関係が懸念されてきましたが、2月末、ついにロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始されました。北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指すウクライナに対して、ロシアはそれを断固として認めない姿勢を示しています。一方で、米国をはじめとするNATO諸国はウクライナを擁護しようとロシアに対して厳しい制裁措置を次々に講じています。

ロシアとNATO諸国との対立によって「第三次世界大戦」の可能性までもが意識され、金融市場ではリスクオフの動きが強まっています。そのなか投資資産として見たときの暗号資産は株式と同様に売り優勢の展開が続いています。しかし、この対立の一部では暗号資産が国や金融機関に依らない送金手段として大きな注目を集めています。

今回は、ウクライナ情勢や過去の事例を踏まえながら、国家間の対立時に暗号資産がどのように活用されうるかについて解説します。


ビットコインを通じて数十憶円もの寄付がウクライナに集まる

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、国際世論ではロシアを非難し、ウクライナの支援を呼びかける声が支持を集めています。欧州各地では平和を願う人たちによって「戦争反対」を掲げるデモが行なわれ、日本でも東京都渋谷区周辺では数千人を超える人たちが反戦を訴えるために集まりました。それだけ世界中の多くの人がウクライナを支援したいという想いを抱えています。

そこでウクライナを支援する手段の一つとなっているのがビットコインをはじめとした暗号資産です。通常、私たち個人が有事の際に寄付を行うにはユニセフなどの非政府組織(NGO)を通します。また、国内の募金箱を利用して寄付した場合でも、最終的には金融機関を介して寄付金が支援先に届けられます。そのため、実際に支援が届くまでには相応に時間がかかります。

しかし、暗号資産の場合は支援先のウォレットアドレスさえわかれば、世界中のどこからでも寄付金を直接送ることができます。今回、実際にウクライナ政府が寄付用にビットコインやイーサリアム、テザー(米ドル連動のステーブルコインの一種)のアドレスを公開したところ、数日の間に数十億円もの寄付金が世界各国から集まりました。また、同国政府は寄付金と引き換えに記念のノンファンジブルトークン(NFT)を販売することも検討しています。

暗号資産による寄付のメリットと注意すべきこと

このように暗号資産では全世界を対象に素早く寄付金を集めることができます。これまでも香港デモやミャンマークーデターなどの際には寄付の手段として暗号資産が注目されました。一方で、暗号資産による寄付を狙った詐欺が起きたり、暗号資産がテロ組織への支援に利用されたりするリスクもあります。これらのリスクは今後、各国当局によって対策されることでしょう。

国家間の対立によって国際的な資金移動が制限されている状況だからこそ、国や金融機関に依らない暗号資産による寄付が広がりを見せています。逆に国や金融機関に依らないからこそ、自身で寄付金を直接送る際には送り先や資金使途などをきちんと確認することが重要です。

ロシアが暗号資産、ビットコインを制裁回避に利用?

米国をはじめとするNATO諸国は、ロシアへの制裁措置を強化しています。そのなかでロシアは国際送金の仕組みを支える国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除され、海外との送金や貿易決済、投資行動が難しくなりました。さらにビザやマスターカードといった大手決済企業がロシアでの業務を停止し、ロシアは国際金融から孤立した状況に追い込まれています。

このような状況でロシアが制裁を回避する手段として、SWIFTに代わる中国の国際銀行間決済システムを利用するのではないかと言われていますが、これに並びNATO諸国では暗号資産を使った制裁回避が強く懸念されています。暗号資産の場合、金融機関を介さずとも資金を自由に移動することができ、ステーブルコインという形で米ドルなどの外貨にアクセスすることもできるためです。

また、ロシアの金融システムが不安定になり、個人もまた暗号資産への関心を強めています。制裁を受けて同国通貨のルーブルが暴落するなか、国民の多くは銀行やATMから資産を引き出し、現金あるいは別の形で資産を守ろうとしています。その一つの手段として暗号資産を保有する動きが増えており、今年3月に一部の取引所ではルーブル建てビットコインの取引高が年初来で最高水準を記録しました。

国家が暗号資産への監視を強化する動き

こうした暗号資産による制裁の抜け穴を封じようと、ウクライナ政府は暗号資産取引所に対してロシア人ユーザーの口座を凍結するよう要請しました。また、NATO諸国は暗号資産の取引を制裁の対象に加えることを検討しており、米国では暗号資産に関する大統領令が近日発表される予定となっています。日本でも金融庁を中心に同様の議論がされています。

イランや北朝鮮、ベネズエラといった制裁対象国による暗号資産の使用はこれまでも問題視されてきました。各国当局が制裁回避に関する暗号資産の取引をどこまで捕捉できるかについてはなお難しい問題ですが、ブロックチェーン分析ツールの精度も向上するなかで、ウクライナ情勢をきっかけに国際的な対策が進められるでしょう。

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