これでいいのか? 大阪・堺市4小学校のアスベスト曝露検証 市の不作為問う講演会 6日

堺市・日置荘小学校の体育館。児童150人超のアスベストばく露が懸念される

学校や保育園などでアスベスト(石綿)が飛散し、子どもたちが吸ってしまう事件が相次いでいる。2019年5月に明らかになった長野県飯田市の明星保育園における事故のように有識者による検証すら実施されていないのは論外として、現在検証が同時進行で進む兵庫県加古川市と大阪・堺市を比べると両市の対応にじつに大きな差が存在する。(井部正之)

◆加古川市は審議会の1つに位置づけ

兵庫県加古川市では2020年8月、市立別府中学校でアスベスト(石綿)の飛散防止対策を講じないまま校舎の一部を解体していたことが判明。夏休みだが、一部の生徒が利用していたこともあり、2021年4月から学識経験者らによる「石綿飛散事案対策委員会」で検証が開始されている。

堺市では2021年7月、市立の日置荘小学校、登美丘西小学校、八田荘小学校、福泉小学校の4校で体育館3階天井裏の吹き付け材からアスベストを検出した。日置荘と八田荘小学校では天井板の一部が少なくとも2015年ないし2016年から欠損ないし破損し、吹き付けアスベストが露出。日置荘小学校では学童保育のような形で利用。ほかの3校でも音楽室や図書室があるなど、日常的に使っていた。市は2021年12月から学識経験者らによる「市立小学校アスベスト含有建築物における健康リスクの検証に関する懇話会」を始めた。

両市における検証における最大の違いは、学識経験者らによる専門家会議の法的位置づけだ。

加古川市では「市附属機関の設置に関する条例」に基づく審議会の1つ、市長直轄の委員会として位置づけ。

また所掌事務も規則で上記のアスベスト飛散事故における
(1)生徒らがアスベスト関連疾患を将来発症した場合の判定や補償など
(2)生徒らの相談や検診
(3)アスベスト飛散事故における「石綿の飛散等に係る検証」
──の調査、審議と幅広い。そのための方法についての決定権限も委員会側にある。

対策委員会の委員は学識経験者、医師、臨床心理士等、弁護士、加古川市立中学校長、その他市長が適当と認める者から15人以内を市長が委任することになっている。実際に計13人で構成。学識経験者5人、医師3人、臨床心理士1人といった専門家だけでなく、学校長1人、保護者2人、近隣住民1人と利害関係者も含む。

◆懇話会に権限なしの堺市

また規則で対策委員会の下に部会を設置可能としており、「石綿関連疾患リスク推定部会」(学識経験者5人、医師1人)と「石綿関連疾患健康・心理相談部会」(医師3人、臨床心理士1人)の2つを設置。2021年4月からリスク推定部会を開始し、毎月1回のペースで健康リスクの検討を重ねている。そこには模擬実験や施工業者らへの徹底した聞き取り調査も含まれる。並行して同6月から生徒らの健康・心理相談も始めている。

つまり、加古川市は市長直轄の審議会として法的権限を持つ対策委員会に健康リスク評価だけでなく行政対応なども含め、徹底検証をさせている。審議・決定された事項についてどう対応するかはもちろん行政に委ねられているが、審議会の1つである以上、その結論は重い。委員構成の透明性も高い。それだけ市が生徒らのアスベスト曝露という問題を重く考えているということだ。

これに対し堺市は法的拘束力のない要綱で「懇話会」を位置づけ。児童らのアスベスト曝露や健康リスクを検証するために「有識者等から広く意見を聴取する」目的で、「教育長」が設置したにすぎない。

委員構成も学識経験者とアスベストに関する専門的知見を有する者など5人以内。任命権も教育長だ。実際の委員構成は学識経験者2人、医師1人、アスベストの専門家2人の5人。保護者などは入っていない。

懇話会の権限は位置づけがなく、座長の選定方法や会議は座長が進行するといったことが記載されているだけ。

そのほか教育長の権限として、「必要があると認めるときは、懇話会に関係のある者の出席を求め、その意見若しくは説明を聴き、又は資料の提出を求めることができる」とある。あとは会議の基本公開や会議録の作成などが求められている程度である。

つまり、法的位置づけが明確でない要綱で、児童らをアスベストに曝露させた可能性のあるいわば“加害者”や“被告”の教育委員会トップの「教育長」が児童らのアスベスト曝露と健康リスクだけに限定して「意見を聴取」する場でしかない。行政対応の検証は最初から除外され、意見を聴くつもりすらない。

懇話会に権限がないということは、検討内容どころかその方法まで含めてすべて教育長の言いなりということだ。そんな懇話会の議論や結論は第3者の有識者会議としての独立性や中立性、透明性に疑問がある。そもそも市どころか教育長に懇話会の検討結果を尊重する義務もない。

◆6日に子どものアスベスト曝露考える講演会

仕組みだけみても、堺市が今回の問題やその検証をいかに軽視しているかがはっきり表れているといえよう。

1月31日の第2回会合ではごく最近のアスベスト曝露の可能性だけしか検討しないかのような消極的な発言が市や座長から繰り返された。

会合後、堺市民で被害者の支援をしている「アスベスト患者と家族の会連絡会」の古川和子さんは「とにかく後ろ向き。健康リスクを(実際より)削ろう削ろうとしているようにしかみえない」と憤慨していた。

ほかの傍聴者からも「やる気が感じられない」との声も上がっていた。

政令市の堺市が中核市の加古川市よりもはるかに劣る取り組みしかできていないのは情けないというほかない。市議会で「危機意識の不足」や「認識の甘さ」が繰り返し指摘され、自認している堺市ではむしろ当然なのかもしれない。

永藤英機市長も含め、行政対応の検証から逃げ続けている堺市で本当にまともな検証がされるのだろうか。

なお、こうした状況に危機感を持つ前出・古川さんらは3月6日午後1時半から「みんなで考えるアスベスト疾患子どもに迫る危険」と題する講演会を堺市の市総合福祉会館(堺市堺区南瓦町2番1号)5階大研修室で開催する(入場開始は午後1時)。参加は無料だが、新型コロナ対策のため事前申し込みが必要。オンライン参加も可能。申し込みはQRコード(記事冒頭付近のリンク)からが容易。電話・メールによる申し込みも可能(電話:050-3592-3903、メール:amiantonet@gmail.com)。

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