神戸市営住宅解体費が5億増 検証求める議会や市民無視し迷走 アスベスト分析3社の結果違い

神戸市市営下山手住宅で食い違うアスベスト分析結果の概要。じつに50%で有無が割れている。ほとんど仕上塗材

神戸市の市営住宅解体でアスベスト(石綿)分析をめぐって混乱が起きている。発注前後で3つの分析機関が同じ建材を分析したにもかかわらず結果が多数食い違い、解体費用が約5億円増加したのだ。なぜそんなことが起きたのか。(井部正之)

◆吹き付けアスベスト見落とし延期

現場は神戸市の市営下山手住宅4号棟(中央区)。1975年(一部1979年)竣工で鉄骨鉄筋コンクリート造11階建て、延べ床面積約8500平方メートル。「コ」の字型にA~C棟があり、共同住宅127戸に加えて店舗9戸、店舗兼住戸9戸、倉庫2戸、集会室を持つ。

当初2020年11月から解体予定だったが、兵庫県保険医協会らの指摘で元請けの春名建設(同市)が電気室の調査をしておらず、危険性の高い吹き付けアスベストを見落としていたことが判明。解体が延期されたいわく付きの案件だ。

じつはすでにこの段階で、市が入札前に費用算定のために実施した予備調査と解体業者による着工前の事前調査で結果に多数の食い違いが出ていた。県保険医協会などから第3者機関による検証を求める声が上がったことから市は元請け業者に指示して同11月、兵庫県の外郭団体「ひょうご環境創造協会」に再調査させた。

その結果、市の予備調査、受注業者の事前調査、公的機関の再調査でそれぞれ判断が異なることになった。とくに調査した計112カ所のうち、複数の分析機関が顕微鏡でアスベストの有無を調べた50カ所について、分析結果の不一致が25カ所と半数に達したことが関係者を困惑させた。そのうち22カ所が外壁などの仕上材「仕上塗材」である。

市から指示を受けて元請けの春名建設が分析した3機関に聞き取りをおこなったが、アスベスト分析で有無が割れる現状から「含有箇所が特定できない」と判断。市環境保全課にも相談のうえでA~C棟すべてについて「周辺環境への影響を考慮し、外壁に石綿含有とみなします」と報告している。

当初市は契約変更を検討したが金額が大きすぎたため春名建設との契約を解除して再入札。2021年6月に同市の中田工務店(垂水区)が落札した。当初約2億7000万円(税込み)だった解体工事が約7億7000万円(同)まで膨れ上がることになった。

分析結果の食い違いによって、当初2170平方メートルとしていた外壁などの表面仕上げの建材「仕上塗材」における下地調整材のアスベスト除去が1万4330平方メートルと6.6倍に増加したためだ。5億円の増加分について市住宅建設課は「ほぼすべてがアスベストの除去費用」と認める。

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この問題は2020年10月以降、市議会でもたびたび取り上げられている。

2021年12月8日の本会議では小林るみ子市議(つなぐ)が「結果はばらばらで、どれが正しいのか、何を信じていいのか、市民が納得できるものではなく、不信感が残りました。調査結果がなぜここまで異なるのか」と追及。

油井洋明副市長は「請負人が事前調査の再調査を行うとともに専門機関にも確認を行いましたけれども原因の特定に至らず、アスベストの含有について否定することはできないとの判断で、今回新たな解体の工事をしようとするものでございます」と釈明した。

検証のために3回目となる再調査を公的機関で実施させたにもかかわらず、結局あいまいなままアスベスト除去費用だけが大幅に増えることへの不信から、電気室における吹き付けの見落としも含め、「2度と同じようなことが起こらないように第3者機関で検証すべき」との意見が複数の議員にから出された。

市は2023年10月から大気汚染防止法(大防法)などで義務づけられる有資格者による調査を前倒し導入することで再発防止の徹底を図るなどと回答し、検証について明言を避けた。

その後も保険医協会と市の間で同様の議論が何度も繰り返されてきた。だが、市は拒否し続けている。

2月には改めて解体工事に向けた説明会を実施し、3月中旬に着工の予定だ。同下旬には吹き付けアスベストなどの除去も始まる見通し。仕上塗材の除去は5月という。

県保険医協会とともにこの問題を追及している市民団体「ストップザアスベスト西宮」代表の上田進久さんは「いくつかのサンプルで陽性(アスベスト検出)が出れば、陽性を採用する。安全のために一般的にはそうなんだろうけど、今回3つの分析機関でこれだけの数でアスベストの有無が一致しないという問題が生じているのだから、実際には(アスベストが)『ない』ものを『ある』として報告しているケースだってあるかもしれない。きちんと第3者の専門家が調査結果の不一致を検証すべきです」と訴える。

3月1日の市と県保険医協会の話し合いで改めてこの件を問われた市住宅建設課はやはり検証を拒否。その際、こう説明した。

「(検証先とする)建築物石綿含有建材調査者協会にも問い合わせましたが、(アスベストが)『あり』と出た分析結果を『ない』と誰がいえるか。どなたも明確にお答えいただいてない」

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これは事実と異なる。

市が開示した両者のメール記録によれば、市は今回の件で検証が可能なのかとその方法を尋ねたところ、昨年12月13日に同協会は「分析機関が保管している試料を回収するか、過去の採取箇所に近接した場所で再度採取し、複数の熟練した分析者が分析し、協議して合意した結果を元に、分析結果を検証します」などと返信している。つまり、検証可能との見解なのだ。

すでに述べたように公的機関による再検査は市の指示で元請けにやらせたもので、市が自ら調査・分析不一致の検証をしていない。つまり業者の言いなりになってアスベスト除去費用を5億円増加させたことになるとして、上田さんは今回の支出が不適正だと考えている。

市によれば、仕上塗材の除去が始まって以降の市営住宅の解体工事は19件あり事業費は計26億円。1件あたり約1億3600万円だ。

市は築40年以上経過し、エレベーターの設置がない計36カ所の市営住宅で計284棟7057戸を2021年度から10年間で優先的に改修・解体・建て替え(廃止含む)し再編する計画を掲げている。このうちどれだけが解体されるのかは不明だが、外壁の仕上塗材は20年ごとの改修で除去・再施工する以上、相当数が今回問題になっている仕上塗材の除去を含むことになる。

「これでは今後の解体工事で同じようなことが起きたら毎回工事費が何倍にも増えることになる」と上田さんは警告する。

金本忠義建築住宅局副局長は「今後こういうことが頻発するとはちょっと想定しにくい」と市議会で発言しているが認識が甘いといわざるを得ない。そもそも上記の3つの調査のうち、事前調査と再調査では調査・分析いずれにおいても有資格者による規制を先取りした対応がされていた。にもかかわらず、今回調査・分析いずれにおいても不一致が相次いだ。市の担当者が有資格者になっていようが、改修・解体時の事前調査義務は施工者にある。新たに分析してやはり異なる結果が出るといったことは当然起こりうる。

今回検証しなければ、そうした場合にどのように対処すればよいか蓄積されない。これを検証せず、ひたすらすべてアスベスト「あり」として最大数で対策するのが本当に合理的とは思えない。まして検証可能と専門機関から回答を得ていながらそれを無視するのはさすがにおかしいだろう。これでは不適正な調査による“アスベスト偽装”で利益供与をしていると住民監査請求や行政訴訟が起きてもおかしくない。

神戸市は目先の解体を優先して、それほど費用や時間も掛からない検証をおこたって、今後も迷走し続けるのだろうか。

【訂正】
初出にて小林るみ子市議による市議会質疑を「2021年12月8日の都市交通委員会」としておりましたが、正しくは「本会議」でしたので3月10日午後3時に訂正しました。

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