「僕は中立の立場でレース出場を目指していた」マゼピン、ハースF1との契約解除は“プレス発表”で知ったと明かす

 ニキータ・マゼピンは、ハースF1チームとの契約が打ち切られたのを初めて知ったのは、チームが3月5日に発表した公式プレスリリースを見たときだったと明かした。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、ハースはマゼピンを解雇する決断を下した。プレスリリースには、ウラルカリとのタイトルスポンサー契約を直ちに打ち切るとも記されている。マゼピンは発表の前も後も、チームや、チーム代表のギュンター・シュタイナー、チームオーナーのジーン・ハースから直接には何も聞かされていないと語った。

「とてもつらい時期にある」とマゼピンは水曜日の記者会見冒頭で認めた。「世界は2週間前とは違ったものになった」

「すべてが変わってしまい、僕は18年かけて実現した夢を失った」

ニキータ・マゼピン(ハース)

 FIAは、ロシア人およびベラルーシ人ドライバーが中立旗の下で国際的なモータースポーツ競技に参加することを認めていたが、東欧の紛争に関するFIAの声明と行動規範に署名することを条件としていた。しかしイギリスの4輪モータースポーツ統括団体であるモータースポーツUKはその後、ロシアのライセンスで競技に出るすべてのドライバーについて、イギリスGPを含むイギリス国内のイベントへの参加を禁止すると発表した。他の国のレース運営当局も同様の措置を検討していると考えられている。

 元F1ドライバーのダニール・クビアトはFIAの要求に従わないことを決め、WEC世界耐久選手権から撤退したが、マゼピンはF1シートを確保するために必要な準備を行っていたと語った。

「僕は中立の立場でレースに出ることを目指して計画を進めていた」

「まずFIAが参戦することに許可を出した。僕はその決定について何の問題もなく、喜んで同意した」

「でも僕の契約打ち切りの前夜に、(FIAから)追加の文書が来た。その文書について対応し、オプションを検討していた。なぜなら文書には多くの条項が含まれていたからだ。そうしていたら、翌朝契約打ち切りの知らせを受けた」

「文書について“イエス”という暇もなく、僕は解雇された。解雇については同時にプレス発表でも知った」

「契約打ち切りの法的根拠はない。FIAは、僕たちが中立の立場でレースをすることを許可してくれたから安心していた。僕はドライブすることを望んでいた」

「だから解雇について心の準備ができていなかった。何のヒントもなかったし、『これが我々の決定だ。15分以内に発表されるからそのつもりでいるように』というような助言もなかった」

 マゼピンによれば、「(2月の)テスト3日目にバルセロナを離れて以来、ギュンターとは話をしていない」という。バルセロナでは、ハースはウラルカリのロゴをマシンとピット設備から外すという一時的な決定を下したが、マゼピンは予定通りに3日目午前の走行を担当した。

 マゼピンは、「ギュンターは、3月4日までに僕のマネージャーに伝えた情報以外に、チームがどういう決定を下すつもりなのか何も知らせてくれなかった」と続けた。

「そしてプレスリリースが発表された。僕はそれを読んで、自分の契約が打ち切られたことを知った」

「チームはもっと僕をサポートしてくれてもよかったと思う。彼らが直接僕に連絡してきたら、喜んでこの出来事についての意見を話すよ」

2022年F1バルセロナテスト3日目 ニキータ・マゼピン(ハース)

■ロシアのアスリートを支援する基金を設立「すべての人々が中立でいる権利があるということを大切にしたい」

 マゼピンは他の選手権でレースをする代替プランはないことを認めた。彼はウクライナでの紛争による制裁の影響を受けたロシアのスポーツ選手を支援するためにウラルカリが設立した基金の仕事に時間を割くことになるという。マゼピンは、『We Compete As One』基金が、「自身でコントロールできない政治的理由により、最高レベルの大会に出場することができなくなった」スポーツ選手に財政支援を提供することになると語った。

「人生をかけて、オリンピックやパラリンピック、その他のトップイベントに向けて準備をしてきたにもかかわらず、所有するパスポートによって出場禁止処分を受けて集団で罰せられることになったアスリートたちに対し、この基金は金銭的および非金銭的な援助を行う」

 マゼピン自身は、ロシアの軍事攻撃について直接コメントすることを慎重に避けた。

「運命のいたずらか、僕の友人や親戚は紛争の両側に身を置いている」とマゼピンは語り、次のように続けた。

「僕はこの紛争について、今言った以上のことを公言することを望んでいない」

「僕がこの基金を設立した理由は、すべての人々が中立でいる権利があるということを大切にしたいからだ。アスリートであろうが、他の業種の人たちであろうが関係ない」

2022年F1バルセロナテスト2日目 ニキータ・マゼピン(ハース)

 マゼピンは、ウラルカリの親会社であるウラルケムの共同経営者を務める父ドミトリーのサポートにより、「起きてしまったことは仕方がないが、世界をより良い場所にすることはできる」という姿勢をとるようになったのだという。

 ウラルカリは2022年に向けてすでにハースに支払ったスポンサー料の全額返金を要求する予定で、それを基金の運営に充てると述べている。

「僕たちは十分な収入を得られる仕事を見つける努力をする。多くのアスリートたちは、チャンピオンシップのパフォーマンスに見合ったスポンサーシップを期待していたが、それはなくなってしまったからだ」とマゼピンは基金の目的について説明した。

「アスリートのキャリアは短く、最高レベルのパフォーマンスを発揮するには何年もの大きな犠牲が伴うことは誰もが知っている。最後の褒賞が奪われるのは破滅的なことであり、これらアスリートたちのその後がどうなるのか考える者は誰もいない」

「アスリートがスポーツにおける地位を主張することを望む場合は、法的支援も行う。彼らが愛するスポーツから排除された喪失感や空虚感に対処できるように、心理的なサポートをする」

2022年F1バルセロナテスト ハースモーターホーム

 マゼピンは、いずれかの時点でF1に復帰する可能性を除外しないという。

「F1は僕にとって終わったことではない。復帰のチャンスがあれば戻る準備はできている」

 マゼピンは「あらゆる選択肢を用意しておくのは良いことだ」と語ったが、ハースが選択肢に含まれないのは明らかだ。「自分が求められていない場所には戻りたくない」とマゼピンは語っており、ハースのことはもはや信用していないという。

「この件について検討し、どうするか決めることにする」とマゼピンは語り、ハースの契約打ち切りの決定に対し法的に異議を申し立てるかどうかについては協議中だと付け加えた。

 マゼピンはジョージ・ラッセルやバルテリ・ボッタス、カルロス・サインツ、セルジオ・ペレスといった多くのF1ドライバー仲間から応援メッセージを受け取ったと明かした。

「政治的なことは関係なく、個人的なレベルでのことだ。僕が契約を失ったことを知った彼らからの、とてもシンプルな応援メッセージだ」

「僕の後任になるドライバーが誰であれ幸運を祈っている」とマゼピンは主張した。「彼らは今のこの状況には何の関係もないからね」

 ハースはバーレーンで行われる第2回目のプレシーズンテストにおいて、ミック・シューマッハーに加えて、テストドライバーのピエトロ・フィッティパルディを起用することを明らかにしている。そしてテスト前日の3月9日、ハースはマゼピンの後任としてケビン・マグヌッセンがチームに復帰することを発表した。

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