【緊急避妊薬のOTC化】産婦人科医会がOTC化に好意的な意見を一部紹介

【2022.03.10配信】厚生労働省は3月10日、「第19回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」を開き、緊急避妊薬のOTC化における課題を議論した。この中で、これまでOTC化に反対意見を表明してきた日本産婦人科医会は、一部、OTC化に好意的な意見を紹介した。「土日や夜間の処方について、OTC化は産婦人科医の負担を軽減するメリットがあるという意見があった」とした。緊急避妊薬のOTC化に向けた議論が進展している。

同日の検討会議では、事務局より「緊急避妊薬に関する海外実態調査」の結果が報告された。

イギリスやドイツ、フィンランド、インドを含む世界90カ国において、緊急避妊薬は処方箋なしで薬局等において販売されている。このうち、イギリスやドイツ、フィンランドでは薬剤師の関与を必要としており、インドでは薬剤師以外の医療従事者も販売が可能。アメリカではOTC化されている。
一方、シンガポールや韓国では処方箋が必要。

調査の中の【効果・影響等】の項では、「人工妊娠中絶数/率の国の公開データがある5か国日本、フィンランド、アメリカは減少傾向、ドイツは横ばい、イギリスは増加傾向だった」とした。
【悪用・濫用】では、「イギリス、ドイツ、フィンランド、アメリカ、シンガポールでは悪用・濫用に関する公的報告資料はなかった。日本、インドで緊急避妊薬に関する悪用・濫用の国内ニュースが報告されていた」とした。

こうした報告を受けて、日本OTC医薬品協会の黒川達夫理事長は、「いずれの国においても使用者からみてアプローチしやすい方向にいっている。安全性については何ら指摘がない。その観点からの規制・あるいは指導が強められたということもない。世界的にみれば、このような指導方法で、社会に置いておけるということがここから理解できると。このように考えて問題がないでしょうか」と述べた。

一方、日本医師会常任理事の長島公之氏は、「かなり詳しく書かれているが、時間がなくて全くここが読めていない。ここが最も重要。例えばガイドラインはどうなっているのか、どのような制限で販売できているのか。しっかり読み込んだ上で議論しないと、肝心なところがよく分からない状態で議論するのはいかがなものか。読み込んだ上で、もう一度、議論しないといけない。各国で薬局や薬剤師の制度や役割がおそらく違う」と述べ、再度、議論の場を設けることを求めた。

厚労省は海外実態調査の概要を4ページでまとめて提出していたが、実際は300ページにわたる資料となっている。
検討会自体は「検討会①」ののちに、パブリックコメントなどを求めて「検討会②」に進むが、長島氏としては「検討会①」を再度開くことを求めた格好。

海外の状況調査の位置づけに対しては、産経新聞社論説委員の佐藤好美氏は、「各国の状況をギリギリとやってもあまり意味がないという気がする」との意見を表明。「あくまで事例調査であり、事例としてみることが適切だと思う。ご指摘のあった通り、それぞれの国の事情があり、それを踏襲するものでもない」と述べた。

また、日本薬剤師会の岩月氏も「本日の資料でも各国のまとめで悪用・濫用に関して悪用の報告がなかったと。2000年代からこういったものが使われてきた中で、直接的な因果関係がなかったとしても、各国で薬剤師が管理して使われていて、特にそういったことが社会的問題になっていないということは言えるのだろうと。そもそも海外との比較をする時に緊急避妊薬をOTC化するとそういったものを使用することによってリテラシーが下がるのではないかという議論があったと私は理解をしており、そういった意味で資料をみる限りでは、各国でスイッチバッグをしているとか行われていません。そういうふうに私はこの資料をみていると発言したいと思います」と述べた。

日本保険薬局協会常務理事の松野英子氏は、「すべて資料を読み込む時間はないということはあるが、端的にまとめていただいた資料を拝見して、処方箋なしで薬剤師により販売している国があるんだなということが心強く感じる資料ではないかと感じている。どの国もスイッチOTCにしたあとで、さまざまな課題を何度も精査しながらよりよいものをつくっていっていると感じる部分もあるので、ヒントが出ていると思っている」と述べた。

座長を務める笠貫 宏氏(早稲田大学特命教授)は今回の海外実態調査の位置づけについては、「女性の人権という側面で世界がどうなっているのかを把握することが一番の目的」との考えを示した。
「特に緊急避妊薬においては、緊急時であると。生命に関わる緊急時の問題であると。そういった問題の側面と、やはり女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ、これはグローバルな話であって、女性の人権ということからいったら国際調査で海外はどうなっているのかというファクトを把握しながら議論を進めるということが実態調査の一番大きな目的であると思っています」(笠貫氏)と述べた。

日本産婦人科医会は、前回示した産婦人科医からのアンケート調査についてデータクリーニング後のものを報告した。
その中で、「まとめ」として次のように報告した。
• 88.1%の産婦人科医は、 ①転売/性暴力への悪用、 ②コンドーム使用率の低下による性感染症リスク増大/避妊に協力しない男性の増加、③妊娠への対応の遅延、 ④確実な避妊法普及の後退、 ⑤性暴力・DVへの気付きや相談機会の喪失など、OTC化に何らかの懸念を持っていた。
• 土日や夜間の処方について、OTC化は産婦人科医の負担を軽減するメリットがあるという意見があった。
• 懸念事項の解決に向けて、月経周期、性交と妊娠のしくみ、避妊法の選択肢や効果、DV・デートDV・性暴力の防止などを含む性教育の推進を求める意見が多数あった。

日本薬剤師会は「オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤の事例調査について」を報告した。
「限られた調剤実績ではあるが」としつつも、調査の結果から次のようなことが導かれるのではないかと報告した。
・緊急避妊薬を必要とする方がオンラインで受診し薬局に来局することで、薬局では対面で必要な情報が確実に提供され、適切に緊急避妊薬を服用することができていた。
・約3週間後の産婦人科への受診勧奨や面前服用など、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を遵守し、適切に医薬品供給が果たせていた。
・更に、中にはワンストップ支援センター等に紹介した事例があり、薬剤師が関与することの意義が確認できた。

一方、課題として、緊急避妊薬の研修修了者名簿の整備のほか、薬局で備蓄等の体制構築を確実に行うこと、ワンストップ支援センターとの連携を再周知していくことなどを挙げた。
岩月氏は、備蓄をしない薬局は名簿からはずす対応を指導するなどと説明し、「できていないとことは直ちに改善するという強い意志をもって引き続き使用者の安心安全を守るための体制整備に積極的に取り組んでいく」と述べた。
日本薬剤師会としては、薬剤師が必ず関与する販売方法が必要との考え。「緊急避妊薬を必要とする方のアクセスを改善し、利便性だけでなく、安全に安心して使用することを実現するために、薬剤師が必ず関与する販売方法の検討を進めていくことが必要」としている。

編集部コメント/議論を重ねることの重要性が垣間みえた

2017年7月にOTC化が否定され、市民団体によって2021年5月に再度、要望が提出された緊急避妊薬のOTC化議論。市民団体からすれば、すでに4年以上の月日を費やしていることになり、今回の会議でも委員からさらに検討会の回数を増やす要望が出たことには失望を感じたとしても無理もないだろう。

参考人として参加した要望者である「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表の染矢明日香氏は厚労省に対し「OTC化されるとしたらいつごろになるのか」と質問していた。厚労省の回答は「いつとは言えない」というそっけないものではあった。
ただ、OTC化の課題をまさにこの検討会で議論しているのであり、結果ありきであれば議論の意味もなくなる。見通しを事務局が語ることは難しいだろう。より関係者の理解が深まり、多くの関係者から一定の方向に合意がはかられておくことは例えば仮にOTC化したあとのことを考えても重要ではないか。

そういう意味では、これまでのこの検討会の議論を振り返ると、今回ほどに、参加者が緊急避妊薬にかかわるお互いの状況を理解しながら発言していた会はなかった。
会議を重ねることの意味を垣間みた気がした。

緊急避妊薬の検討会を通して、性教育の現状や課題についても広く認知される契機になっている。13歳という日本の性同意年齢が世界に比して若く設定されていることも提示された。OCを含め主体的、あるいは長期間で確実な避妊方法の使用率が低率なまま増加していないことも知られることにつながった。

これらの課題は、緊急避妊薬のOTC化の可否だけにとどまらず、日本で特に若年層の性行為が一部で禁止行為的に扱われていたり、肯定的に捉えられていないことを背景に、相談ができない、避妊の対処法にも積極的になることに「恥」や「罪悪感」などが伴う可能性があることなど、根深い課題が日本にあることへの認識が広まったといえる。

こうした、ぞれぞれの立場からの視点の議論を重ねてきたことで、委員の発言にも変化が表れ始めている。その象徴が日本産婦人科医会の発表で、医会の資料のどこにも「反対」の文字はなかったのである。その代わりに「懸念」という言葉で、懸念する事項が挙げられていたが、これは、現場の産婦人科医の体験を共有する意味でも貴重な資料と受け止められる。

そして、日本薬剤師会の岩月委員や日本保険薬局協会の松野委員、日本チェーンドラッグストア協会の平野委員など、薬剤師・薬局関連団体の委員からも処方箋なしで薬局で緊急避妊薬を販売することへ、積極的な発言が多く登場していた。

翻って、議論の積み重ねの重要性は、もちろん検討会の長期化の理由にはならない。日本OTC医薬品協会の黒川委員が発言した通り、「今も緊急避妊薬を必要としている人がいる」のであり、早期の対策が望まれるところだ。

ただ、今回の検討会でこれまでの議論とは違った発言が多く聞かれたことは間違いない。

検討会は1つの成分については「検討会①」と「検討会②」の2回を原則としている。「検討会①」のあとにはパブリックコメントも行われる。事務局はパブコメ前に「検討会①」をもう一度開くかどうかには余地を残す発言をしていたが、この会の趣旨が可否決定ではなく課題抽出であることを踏まえると、「検討会②」のステップに移る可能性もゼロではないだろう。また、少なくとも「検討会①」のあとには「検討会②」、そして可否を決する薬食審へと移ることになり、4年を要したここまでのステップは、最終局面、しかも良い方向に向かっていることは間違いないのではないだろうか。

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