【東日本大震災11年】震災機に起業、小田原で再エネ普及 苦闘の4千日を1冊に

再生可能エネルギー導入の取り組みを本にまとめたまとめた「小田原かなごてファーム」の小山田代表社員=同市成田の農家カフェ「シエスタ」

 東日本大震災をきっかけに“脱サラ”し、小田原市内で再生可能エネルギー導入を進める合同会社「小田原かなごてファーム」を起業した、同社代表社員の小山田大和さん(42)。耕作放棄地を活用したソーラーシェアリングの取り組みなどをまとめた「食エネ自給のまちづくり」(田園都市出版社)を11日に出版する。エネルギーと農業の地産地消を掲げた苦闘の4千日を振り返り「成功も失敗も、同じ思いを持つ人たちの泥くさい実践書になれば」と呼び掛ける。

◆7年勤めた郵便局退職

 2011年3月11日。小山田さんは当時勤めていた平塚郵便局で大きな揺れを感じた。震災当日は家に帰れないまま職場に泊まり「まずは自分たちの生活を立て直すことで精いっぱいだった」。テレビの東京電力福島第1原発事故を見て危機感を持ちながらも行動には踏み切れなかった。

 きっかけを与えたのは旧知の仲でもあった小田原の老舗「鈴廣かまぼこ」の鈴木悌介副社長。「原発がなくても日本経済はやっていける。地域の中小企業が実践を通じ新しい現実をつくっていく」。熱く語る鈴木副社長の言葉に押され、7年間勤めた郵便局を退職。鈴木副社長が12年に立ち上げた「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」に事務方として加わった。

 会議メンバーとして再エネの「実践」を進めるために16年3月に同ファームを立ち上げた。同11月に市内で、まだ県内でも珍しかった農業と発電が共存するソーラーシェアリングの発電所1号機を開設。太陽光パネルの下で農作物を育て、売電による農業収入の安定化も狙い、南足柄市や愛川町など5カ所に拡大した。

 さらに、発電した電気を自家消費する全国初の農家カフェ「シエスタ」(小田原市成田)を21年にオープン。ソーラーシェアリングの田んぼで育てた米を使った日本酒も発売した。

◆台風で発電所が倒壊

 一方で、すべてが順風満帆ではなかった。18年には台風の被害で発電所が倒壊。松田町と協力し進めた地元木材の燃料資源化の事業は、採算性などを町議会から厳しく追及される中で実現までこぎ着けた。「きれい事ばかりではなかった。震災から11年、やっとここまで来たという思いとまだここまでという二つの複雑な思い」

 これまで3月11日に合わせ、小田原で反原発を訴えるイベントにも関わってきた。さまざまな思いを込めた著書を手に、「大規模な発電所に頼らず、食べ物もエネルギーも地域で自給自足していく。その出発点を築いたのがこの10年余り。そして次の10年がさらに重要」と前を向いている。

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