<社説>ウクライナ「装備移転」 民生支援に徹するべきだ

 政府は「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定し、戦争下のウクライナに防弾チョッキなどを供与した。 政府は、ウクライナに限定しており「殺傷能力を持つ装備品を提供する考えはない」とするが、なし崩し的に武器の供与・輸出が拡大する懸念がある。平和憲法を掲げる日本は、民生分野で支援できることがいくらでもある。民生支援に徹するべきだ。

 「防衛装備移転三原則」は2014年、当時の安倍内閣がそれまでの「武器輸出三原則」を廃止して、条件付きで武器輸出ができるようにした防衛装備品の輸出ルールである。輸出先を米国をはじめ安保面で協力関係にある国などに限定し、条約や国連安保理決議に反する場合や、安保理が措置を取っている紛争当事国への輸出を禁じている。

 ウクライナはまさに紛争当事国である。しかし、侵略を始めたロシアが安保理常任理事国であるため「措置」を取ることができないことから、「三原則」の禁止に該当しないと判断した。

 その上で「国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して自衛隊法に基づき防衛相が譲渡する防衛装備」と追加した。自衛隊法の規定は、開発途上国に「不用な装備品」を譲渡できるとした条項で、前例は紛争状態にないフィリピンへの2回しかない。

 このような恣意的と言わざるを得ない解釈と特例で、簡単に変えられていいのだろうか。「三原則」の運用は、国家安全保障会議(NSC)の首相、官房長官、外相、防衛相の4大臣のみで決定される。事前の国会審議はない。今回は4日に協議を行い、8日に持ち回りで決定し直ちに第1陣を出発させた。

 14年の「武器輸出三原則」廃止の背景には軍需産業からの強い要請があった。廃止以前は、例外措置が行われるたびに「死の商人に道を開く」と批判された。この間の日本の軍事化は、例外や特例、既成事実化によって、なし崩しでルールを変えることで拡大し、後戻りできない状態がつくられてきた。「非殺傷」装備品の防弾チョッキが「アリの一穴」となり、次は弾薬やミサイルになりはしないか。

 そもそも今回、「防衛装備移転三原則」に基づく必要があったのか。「三原則」では防弾チョッキは「防衛装備品」すなわち武器だが、他に供与されるヘルメット、防寒服、テント、カメラ、衛生資材、非常用糧食、発電機と同様に、民生品を調達することも可能だ。緊急対応が必要だとすれば、災害用備蓄資材を回すことも検討できたのではないか。

 人口4300万人余りのウクライナでは、この戦争で国内避難民が700万人、外国への難民が400万人に達すると想定されている。日本は平和国家として、避難民への幅広い民生支援を展開するとともに、戦争を終わらせるための外交に力を注ぐべきだ。

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