注目集めた鷹育成左腕の超遅球 “禁止令”を出した投手コーチの思惑とは?

ソフトバンク・岡本直也【画像:パーソル パ・リーグTV】

大学4年途中から2種類のスローカーブを投げていた岡本

観る者の度肝を抜いた超スローカーブ。球場ガンでは計測することも不可能だった超遅球は、ネット上でも反響を呼んだ。投げたのはソフトバンクの育成4年目・岡本直也投手。3月9日、タマスタ筑後で行われた春季教育リーグの中日戦。3番手でマウンドに上がった左腕が投じたボールが大きな注目を集めた。

【実際の動画】見納めになるかもしれない? 話題となった鷹・岡本直也が投じた超遅球の映像

7回に登板した岡本はまず先頭の堂上をチェンジアップで空振り三振、続く大野奨を左飛に打ち取った。6球で簡単に2死を奪い、迎えた石垣への初球だった。岡本の投じた緩いボールは大きな弧を描いて打者の足元にぽとり。判定はボールだったが、インパクトを与える1球にファンもざわついた。その超遅球の後には自己最速タイの146キロもマーク。最後は101キロのカーブで空振り三振を奪った。

実は、岡本は大学4年途中から100キロ前後のカーブと50キロ前後の超スローカーブの2種類のカーブを持ち球にしていた。超スローカーブは1試合に1、2球投げるかどうかながら、自分の心に余裕を持つため、そして、1つの個性として大事にしてきたボールだった。2種類のカーブの握り自体は同じ。リリースのタイミングと抜き方で2種類を使い分けてきた。

ただ、その注目とは裏腹に試合後にコーチから伝えられたのは“禁止令”だった。高村祐2軍投手コーチは「今後のためにもハッキリ言います」と言い、岡本の“スローボール”に言及した。理由は2つ。1つは、ストライクゾーンの中に入ってきても、ストライク判定され得るボールではないということ。高い所から落ちてくるボールはベース板の上でもストライクとみなされることはほとんどないからだ。もう1つは岡本の立ち位置。「キツイ言い方になるけど、今の岡本の立場を踏まえて、今はしっかり自分のボールを投げるべきなんじゃないの、というのが1番」と指摘した。

育成4年目になり「クビになってもおかしくなかったのにチャンスを貰った」

岡本は2018年育成ドラフト2位で東農大北海道オホーツクから入団。3軍での登板はあるものの、入団から3年連続でウエスタン・リーグでの登板はない。プロ入り後は多くの時間をリハビリ組で過ごしてきた。「3年目でクビになってもおかしくなかったのにチャンスを貰った。もうリハビリに行っていい立場じゃない。何があってもやらないといけない」。現実は岡本自身も重く受け止めている。

オフは武田翔太投手に弟子入りし、目の色を変えてトレーニングに取り組んできた。さらに、同期入団の重田倫明投手や後輩の中村亮太投手が、育成選手ながらオープン戦に登板し、支配下昇格を目指してアピールしている。崖っぷちに立たされた今、岡本は高村コーチの指摘する“自分のボール”をしっかり投げるべく超スローカーブを封印し、直球を磨く決意を固めた。

この試合で計測した146キロは自己最速タイで「近々148キロくらいまで球速を上げて、ゆくゆくは150キロを投げたいです」という岡本。自主トレを共にした武田も「今年は150キロ投げるよ」とポテンシャルと進化に太鼓判を押す。怪我がちだったこれまでを振り返り、出力が上がってもそれに耐えうる身体作りにも励む。超スローボールが見られなくなるのは残念だが、ここから岡本がどんな変貌を遂げるのか注目したい。(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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