台湾に新球団誕生、愛称は「ホークス」? 親会社は有数の大企業、待望の6球団制へ

CPBL蔡其昌コミッショナー(左)と台灣鋼鐵グループの謝裕民会長【写真提供:CPBL】

親会社は台湾鋼鉄グループ、本拠地は南部・高雄市の澄清湖球場に

台湾プロ野球に6球団目が誕生することになった。3月2日、台湾鋼鉄グループ(TSG、台湾スチールグループ、以下台鋼)の謝裕民・会長は台湾プロ野球を運営するCPBLを訪れ、蔡其昌コミッショナーと「加盟意向書」を締結した。台鋼は5つの企業グループを傘下に置き、鉄鋼産業の川上から川下まで一貫したサプライチェーンをもつ台湾最大級の電炉メーカーで、南部の台南市に本部がある。

子どもの頃から野球ファンという謝会長は“第6の球団”に名乗りをあげた理由について「南部のスポーツ産業盛り上げに貢献したかった。まさかプロ野球に関わることができるとは思わなかった。とても光栄です。6番目の球団をしっかり運営したい」と力を込めた。蔡コミッショナーは、「既存の5球団はもちろん、多くのファンそして選手が喜び、興奮している。新球団設立で、より多くのチャンスが生まれることになる。台湾プロ野球という大家族へようこそ」と歓迎の意を示した。

立法院(国会)の副議長を兼任する蔡コミッショナーは昨年1月の就任時から第6の球団参入を目標に掲げ、さまざまな企業と接触。企業のスポーツ産業への参入を促すため税制優遇措置を含む法改正を行ってきた。そして、有力候補の一つとされていた台湾最大の電気通信事業者・中華電信に続き、昨年12月には台鋼の名が浮上。今年1月には謝会長らがCPBLを表敬訪問していた。

その後、蔡コミッショナーは2月10日の新年祝賀会で、2月末にもどちらの企業が加盟するか明らかになると明言。2月25日に台鋼に絞られたことを明かした。台鋼は会見で、本拠地が台湾南部・高雄市の澄清湖球場となること、チーム名が「台鋼雄鷹(タイガン・ションイン)」となることを発表した。

球団の英語名は発表されなかったが、台鋼は男子サッカーのセミプロリーグTFPLでは「台南市台灣鋼鐵」、男子プロバスケットボールの新リーグ、T1リーグでは「台南台鋼獵鷹」を持っている。同チームの英語名は「Tainan TSG GhostHawks」であることから、「雄鷹」の英語訳は「Hawks」もしくは「○○○Hawks」などの英語名となる可能性が高そうだ。

「加盟企画案」が審査通過すれば正式決定、7月のドラフト会議参加へ

台湾プロ野球では、新規参入に関する規定を定めている。参入企業は「意向書」の締結から35日以内に「加盟企画案」を提出し、CPBL、常務理事会による審査を通過することが求められている他、「加盟金」台湾元1億2000万元、「経営保証金」3億6000万元、「地方における野球振興基金」1億元、総額5億8000万元(約23億9100万円)をリーグに支払わなければならない。このうち「経営保証金」については、球団設立から満5年経った段階で返還される。球団経営をスタートし、2年目までにはこれら新規参入に必要となる5億8000万元に加え、球場など施設面の整備費用、ドラフト指名選手の契約金、プロモーション費用などを合わせ、約10億元(約41億1920万円)が必要とされる。

台鋼の謝会長は「球団経営費用として、既に10億元を準備している」と強調。「経営保証金」は必ず受け取ることができるだろうと語る。蔡コミッショナーも、CPBLや各球団は、2019年に20年ぶりにリーグ復帰を果たしたものの一度脱退したため、新規参入の扱いで第5の球団となった「味全ドラゴンズ」をサポートしてきたと説明。「心配ない。第6の球団ができるだけ早く軌道に乗れるよう、今後、全力で協力していく」と約束した。

常務理事会による審査を無事通過して台鋼が晴れて第6の球団となった場合、まず今年7月のドラフト会議に参加することになる。2019年の味全と同様であれば、ウェーバー式で開催されるドラフト会議で、台鋼には今年、来年と「いの一番」の指名権を与えられる。さらに今年は上位4巡目まで、来年は上位2巡目まで、1巡につき2人ずつ指名する権利が与えられる。

シーズンオフの11月には、各球団(味全以外となる可能性)のプロテクト外の選手を指名する「エクスパンション・ドラフト」が行われ、経験ある選手を補強することになる。また、2年間は各球団の戦力外選手についても優先的に接触可能とされている。こうして構成されたメンバーによって2023年から2軍公式戦に参入、2024年から1軍公式戦に参入する。

CPBLは1990年に4球団でスタート。2リーグ分裂後の1997年にはCPBL7チーム、新リーグのTMLが4チームと、最大で11チームまで増えた。しかし、レベル低下によるファン離れなどもあり、2003年に両リーグが合併。6チームで再スタートを切った。ところが、2008年に八百長問題による除名、解散で4チーム体制となった。ファンからは球団増を望む声がすぐに上がったが、球団の経営危機や身売りも相次いだこともあり、4チームの維持が精一杯だった。

球団増の機運はなかなか高まらなかったものの、2013年WBCの快進撃による野球人気の復活、各球団の経営努力により、プロ野球のブランド価値は上昇。各球団の親会社が大企業へと変わっていったことも追い風となり、2019年に味全が社会貢献活動の一環で「復帰」し、5球団となった。ただ、球団数が奇数で日程が組みにくいという課題などがあり、できるだけ早い時期での新球団参入が期待されていた。

台鋼の参入が正式決定すれば、2024年の1軍公式戦は16年ぶりに6チームで開催されることになる。蔡コミッショナーは会見で将来的な第7、第8の球団誕生への期待も滲ませたが、まずは6球団での成功が求められることになりそうだ。

日本企業が球団経営に参画する“噂”、クリアすべき課題も

注目の第6の球団ということで、台湾の各メディアは監督、コーチやGMの候補、目玉となる大物選手の獲得計画、世界的な日本企業による株式の取得やネーミングライツ契約の可能性など、さまざまな噂を報じている。2日の会見で、台鋼からこれらの報道に対する明確な回答はなかった。だが、「企画案」提出前に、監督やGMの人選が明らかにされるという説明がなされた他、海外企業の球団経営参画への検討についても前向きな姿勢は示された。噂される通算最多勝監督の監督就任や、奇しくも同じ「ホークス」球団をもつ“某大手企業”の参画は果たしてあるのだろうか、注目だ。

新球団誕生は明るい話題だが、クリアすべき課題や不安材料もある。その一つは高雄市の澄清湖球場を本拠地とする点だ。1999年に開設された澄清湖球場ではかつてTMLの試合が開催されていた他、CPBLでは2003年に第一金剛から球団を買収したLanewベアーズ(楽天モンキーズの前身)や義大ライノス(富邦ガーディアンズの前身)が本拠地とした。しかし、Lanewは2011年に北部の桃園に移転し、Lamigoモンキーズとなった。義大も2015年に主催全60試合を開催したものの、興行的には成功せず、2016年に富邦に身売り。2017年以降、澄清湖球場は本拠地として使用されていない。

慢性的な渋滞、アクセスの悪さも理由の一つと言われており、球場最寄り駅が設置される高雄メトロ・イエローラインの早期開通(2028年開通予定)が期待される。また、ファンを引きつけるための施設のグレードアップも求められる。台鋼には構想があるようだが、蔡コミッショナーは会見で早速、改修すべき点や収益増に関するアドバイスを行うなどしていた。台鋼が高雄市の澄清湖球場を選んだことで、台湾の直轄市6市全てにプロ野球チームの本拠地が置かれることとなる。高雄市政府も歓迎しており、バックアップを期待したいところだ。

このほか、他球団が金融、流通など直接消費者と接する企業であるのに対して、台鋼はBtoB企業であり、プロモーションの難しさを指摘する声や、既存のファンがいてOBで首脳陣を構成した味全とは異なり、ゼロからの新規参入となることへの困難さを憂慮する声もある。謝会長は、チームづくりやマーケティングについては、CPBLとも協力しながらより多くのスペシャリストを集め、専門家の意見を尊重していくとしている。実質的な舵取りを任せられた精鋭たちがどのようなチームをつくっていくのか。この点も注目といえそうだ。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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