間宮祥太朗が「奇跡のバックホーム」を経て感じたこと――「好きだから続くっていうのが一番強いと思います」

ドラフト2位指名で阪神タイガースに入団し、プロ野球選手として将来を期待されながらも突然の病魔によって24歳という若さで引退した元プロ野球選手・横田慎太郎さん。2019年に行われた引退試合で横田さんが見せたバックホームは、プロ野球ファンのみならず多くの人々に感動と勇気を与え、今もなお語り継がれています。このラストプレーへとつながるまでの軌跡を、横田さんの自伝的エッセイをもとに描いたドラマ「奇跡のバックホーム」(テレビ朝日系)が、明日3月13日に放送されます。

本作で横田さんを演じるのは、現在放送中のドラマ「ファイトソング」(TBS系)にも出演している間宮祥太朗さん。多くのファンに愛され、惜しまれながらも引退した横田さんが引退試合で再びグラウンドに立つまでの力強い姿を繊細に演じます。共演するキャスト陣には石田ひかりさん、丸山智己さん、村瀬紗英さん、三浦景虎さんと豪華な顔ぶれがそろいます。さらに、横田さんの野球人生を知る金本知憲さん、矢野燿大さん、鳥谷敬さんがドラマと併せてインタビュー出演。横田さんが復帰を懸けリハビリや治療に臨んでいた頃のエピソード、引退試合の舞台裏が明かされます。

今回は、横田慎太郎役を演じた間宮祥太朗さんを直撃取材。「悩んだ」というオファーの話や、ご家族とのお話、さらにドラマ内で放送される横田さんとの対談シーンの舞台裏について伺いました。

出演を決めた“マネジャーからの一言”

――まず、オファーが来た時に感じたことを教えてください。

「一番最初にマネジャーからこういう話があると聞いた時は、責任が重すぎて、正直受けるか悩んだところがありました。僕自身、野球経験者で阪神タイガースファンですし、横田さんのことも知っている中で、ファンの方はもちろん、横田さんご本人や球団関係者の方々、いろいろな人の思いがこの作品に乗っかっているじゃないですか。それを自分が背負えるのか、かなり重く考えてしまった部分があったんです」

――そうだったんですね。悩んだ末にオファーを受けようと思った決め手は何かあったのでしょうか?

「マネジャーと『もし自分の好きな球団でこういう(ドキュメンタリー)ドラマをやるってなった時、本当にその球団のことが好きな人にやってほしいと思う』みたいな話になって、『なるほどな』と思ったんです。あと、『祥太朗は、横田さんの役をこの人ならやってほしいっていう人いる?』と聞かれて、『正直、いないなぁ』って思って。そうやって話していくうちに、『(自分が)阪神ファンということも踏まえて、オファーしてくださったんだな』と考えて、受けさせていただこうと決めました」

――出演が決まって、ご家族や周りからの反響も大きかったのではないでしょうか?

「(取材時には)実はまだ話せていないんですよ。もともと祖父が巨人ファンで、両親は自分の影響で阪神を応援しているという感じなんですけど、どういう反応するんだろうな…。今回のお話は自分としては名誉なことですけど、ドラマのことが発表されたらまず最初に『最近、お前野球関連の仕事しすぎじゃない?』って言われると思います(笑)。(野球中継の)副音声とかも以前やらせていただいたので、それは一番最初に思われるかなと思ってます」

――ドラマの撮影はすでにクランクアップされたとのことですが、いかがでしたか?

「今回は実在する人物の役ということもあって、いつもの作品とはまた違うプレッシャーがありました。時代劇とか史実になったことの実写化は、『こういう時代考証があって…』という説明を受けて、それをもとにエンターテインメントを作っていくみたいな撮影をする中で、今回は自分が演じた姿を横田さんご本人にも、横田さんを知っている方々にも見られるわけじゃないですか。だから、“しっかり横田さんが歩んだ半生を伝えなきゃいけない”という使命感みたいなものが強くて、そういう意味での緊張感がありました」

――阪神タイガースのユニホームにも袖を通されたそうですね。

「一ファンとして舞い上がりました。ユニホームももちろんうれしかったんですけど、入団会見のシーンで横田さんはもちろん、梅野隆太郎選手といった同期の方の名前がテーブルに並んでいて、そこはちょっと感動しましたね(笑)」

――撮影時、大変だったことはありますか?

「僕も野球経験者ではありますけど、プロで活躍されていた横田さんのプレーとはレベルの差がありますし、それ以上に大変だったのは、僕は右投げ右打ちだったんですけど、横田さんは左投げ左打ちだったんですよ(笑)。それを体現するのは大変で、左投げ左打ちの練習もしました」

――横田さんを演じる前と後で、心境の変化はありましたか?

「作品に入る前は、どういうふうに演じていくかを考えていたので、割といっぱいいっぱいで余裕がなかったんですけど、演じ切った今は、『これが実際に横田さんや横田さんに関わる人たちに見られるのか…』というプレッシャーというか、怖さだけが残っています。もうどうすることもできなくなってしまったので(笑)。放送されてしまえば大丈夫だとは思うんですけど…」

「みんなに愛されていた」――横田さんとの対談で感じたこと

――今回ドラマの撮影前に、原作者の横田慎太郎さんと対談されたと伺いました。

「話してみるとすごくピュアというか、真っすぐで心の透明度が高い方だなと思いました。横田さんは、『間宮さんが演じてくださって恐れ多いです…』と言ってくださったんですけど、僕の方も『こちらこそ恐れ多いです…』となってしまって(笑)。でも、横田さんと当時のことについて話していく中で、自分が気になったところは『あそこってどういう感じだったんですか?』といった感じでお話させていただきました。実際にスイングも見せていただけて、貴重な経験でした」

――横田さんのピュアな部分は、どういったところから感じたのでしょうか?

「すごく人の目を見てしゃべるというのは印象的でしたね。『人の目を見てしゃべりなさい』って、人間が初期の段階で教わるじゃないですか。きっと小さい頃から守り続けているんじゃないかなという感じがしました」

――特に心に残ったお話について教えていただきたいです。

「バックホームを投げた瞬間のことは、『不思議な体験だった』とおっしゃっていました。『うそっぽく聞こえるかもしれないけど、本当に背中を押されたんです』という言葉がすごく印象的で。『(病気で)ボールが二重に見える怖さがあって、ボールが来た時に体が下がっちゃう癖がついてしまっていたけど、あの時はフワッと何かに押されて足が前に出た。あの時一歩前に出なかったら投げられなかった』というお話を聞いて、そういう感覚って本当にあるんだなと思いました。ファンの方とか家族とか、いろいろな人たちの思いが乗ったことで前に押し出してくれる要因になったんだなと思うんです」

――本当に奇跡のような、不思議な体験だったんですね。

「あと、これは(カメラが)回ってない時に話していたことなんですけど、『(野球を)やめてからどうですか?』みたいな話をしたんです。そしたら、『この間ボールを投げたら感覚が全然違くて、自分の体が“投げる”という動作を忘れているような、野球を忘れた感覚だった』と。そういう意味でも以前とは別人みたいに感じるみたいです」

――実際にお会いされてから撮影に入ると役や作品への考えが変わってくるのかなと思うのですが、演じる上で意識したことはありましたか?

「横田さん自身が『人に助けられた』とすごく言っていたので、自然と人が手を差し伸べたくなるような人柄が出せるように意識しました。横田さんってある種のかわいさがあるんですよ。たぶん、先輩とかはみんなかわいがっていたんじゃないかなと思うんです。入団会見で緊張していたり、田中秀太さん(丸山智己)の話を真剣に聞いているところでそういう意識がありました」

――特に思い入れのあるシーンはありますか?

「横田さんの思いがあふれ出るシーンがあるんですけど、一生懸命やらせていただいた中で、あのシーンにあそこまで気持ちを乗せられたのは、“横田さんの存在やプロ野球選手の存在、大好きな阪神タイガース、自分の慣れ親しんでいる野球”があったから。そう思える瞬間がありました」

――では、あらためて横田さんが当時どんな選手だったと感じていますか?

「どんな選手か…作中にも出てくるんですけど、秀太さんから『野球がうまいのがプロ野球選手ではない、応援されてこそプロ野球選手なんだ』と言われるシーンがあって、横田さんがすごく愛されていたことを実感しましたし、そこにすべてが詰まっているなと撮影しながら思いました。これは横田さんに限ったことではないかもしれないですけど、引退されてもこうして番組が企画されてずっと人の中に残っていくのは、単純な野球の技術だけじゃなくて、人柄とかもあってこそだと思います。球団関係者からも愛されていたと聞いたので、そういうところが一番印象に残っています。一個人としては、横田さんが引退せずに今も阪神でプレーされていたら、どんな選手になってどんな活躍をされていたのかなというのは気になります」

「自分の選択だから」と背中を押してくれた家族の存在

――家族の助けや支えというのもこのドラマが持つテーマの一つだと思います。間宮さんはこれまでご家族に助けられたなと感じた経験はありますか?

「もうずっと助けられっぱなしですよ。一番助けられたなと思うのは、僕が『やりたい』とか『やめたい』と思っている意志をすごく尊重してくれることが大きかったです。『野球をやりたい』と言ったらすぐにやらせてくれたし、『野球をやめる』と言った時も、『何で?』とは言われましたけど、『やめるな!』みたいなことはなかったです。自分が興味を持ってやりたいと思ったことに、『自分の選択だから』と言って背中を押してくれたのは大きかったです」

――横田さんのご家族とも通じる部分がありそうですね。

「いや、でも横田さんってお母さんとすごく笑い合ったり仲がいいじゃないですか! 僕も別に仲は悪くないですけど、横田さんには反抗期とかあったのかなって思うくらいなので、“すげえな!”って思います」

――野球のお話もありましたが、中学生3年生まで野球をされていた間宮さんはどんな野球少年でしたか?

「とにかく負けず嫌いでした。素振りとかを家でするような努力家ではなかったですけど、でも負けず嫌い。意味が分からないですよね(笑)。部活で外周40周とかってあるじゃないですか。当時の先輩は自分よりも2年、3年多く走っているから、『まだ1年はついてこれないだろう』っていうペースで走られることにすごく腹が立って、必死で先輩のペースについていくみたいな、そういうことはすごくありました」

――そこから役者の道を歩んで13年あまり。これまで壁を感じたり「しんどいな」と思ったことはありましたか?

「もちろん、それは今でもあります。常に自分の芝居が期待以上なわけがないんです。カメラ前でチェックしたり実際の放送で自分の芝居を見たりするたびに、自分が思い描いているより全然できていなくて。僕に限ったことじゃないですけど、誰かの作品とか、先輩の役者さんの映像を見て、『何があったらあそこまでいけるんだろうな』とか、そう思うのは役者なら常にあるんじゃないですかね」

――常に勉強をし続けていくような…?

「でも勉強するっていうのも難しい話なんですよ。これを勉強したから芝居がうまくなる、勉強を重ねてその方法論でいい芝居をしたという人間が、見ている人に“うまい”って映るのかというと必ずしもそうではなくて。デビューしたての子が芝居のイロハを知らないからこそ良かったりすることもあるじゃないですか。芝居の勉強期間がない子がカメラの前に立つことで、めちゃくちゃリアリティーが生まれることもある。だから、何かを勉強すればいいってものではなくて…難しいですよね。答えがないんです」

――答えがない世界の中で、ここまで続けられている原動力は何でしょう?

「なんだろうな…現場が変わるということは大きいです。同じ会社の同じデスクに座るみたいなことが一切ないし、変化が常にあるじゃないですか。僕は今『トライストーン・エンターテイメント』という事務所に所属していますけど、働いてる環境としては事務所の人よりも現場のスタッフの方々との方が長い時間を共有しているわけで。そういう意味では、自分の性格とかを考えても1カ月とか3カ月で仕事場がコロコロと変化し続けているから、この仕事を続けられているんじゃないかなと思います」

「このドラマをより多くの人に届けられたらなと思っています」

――横田さんは原作でも目標に向かって努力していくことの大切さに触れていましたが、横田さんの努力家な一面は間宮さんから見てあらためてどのように感じますか?

「まず野球がすごく好きだったのは間違いないことで、そういう人がプロになるんだなと思います。あとは、ずっと努力し続けられるような環境とか優しさを与えてくれるご家族の存在も大きいですよね。やっぱり、好きじゃないことをずっと努力するって無理だと思うんですよ。好きだから続くっていうのが一番強いと思います」

――ドラマや原作で横田さんが口にしている“目標”という言葉にかけて、間宮さんのこれからの役者としての目標を教えてください。

「この仕事における具体的なものとして、目標というのは特に立てたことがなくて。でもぼんやりとあるのは、“いい年のとり方をしたんだろうなという顔”になっていきたいとは思いますね」

――“いい年のとり方をした顔”、ですか。

「20代後半から30代になっていく時に、『30過ぎたあたりから、その人の人生経験がどんどん顔に乗かってくる』みたいなことを言われたことがあって。その人の人生を知らなくても、“いい年のとり方をしている人”と“そうじゃない人”がいると思うんです。目標とはちょっと違うのかもしれないですけど、いい年のとり方をしたんだろうなっていう顔になっていきたいなと思います」

――貴重なお話ありがとうございました! 最後に、このドラマを楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

「この作品を見る人は、阪神ファンの方や横田さんのことを今も応援し続けてる方も多いと思うので、ここを見てほしいと僕が言うことはありません。僕は、横田さんのことをあまり知らない人が物語に触れられるようにキャスティングされたと思っていて。自分に話が来たのは、こうやって取材していただいて、ドラマを見ようっていう人を獲得していかなければいけないので、横田さんの半生を描いた『奇跡のバックホーム』というドラマをより多くの人に届けられたらなと思っています」

【プロフィール】

間宮祥太朗(まみや しょうたろう)
1993年6月11日生まれ。神奈川県出身。O型。主な出演作に、ドラマ「スクラップ・ティーチャー〜教師再生〜」「#リモラブ〜普通の恋は邪道〜」(ともに日本テレビ系)、「BG〜身辺警護人〜」(テレビ朝日系)、「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系)、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」、映画「帝一の國」「全員死刑」(2017年)、「殺さない彼と死なない彼女」(19年)、「東京リベンジャーズ」(21年)など。現在ドラマ「ファイトソング」(TBS系)に出演中。また、4月スタートのドラマ「ナンバMG5」(フジテレビ系)、7月8日公開の映画「破戒」への出演も控えている。

【番組情報】

「奇跡のバックホーム」
テレビ朝日系
3月13日 午後1:55〜3:20
※放送終了後、TVer、GYAO!にて見逃し配信あり

取材・文/平川秋胡(テレビ朝日担当) 撮影/尾崎篤志 スタイリスト/津野真吾(impiger) ヘア&メーク/三宅茜
衣装協力/DELUXE、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE、BRAND SELECT

© 株式会社東京ニュース通信社