<レスリング>「戦争とスポーツの類似点なんて、ひとつもありません」…東京オリンピック金メダリスト、ジャン・ベレニュク(ウクライナ)が平和を希求

 

7か月前、人生最高のときを迎えたジャン・ベレニュク(ウクライナ)。今は命の危険にさらされている

 ロシアのウクライナ侵攻で、サンボとキックボクシングの選手が砲撃によって死亡するなど、スポーツ選手の死亡や軍への入隊が伝えられる中、昨年の東京オリンピック男子グレコローマン87kg級で優勝、全競技を通じてウクライナ唯一の金メダルを手にしたジャン・ベレニュクが、英国の情報サイト「Support the Guardian」のインタビューに答え、その記事を自身のフェイスブックにも載せて同国の現状を伝えている。

 ベレニュクは同国で黒人初の国会議員。父はルワンダ出身で、内戦で命を落としている。「ウクライナの惨状を伝えるのは難しい。多くの惨劇があります。それを伝えるためには、ここに残らないとなりません。ロシアは大統領や国会議員を標的にしていると聞いていますが、私はどこにも行きません」と、大統領とともに国会議員としての使命をまっとうすべくキエフにいるという。

 これまで軍事経験はないものの、護身用に3丁のピストルと手りゅう弾を携帯しているそうで、「万が一のため準備をしなければなりません」と、悲壮な覚悟を明かした。

 「スポーツは、戦争の比喩(ひゆ=類似した表現)と思うか?」との質問に対し、「まったく違う。類似点はひとつもない。(スポーツは)負けても明日がやってくる。戦争では死ぬこともある。自分自身だけではない。家族もです」と答えた。

 また、同オリンピック女子68kg級で銅メダルを取ったアラ・チェルカソワ(2018年世界チャンピオン)は、子供とともに避難する様子を動画に投稿。「私の人生でレスリングはとても大事なものです。しかし、今は命の方が大事です。皆さんの力で、この戦争をやめさせてください」と訴えている(下記動画)。

 現在、ブルガリアでU23欧州選手権が行われている。世界レスリング連盟(UWW)の決定によってロシアとベラルーシは出場していないが、ウクライナも出場していない。すべて国の選手が笑顔で握手を交わす日は、いつやってくるのか。

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