【東名あおり運転差し戻し審】真っ向から食い違う主張、証言振り返る 16日公判再開

横浜地裁

 5年前の初夏の夜、神奈川県大井町の東名高速道路で起きた事故。あおり運転の末、追い越し車線上に車を停車させて一家4人が死傷する事故を招いたなどとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた被告の無職男(30)の差し戻し裁判員裁判は、これまで8回の審理を重ねた。

 被告は「危険な運転はしていない」などと無罪を主張。検察側と弁護側の主張は、被告の運転態様や事故に至るまでの状況などで真っ向から食い違う。16日の証人尋問のやり直しから再開する公判を前に、双方の主張や関係者の証言を振り返る。

◆「邪魔だ」きっかけに

 発端は2017年6月5日午後9時半前ごろ、東名高速中井パーキングエリア(PA)での出来事だった。

 「邪魔だ、ボケ!」

 通路部分に車を止めタバコを吸っていた被告に、ワゴン車で通りがかった男性=当時(45)=が言った。当時15歳で助手席に乗っていた長女(20)らによると一家は東京旅行の帰り道、男性と妻=当時(39)=が運転を交代するためPAに寄った。父の注意は「大きな声で驚いた」。

 この場面について、検察側は「被告は、注意に憤慨し無理矢理車を止めて文句を言おうと考え、一家の車を追跡した」と指摘する。

◆争点「妨害運転」

 同日午後9時33~34分ごろ。「被告の車が車線変更を繰り返し、(一家の)車の前に計4回割り込んできた」。長女は被告の「危ない妨害運転」があったと証言を重ねた。

 大きな争点は、被告が無罪を主張する危険運転致死傷罪が成立するかどうか。検察側はPAから約700メートルの間、被告の車が一家の車の直前に割り込み減速、4回の妨害運転を行ったと主張している。妻は恐怖で停車を余儀なくされ、被告が追突事故を招いたとする。

 「ぶつかりそうで危ない」。長女によれば、被告による追跡の間、車内は緊迫し妻んは焦っていた。

 男性は、被告から逃れるため、ハンドルを握る妻に車線変更を指示。ただ「何回車線変更しても(被告が)着いてきた。もう無理じゃん、と車内は諦めムードだった」(長女)。男性は「俺が話しをつける」とも言っていた。

 一方、弁護側は「そもそも危険な運転に当たらない」と否定する。被告の車のGPSデータの解析から、被告が一家の車を追い越したのは1回で、直前の割り込みや著しい接近はしていないなどと主張。事故鑑定の専門家も「検察側の主張する高速度での車線変更は不可能」などと述べた。

◆停車後に追突

 被告の車が前、一家の車が後ろの形で、2台は追い越し車線上に止まる。長女は、「(先に停車、減速したのは)被告だと思う。母は、(被告によって)仕方なく減速した」などと答えた。

 検察側や長女らによると、被告は一家の車に近づき、ドアを開けた男性に「さっきのは何だ」「道路に投げてやんぞ」などと怒鳴った。胸ぐらをつかむ暴行も加えた。男性が謝っても許さず、男性の体は車外に引っ張られた。長女が恐怖と涙で顔を伏せている間、両親は車外に出て、事故が起きた。

 停車から事故までの状況も、検察と弁護側の主張は異なる。弁護側は「被告と男性はもみ合いになり、お互い謝罪した。どこにも暴行と呼べるものはない」と暴行罪の成立を否定する。

 元交際相手の女性は「けんか売ってんのか」「言われて当然だろ」など被告と男性が言い合い、被告は男性の胸ぐらをつかんだなどと証言した。

 女性が「子どもが泣いとるけん、やめとき」などと「言い合いを制止」した後、被告は「すみません」と謝罪し、車へ戻る途中で、大型トラックが一家の車に追突し、死傷事故が起きた。

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 16日の公判は、長女と元交際相手に対する弁護側の証人尋問を再度実施。弁護側は被告の車が割り込んだとする回数など運転態様や事故までの状況について、一審と今回の証言の違いを確認しようとしたが、地裁が誤って制限した。やり直しではこうした一審の証言を使った質問が行われる。

 今後は18日に被告人質問、30日に論告求刑が行われ結審する見通し。

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