「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で見えてきたこと(1)行政 鳥取は知事主導で「庶務ばかりさせない」 登用進まぬ自治体は事情さまざま

 3月8日の国際女性デーに合わせ、上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が試算し、公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。世界各国の男女間格差を測る“本家”のジェンダー・ギャップ指数と同様の手法で統計処理したもので、「政治」「行政」「教育」「経済」という4つの分野ごとに、各都道府県での格差の現状を可視化した。行政分野の分析から詳しく見えてきたものとは。(共同通信=川口マヌエル、英佳那、兵平尚大)

 行政分野のジェンダー・ギャップ指数が1位、つまり男女間格差がほかの都道府県より小さかったのは鳥取県だ。9の指標のうち、県の管理職(課長級以上)や市町村管理職の女性比率など、4指標で全国1位だった。

 (都道府県版ジェンダー・ギャップ指数のサイトはこちら)

  https://digital.kyodonews.jp/gender2022/

 

 ▽「無理な押し上げでなく、着実なステップ」

 

 鳥取県庁で女性登用を活発にしたのは、1999年に就任した片山善博前知事だ。「女性に庶務ばかりさせない」との考えを明確に示し、それまで男性が中心だったポストへの配置を進めた。

 2007年就任の平井伸治現知事も女性幹部に議会答弁をさせたり、県立農業大学校の校長に初めて女性を任命したりと積極的。「地道で年数はかかったが、幹部候補の層を厚くしながら適材適所で配置してきた。女性も意思決定に参加して、初めて効果のある政策になる」と語る。

 30代で女性初の財政課主計員になり、現在、地域づくり推進部を率いる木本美喜部長は「無理に管理職に押し上げるのではなく、着実にステップを踏ませてくれた」と振り返る。県政全体を見ながら仕事を進める財政課の経験が、幹部になって役立っているという。

 県は在宅勤務の導入などで、子育てと仕事を両立できる環境づくりにも力を注ぐ。知事部局と教育委員会、病院局の管理職の女性比率は24・4%(21年4月時点)となっており、25年度までに25・0%に引き上げる目標は達成に近づいている。人事企画課の山根茂幸課長は「誰もが継続して働ける職場にすることで、自然と女性の幹部候補も増えてきた」と話す。

 ▽「男女いずれも4割を下回らない」条項

 こうした県庁の取り組みの効果は、さまざまな組織に波及。鳥取では県管理職のほか、県職員の育休取得率や、地方自治法180条に基づいて設置する公安、選挙管理などの行政委員会(教育委除く)の女性比率も1位だった。

 県男女共同参画審議会の委員については「男女のいずれか一方が4割を下回らない」とするルール(4割条項)を明記。その他の審議会や行政委員会もこれに準じて男女比の均衡を目指し、候補の人選段階から女性を含めるよう努めている。

 一方、女性の登用が進んでいない自治体にも、それぞれの事情があるようだ。

 知事部局管理職の女性比率が9・0%(21年4月時点)にとどまる北海道の人事担当者は「本庁と出先機関の転勤を繰り返して昇任するケースが多い中、道内は広く、転勤を希望しない職員もいる」と背景を説明する。

 

 女性の登用を進める方針は明確に掲げており「今後も転勤は前提になるが、出産や育児のタイミングに配慮した人事を行いたい」としている。

 県管理職の指標が47位だった秋田の人事担当者は「今の管理職の世代は、そもそも女性の採用が少なかった」と話す。年代別の女性比率を見ると、50代以上は10・5%(21年4月時点)で、40代の半分、30代以下の3分の1だ。

 格差解消にはしばらく時間がかかりそうだが、県も中堅や若手の昇任を待っているばかりではない。企画部門への配置や研修などを通じて女性幹部候補の育成を進める。損害保険大手・損保ジャパンのグループ会社で社長を務めた陶山さなえ氏を県理事に抜てきし、女性活躍に向けた県民全体の意識改革にも力を注いでいる。

 ▽女性が活躍できる環境づくりはリーダーの仕事

  鳥取県の平井伸治知事に聞いた。

インタビューに応じた平井伸治知事

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 ―県庁ではどう女性管理職を増やしたか。

 「部長を増やすために課長を、課長を増やすために課長補佐をというように、下から順に層を厚くしながら適材適所で配置してきた。時間がかかったが、女性が活躍できる環境づくりは組織のリーダーの仕事。リーダーが本気で考えないと動かない」

 ―反発はなかったか。

 「人事担当には『男性職員から怨嗟の声が上がっています』と愚痴をこぼされたこともある。かつては『女性が幹部になっても議会答弁ができないだろう』と真面目に言われていたくらいだから。知事就任前年の2006年4月時点で、管理職の女性比率は7%。職員の男女比からすれば圧倒的に少なかった。反発もあったが『今までが狂っていたんだから、是正するのが当たり前』と言い続けてきた」

 ―女性登用の意義は。

 「女性も意思決定に参加して初めて効果のある政策になる。行政サービスには多様な知恵と経験を生かす必要がある。幹部の男女比は、それが実現できているかを測る指標の一つだ」

 ―どうしてそう考えるようになったのか。

 「官僚時代に勤務した米国連邦選挙委員会の上司が女性だった。デンと大きく構えた上司で職場の雰囲気も良かった。行政機関で女性管理職も普通に働いているのが、本当の民主主義の姿なのではないか。社会を投影するような形で組織を構成していかねばという信念が生まれた」

インタビューに応じた平井伸治知事

 ―鳥取は審議会や行政委員会にも女性が多い。

 「委員の男女比について、一方が4割を下回らないとする基準を設け、関係部局に徹底させている。苦労したのは防災会議だ。県が人選できるのは有識者委員だけ。テレビ局や電力会社といった企業からも任用しなければいけないが、推薦されるのは男性ばかりだった。女性を出してくれと折衝させ、ようやくほぼ半々になった」

 ―一方で鳥取は、首長や議員など政治分野への女性参画が遅れている。

 「投票で選ばれる以上、男女比の偏りは生じる。各政党が候補の一定割合を女性にするクオータ制を導入しなければ解決は難しいだろう」

 ―全国知事会を通じ、行政への女性参画を広げていく考えは。

 「今夏の全国知事会議に向け、吉村美栄子山形県知事の下で全国の優れた事例をまとめている。知事たちと話し合い、国への提言につなげたい」

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 ひらい・しんじ 1961年東京都生まれ。旧自治省(現総務省)を経て2007年から鳥取県知事。全国知事会の会長を務める。

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