ロシア経済、その絶望的な未来予測 同国の著名経済学者「次の冬までに死に至る」

3月3日、営業停止のニュースを聞き、最後の買い物をしようとスウェーデン家具大手イケアのモスクワの店舗で行列を作る市民(ゲッティ=共同)

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、西側各国がロシアに対してかつてない厳しい制裁を科している。フランスのルメール経済・財務相が「ロシア経済を崩壊させる」と述べた一方で、英国のジョンソン首相も「制裁の目的はロシアの体制転換」と断言。一部欧米首脳は制裁の狙いがプーチン政権崩壊であることを隠そうとすらしていない。

 北大西洋条約機構(NATO)が軍事介入しない方針を打ち出した以上、侵攻を止められるのは、制裁措置がロシアに与えるダメージのほかない。制裁が実際、どれほど経済に打撃を与えるのかに国際社会の関心が集まっている。

 こうした中、編集長が昨年のノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は、プーチン政権を批判してきた同国の著名な経済学者ウラジスラフ・イノゼムツェフ氏のインタビュー記事を掲載した。(共同通信=太田清)

 ▽「死」を予測

 イノゼムツェフ氏は独立系シンクタンク、ポスト工業化社会研究センター所長。国内の他、米国や英国、フランスなどで多数の経済関係や社会評論の著作を出版し、ロシアの後進性を指摘、プーチン大統領の強権体制を批判し、ロシアのエネルギー産業からの脱却を主張してきた。3月14日付のノーバヤ・ガゼータに掲載されたインタビュー記事で、制裁や、ロシアの国際的孤立化による企業の収益悪化、インフレにより、次の冬までにロシア経済は「死に至る」と予測した。

 同氏は米政権がロシア産原油の禁輸措置を決めたことについて、たとえ欧米がロシア産原油輸入をやめたとしても、市場よりも安い価格ながら中国などに輸出する手段は残されており、減少幅は侵攻前の1日当たり740万バレルの水準から、100万~150万バレル程度の幅の減少に収まるとしている。

 一方で、欧米の制裁はプーチン大統領や下院議員らの資産凍結など多岐にわたる。深刻なのはロシア中央銀行が米国などに持つ外貨準備の凍結、銀行など金融機関に対する制裁、制裁を科した国の領空でのロシア航空機飛行禁止措置だと指摘した。

3月7日、モスクワの銀行で、制裁の影響で下落した通貨ルーブルの交換レート表示を見る人(ゲッティ=共同)

 特に金融制裁について、プーチン大統領が債務者の救済措置を約束し、2300トンもの金準備を持つ中央銀行が債務支払い猶予や金融機関への低金利融資などの対策に乗り出す可能性はあるものの、近年活発となっていた国内の消費者金融や、12兆ルーブル(約12兆円)まで膨れあがった国内の不動産担保融資へ与える影響は大きいとした。

 さらに、ハイテク機器の禁輸や、制裁措置には含まれないものの、外国企業の撤退やロシア企業との取引停止が与える打撃は大きく、供給網は途絶え、借入金利も高騰する中、海外への販路は絶たれ、国内消費もしぼむんだ国内の企業は追い詰められ大規模な破綻に追い込まれていくと予測。

 具体的にはインフレ率は年30%に近づき、為替相場は1ドル=200ルーブルとさらにルーブル安が進む。失業者は現在の2倍、貧困層は1・5倍になると絶望的な未来予測を唱えた。

 ▽革命時に戻る

 一方、ロシアでは経済制裁への対抗策も次々と打ち出された。

 通貨防衛のため、主要政策金利を2倍以上引き上げたほか、外貨流出阻止とデフォルト(債務不履行)回避に向け日本など「非友好国」へのルーブルによる債務支払いを宣言。3月10日には、一部政権与党議員の提案を受け、ミシュスチン首相が外国企業が理由なくロシアでの事業をやめ会社を閉鎖した場合、外部の管財人に事業を継続させ雇用と生産を維持する法案を準備していると報告。プーチン大統領もこの方針を了承した。外国企業の撤退を止めようとする動きの一環とみられる。

3月11日、営業停止が決まった日本の衣料品店「ユニクロ」のモスクワの店舗で行列を作る買い物客(ゲッティ=共同)

 一時、取りざたされた撤退企業の「国有化」については、「国を100年前、1917年のロシア革命時に後戻りさせる」(新興財閥インターロス・グループのウラジーミル・ポターニン総裁)などの産業界の強い反対もあり、棚上げされたようだが、撤退企業の私権を制限する動きが、さらなる企業の不信を招き、将来的な海外投資を遠ざける結果に終わると懸念する声も根強い。

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