震災を知らない子どもたちにどう伝えるか…「防災教育」の現状と今後の課題

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。3月11日(金)の放送では特別企画「モニフラZ議会」を開催。Z世代の論客が、“防災教育”の現状と今後の課題について議論しました。

◆震災から11年、当時を知らない人が増えるなかで…

東日本大震災から11年。2022年3月1日時点での死者数は19,759人。そして、いまだ2,553人の行方がわかっていません。一方、11年の歳月を経て、当時を知らない子どもたちが増えるなか、防災教育はいかに行っていくべきなのか。

臨床心理士のみたらし加奈さんは、「当時のことを振り返るのも大事。忘れてはいけない思いもありつつ、今後どうしていけばいいのか、震災を知らない世代も増えてくると思うので、どう教育していくのかを考えることは大切」と言います。

そもそも「防災教育」とは何か。防災教育普及協会の宮崎さんは「行動変容をもたらすもので、目指すべきは"交通ルール”のようなもの」と定義。そして、"怖さ”を教えすぎたり、強調しすぎたりすると"考えたくない”という拒否感が生まれてしまうため、身近なものから"実感する”という教育が大事とも。

そこで防災教育普及協会では、出前授業やカードゲームなど身近に感じられる工夫をし、自治体などもYouTubeを活用した普及を行っています。

ここでキャスターの堀潤からは、有事の際、目の前にある恐怖から心を守るために働く「正常性バイアス」について言及。正常性バイアスが働くと、防災音が鳴っているにも関わらず、それが聞こえないなど、身体的影響を及ぼすことがあるといい、東日本大震災以降、多くの災害の現場で見かけられたと話します。

みたらしさんは、「正常性バイアスは認知バイアスのひとつで、本来はいろいろな情報のなかで自分の意思決定をするためのものだが、災害時は逆に意思決定ができなくなってしまうことがある」と補足。特に、スマートフォンが普及している現代においては、災害時の状況を撮影するなど「スマートフォンがあることによって、より一層、正常性バイアスが強まってしまう部分もある」と言い、「そこはもっと周知されるべき」と注意を促します。

他方、「東京新聞」経済部記者の大島晃平さんは、防災教育における"怖さ”に対し「教育という点においては、どれだけ子どもたちが主体的に関わってくれるかという視点が大事。そうしたときに、ある程度"怖さ”は伝えるべき」と見解を示します。

◆広がる防災教育の一方で…学校現場での大きな課題

防災教育に関しては、学校現場でも大きな変化が。小学校では2020年度から、中学校では2021年度、高校では2022年度から実施される学習指導要領で「横断的な教育内容」が求められています。

例えば、社会科で「地域防災」、理科で「災害の仕組み」、家庭科で「被災時の衣食住」、図工では「用具の扱い方」など、さまざまな教科で防災に結びつく学習を要求しています。

しかし、地域や学校による格差が生まれており、全国の小中高校、545の学校へのアンケート調査では「防災教育に取り組んでいない学校」が小学校で17.9%。中学校で28.4%。高校では38.4%。

その理由は、「時間がない」、「教材不足」、「専門知識のある教師がいない」などで、防災教育は教科として独立していないため、教師個人の裁量に任せられることも原因のひとつと考えられています。

こうした現状に、堀は、東日本大震災以外にもさまざまな災害の現場に行き、多くの写真や映像、さらには被災者の証言も記録しているため「授業に呼んでほしい。伝えられるものがたくさんある」と惜しみつつ、「学校現場で先生方だけに任せるのは酷」と教師たちの状況を慮ります。

microverse株式会社 CEOの渋谷啓太さんは、「防災教育やプログラミング教育など教育内容が増えるなか、先生が全て網羅するのは難しい」と堀に同意し、「そうしたときこそテクノロジーの活用を」と提案。

また、防災教育の究極的な意味・目的は「命を守ること」とし、大島さん同様、防災教育における"怖さ”に対して「有事の際、アラートが鳴ると、人はその先にそんなに悪い未来は起こらないだろうと思いたくなる心理があると思うが、それは知らないからで、その先に自分が死ぬという恐怖があれば、そこに対して行動できることがある。そういう意味では、怖さを知らないといけない」と持論を展開しました。

◆人材養成に経験の共有…今後の防災教育に必要なこととは

人材養成に関しても新たな取り組みが生まれ、そのひとつが宮城教育大学の防災教育研修機構。2019年度に発足したこの機構では、首都直下地震や南海トラフ地震が想定される地域の教職員向けに実施研修を行い、被災現場で学ぶプラグラムを実施。また、教員のための教則本や教材の開発、教師を目指す学生たちは自主ゼミをスタートし、被災当時の学校長などに話を聞いて回っているそうです。

こうした内容に加え、堀は「今なお震災や原発に関連した訴訟が数多く起き、結審していないものもある。それは、公の機関と現場で体験した人たちの思いがズレてしまって裁判になっている。そうしたズレを正面から見つめることこそ、本当に使える防災の知識や経験が共有されると思う」と意見します。

かたや、みたらしさんは防災教育を学ぶなか、津波の防災教育に取り組む片田敏孝教授が子どもたちに教えていたという「避難三原則」に感銘を受けたそう。それは「想定に捕らわれないこと」、「その状況下で最善を尽くすこと」、「率先避難者であること」の3つです。

主体性を重視した教育が大事であることを理解しつつも、「それを誰に任せていくのか。戦争体験者とそうでない方が語る話ではその実感が変わってくるので、(宮城教育大学のような教員の育成など)こうした取り組みは大切だと思う」とみたらしさん。

災害は突然やってくるものとあって、大島さんは「その状況下で自分が正しく、主体的に判断できるか」と不安を語りつつ、最後に被災地への思いを吐露。「大学時代に被災地に訪れて思ったのは、被災地の人もいろいろな思いを持っている。例えば(震災を)思い出してほしい、もっと報道してほしいという人もいれば、もう忘れたいという人もいる。一人ひとり違うので、大きい主語ではなく小さい主語で見ていく必要がある」と話していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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