「ドライブ・マイ・カー」がノミネート アカデミー賞受賞作品予想!

2022年のアカデミー賞ノミネート作品が発表された。「ドライブ・マイ・カー」が日本映画初となる作品賞・脚色賞にノミネートされるなど、注目が集まっている。今号では授賞式が間近に迫ったアカデミー賞について取り上げる。


注目すべきポイントは?

今年のアカデミー賞をチェックしよう!

今月27日に第94回アカデミー賞の授賞式が開催される。同賞は通称「オスカー」と呼ばれ、米国映画界最高の栄誉とされている。2019年以来、授賞式は司会者不在で行われてきたが、今年は史上初の女性3人で最終調整されているという。

多様性への配慮

さかのぼること7年。15、16年の演技賞にノミネートされた俳優が全員白人だったことにより、大規模な抗議が勃発した。監督や俳優たちが授賞式をボイコットし、ツイッターでは「#OscarsSoWhite(オスカーは白人だらけ)」が拡散。17年には、映画プロデューサーがセクハラと性的暴行で訴えられ、「#MeToo」運動が広がった。これを機にアカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー(AMPAS)は、選考員の多様化を推し進めることとなった。

17年には監督や脚本、出演する主要人物が全員黒人の「ムーンライト」が作品賞などを受賞。20年には韓国人監督ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」が英語作品以外で初めて作品賞に輝き、21年には中国出身の女性監督、クロエ・ジャオの「ノマドランド」が作品賞を含む4部門で受賞を達成した。そして24年からの作品賞の選考に、マイノリティーの一定以上の出演を求める新基準が発表された。この流れが今後の映画制作や評価にどのような影響を及ぼすのか、注目していきたい。

「ドライブ・マイ・カー」

「ドライブ・マイ・カー」が作品賞にノミネート

そんな中、濱口竜介監督、西島秀俊主演の「ドライブ・マイ・カー」が作品賞、監督賞、国際長編映画賞、脚色賞の4部門にノミネートされた。作品賞と脚色賞へのノミネートは日本映画初の快挙である。

原作は村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された一編で、同作に収められた他の小説からも着想を得て、179分の長尺映画が作られた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、メインのロケ地が韓国から広島に変更されたという同作。広島という世界的にも意味を持つ街を舞台にした映画が、村上春樹ファンの多い米国でどこまで評価されるだろうか。

ネットフリックス映画の初受賞なるか

作品賞、監督賞を含む最多11部門12ノミネートを達成したのはジェーン・カンピオン監督、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「パワー・オブ・ザ・ドッグ」だ。制作はネットフリックスで、作品賞を受賞すればオスカー史上初、動画配信会社による映画が頂点に立つこととなる。巧みな構成と演技が見どころの同作はシーンのあちこちに伏線が張られており、何度も見返すことのできる動画配信サービスとの相性が抜群なのである。

一方、作品賞など10部門にノミネートの「DUNE/デューン 砂の惑星」のようなSF・アクション映画は、本来大画面で見ることが推奨される。しかしこのような作品でさえも劇場公開後、程なくして配信がスタートしている。これからは、公開直後の作品を家で見るのがスタンダードとなり、映画館での鑑賞が特別な体験となるのだろう。


過去10年を振り返り

作品賞受賞作リスト

2021年「ノマドランド」
2020年「パラサイト 半地下の家族」
2019年「グリーンブック」
2018年「シェイプ・オブ・ウォーター」
2017年「ムーンライト」
2016年「スポットライト 世紀のスクープ」
2015年「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
2014年「それでも夜は明ける」
2013年「アルゴ」
2012年「アーティスト」

昨年度の受賞作「ノマドランド」

アカデミー賞ノミネート作品を紹介

全作品を動画配信で見れるので、気になるものがないかチェックしてみよう!


今年の各部門のノミネートリストには、動画配信会社が制作した作品が目立つ。下馬評では、最多ノミネート数を誇る「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が作品賞受賞の最有力候補とされているが、断定するにはまだ早いかも。これまでの作品賞受賞作の傾向と今後のトレンドを見ていく。

実話を題材とした
映画の受賞歴

オスカーと実話を題材にした映画の相性が良いことをご存知だろうか。

2019年に作品賞を受賞した「グリーンブック」は黒人ピアニストと運転手が実際に敢行したアメリカ南部を巡るツアーを、16年の受賞作「スポットライト 世紀のスクープ」は、カトリック司祭による性的虐待事件を暴く実際の報道現場をもとに制作されている。また14年の「それでも夜は明ける」や13年の「アルゴ」も、実話の事件をベースに作られているのだ。

今年はテニス界の天才姉妹ビーナス&セリーナ・ウィリアムズを育て上げた、テニス未経験者の父リチャードの姿を描いた「ドリームプラン」や、北アイルランド紛争の渦中で過ごした家族との時間を描いた、ケネス・ブラナー監督の半自伝的映画「ベルファスト」がノミネートされているのでチェックしよう。

ミュージカル・音楽映画の人気

スティーブン・スピルバーグ監督によって「ウエスト・サイド・ストーリー」が60年ぶりにリバイバルされた。人種差別や社会の分断といったテーマが現代にも通ずるとして、このタイミングでのリバイバルが評価されている。また、ミュージカル「レント」の作者ジョナサン・ラーソンの姿を描いた「チック、チック…ブーン! (tick, tick…BOOM!)」では、アンドリュー・ガーフィールドが主演男優賞にノミネートしている。

その他にも、自分以外の家族が皆、聴覚障害を持つ女子高生を描いた音楽映画「コーダ あいのうた」は作品賞を含め3部門でノミネート。家族役の俳優たちは実際に聴覚障害を持っており、同作はオスカーの前哨戦といわれるサンダンス映画祭で史上最多の4冠に輝いた。今年は「シラノ」「アネット」「エルヴィス」など注目したいミュージカル・音楽映画が数多く公開されることもあり、この授賞式の結果が追い風となって音楽映画の年になるかもしれない。

オスカー史上初
映画ファンの一般投票

今年はツイッターと連携し、オスカー史上初めて一般人のお気に入り作品を募集した。本来、オスカーに投票できるのは映画関係者や監督、俳優などのアカデミー会員のみ。投票方法は、会員がノミネート作品に1位から10位までを順位付けるもので、長年その結果には一般ファンの好みとの差があると指摘されてきた。これを受けて今年は、ツイッターとウェブサイトで一般ファンのお気に入り映画とシーンを募集するイベントを開催した。

「#OscarsFanFavorite」のハッシュタグをチェックすると「スパイダーマン:ノー・ウェー・ホーム」「アーミー・オブ・ザ・デッド」「シンデレラ」など、作品賞にノミネートされていない映画も多く見受けられる。募集はすでに締め切ったが、授賞式で発表される結果に注目してみよう。


作 品 賞

ベルファスト
ドラマ/伝記

ケネス・ブラナー監督の半自伝的映画作品。北アイルランドのベルファストで生まれ育った少年バディは、家族と友達に囲まれて幸せな毎日を過ごしていた。しかしある日、プロテスタントの武装集団が街のカトリック住民への攻撃を始め、バディと家族の生活は一変してしまう。

【監督・脚本】ケネス・ブラナー
【出演】ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフ、キアラン・ハインズほか
【配信】Amazon Prime Video、Apple TVなど


ドント・ルック・アップ
ブラックコメディー

地球に衝突する恐れがある巨大彗星(すいせい)を発見した天文学者と教え子が、その事実を世界に知らしめるために奔走するコメディー映画。大統領との面会やテレビ番組に出演する機会を得るも説得はうまくいかず、事態は思わぬ展開へと進んでいく…。

【監督・脚本】アダム・マッケイ
【出演】レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、ケイト・ブランシェットほか
【配信】Netflix


DUNE/デューン 砂の惑星
SF/アクション

フランク・ハーバートのSF小説『デューン砂の惑星』の映画化作品。西暦1万190年、人類は宇宙帝国を築き、各惑星を1つの大領家が治めていた。皇帝の命を受けたアトレイデス家は、砂の惑星「デューン」を統治すべく旅立つが、ハルコンネン家と皇帝が仕組んだ陰謀に直面する。

【監督】ドゥニ・ビルヌーブ
【脚本】エリック・ロス、ジョン・スペイツ、ドゥニ・ビルヌーブほか
【出演】ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤほか
【配信】HBO Max、
Apple TVなど


リコリス・ピザ
青春/恋愛

舞台は1973年のロサンゼルス、サンフェルナンドバレー。子役出身の若手俳優として活動していた高校生のゲイリーは、ある日学校で撮影助手のバイトをしていた10歳年上のアラナに恋をする。甘酸っぱくも煮え切らない関係を通じて、お互いが成長していく姿を描く。

【監督・脚本】ポール・トーマス・アンダーソン
【出演】アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペンほか
【配信】Amazon Prime Video、Google Playなど


パワー・オブ・ザ・ドッグ
ドラマ/スリラー

1920年代のモンタナ州。周囲の人々に恐れられているフィルは弟のジョージと大牧場を経営していた。ある日、ジョージは未亡人のローズと出会い結婚。二人の関係に納得のいかないフィルはローズと息子のピーターに強く当たるが、ある事件をきっかけに心境の変化が訪れる。

【監督・脚本】ジェーン・カンピオン
【出演】ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィーほか
【配信】Netflix


コーダ あいのうた
ドラマ/青春

「CODA」は「Child of Deaf Adults」の略語で「聾唖(ろうあ)の親を持つ子供」の意味。家族で唯一耳が聞こえる女子高生のルビーは家業の漁業を手伝っていた。ある日、合唱部の顧問が彼女の歌の才能に気付き、ルビーは音楽の道に進むため、家業と練習の両立に励む。

【監督・脚本】シアン・ヘダー
【出演】エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリンほか
【配信】Apple TV


ドライブ・マイ・カー
ドラマ

村上春樹による同名短編小説の映画化作品。舞台俳優の家福は、脚本家の妻を亡くす。2年後、広島の演劇祭の演出を任され、愛車で向かった先で専属ドライバーのみさきに出会う。寡黙な彼女が運転する車で時間を共にする中で、家福は妻の残した秘密に向き合っていく。

【監督】濱口竜介
【脚本】濱口竜介、大江崇允(たかまさ)
【出演】西島秀俊、三浦透子ほか
【配信】HBO Max、Amazon Prime Video、VUDUなど


ドリームプラン
(原題: King Richard) ドラマ/伝記

ウィル・スミスが主演・製作を務めた、世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界王者に育て上げた父親の姿を描いた伝記映画。テニス未経験の彼が独学で指導プランを作成し、娘たちを世界の頂点に導くまでのストーリー。

【監督】レイナルド・マーカス・グリーン
【脚本】ザック・ベイリン
【出演】ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリスほか
【配信】Amazon Prime Videoなど


ナイトメア・アリー
サスペンススリラー

ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』の映画化作品。ショービジネスでの成功を夢みるスタンは、怪しげなカーニバルの一座に出会う。そこで読心術を学びトップの興行師となるが、その先には思いがけない闇が待ち受けていた…。

【監督】ギレルモ・デル・トロ
【脚本】ギレルモ・デル・トロ、キム・モーガン【出演】ブラッドリー・クーパーほか
【配信】Hulu、HBOMaxなど


ウエスト・サイド・ストーリー
ミュージカル/恋愛

ミュージカル「ウエスト・サイド物語」を映画化。1950年代のマンハッタンでは、ヨーロッパ系移民グループ「ジェッツ」とプエルトリコ系移民グループ「シャークス」が激しく争っていた。ある日、ジェッツの元リーダー、トニーがシャークスのリーダーの妹マリアと恋に落ちてしまう。

【監督】スティーブン・スピルバーグ
【脚本】トニー・クシュナー
【出演】アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラーほか
【配信】Disney+、HBO Maxなど

その他ノミネート部門一覧

監督賞
★ケネス・ブラナー/「ベルファスト」
★濱口竜介/「ドライブ・マイ・カー」
★ジェーン・カンピオン/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
★スティーブン・スピルバーグ/「ウエスト・サイド・ストーリー」
★ポール・トーマス・アンダーソン/「リコリス・ピザ」

主演男優
★ハビエル・バルデム/「愛すべき夫妻の秘密」
★ベネディクト・カンバーバッチ/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
★アンドリュー・ガーフィールド/「チック、チック…ブーン!」
★ウィル・スミス/「ドリームプラン」
★デンゼル・ワシントン/「マクベス」

主演女優
★ジェシカ・チャステイン/「タミー・フェイの瞳」
★オリビア・コールマン/「ロスト・ドーター」
★ペネロペ・クルス/「パラレル・マザーズ」
★ニコール・キッドマン/「愛すべき夫妻の秘密」
★クリステン・スチュワート/「スペンサー ダイアナの決意」

助演男優賞
★コディ・スミット=マクフィー/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
★トロイ・コッツァー/「コーダ あいのうた」
★キアラン・ハインズ/「ベルファスト」
★ジェシー・プレモンス/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
★J・K・シモンズ/「愛すべき夫妻の秘密」

助演女優賞
★アリアナ・デボース/「ウエスト・サイド・ストーリー」
★キルスティン・ダンスト/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
★アーンジャニュー・エリス/「ドリームプラン」
★ジェシー・バックリー/「ロスト・ドーター」
★ジュディー・デンチ/「ベルファスト」

上記以外の部門は公式HPをチェック
oscars.org


ニューヨークにあるおすすめの映画館を紹介

動画配信も良いが、ニューヨークには足を運んでみたくなる映画館がたくさんあるのでチェックしよう。

リラックスシートのあるラグジュアリーな映画館
IPIC Theater

全席革張りの広々とした席で、くつろぎながら鑑賞できる映画館。館内の席はたったの50席ほどで、通常のシートとカップルシート、VIPシートの3種類がある。呼び出しボタンを押して、上映中にお酒やフードを注文することができる、ラグジュアリーな映画館となっている。

11 Fulton St./TEL: 212-776-8272
ipic.com


レトロ作品を上映するおしゃれな映画館
Metrograph

ローワーイーストにある、35mmフィルムの古い映画を中心に上映する映画館。アニメーションや新進気鋭の若手監督による作品を見ることもできる。映画関連の本がずらりと並ぶショップや、アメリカンスタイルのレストランも併設。おしゃれでかわいい館内に気分が上がること間違いなし。

7 Ludlow St./TEL: 212-660-0312
metrograph.com


映画にちなんだフードが楽しめる!
NiteHawk Cinema

新作映画「バッドマン」にちなんで考案された「What’s Black and Blue and Dead All Over?」。レアのハンガーステーキにポテトがつく

プロスペクトパークとウィリアムズバーグにある映画館。映画鑑賞しながら本格的な料理を楽しめる。高級ホテルのレストランに勤めたシェフが上映作品にちなんだメニューを考案。ドリンクの種類がたくさんあり、キッズメニューも豊富にそろえる。

■Williamsburg
136 Metropolitan Ave., Brooklyn, NY 11249
TEL: 646-963-9288

■Prospectpark
188 Prospect Park W., Brooklyn, NY 11215
TEL: 646-963-9295
nitehawkcinema.com


映画好きにおすすめのスポットを紹介

映画を見るだけでなく、制作の裏側ものぞきたい映画ファン必見!

映画好きなら行っておきたい
Museum of the Moving Image

クイーンズ区アストリアにある映像をテーマにしたミュージアム。古い撮影機材や、実際に劇中で使用された衣装・小道具が展示され、ミニシアターが備えられている。現在「ミス・ピギー」や「セサミストリート」を創作したマペット作家ジム・ヘンソンの展示が開催中。同館のすぐ目の前には、現在でもセサミストリートの撮影が行われる、カウフマン・アストリア・スタジオがある。

36-01 35th Ave., Astoria, NY 11106
TEL: 718-777-6800/movingimage.us


LAにオープンしたアカデミー映画博物館
Academy Museum of Motion Pictures

昨年9月にオープンしたアカデミー映画博物館。アカデミー賞受賞作品の撮影に使われた衣装や小物が展示されている。「スター・ウォーズ」シリーズの撮影で実際に使用されたC-3POやR2-D2なんかも展示されている。オスカー像と共に受賞者のスピーチが流されていて、アカデミー賞の変遷を知ることも。6月5日(日)までは、宮崎駿監督の回顧展が開催されている。LAを訪れる際はぜひ足を運んでみて。

6067 Wilshire Blvd., Los Angeles, CA 90036
TEL: 323-930-3000/academymuseum.org

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