Vol.03 ROE Visualとdisguise、「xR STAGE TOKYO」開設。LEDウォールを用いたバーチャルプロダクション」を体験できる予約制ショールーム[シネマトグラファー小林基己の視点]

ROE Visual JapanのショールームにxR STAGE開設

ROE Visualとdisguiseによるバーチャルプロダクションのデモンストレーション・スタジオ「xR STAGE TOKYO」にお邪魔してきた。東京・八丁堀に位置するROE Visual Japanのショールーム入ると、まず最初に目に入ってくるのがそのxR STAGEだ。

背面は縦2.5m×横3mの2.8mmピッチのBlackPearl BP2が2枚、L字に配置され、床面には4.7㎜ピッチのBlackMarble BM4が配置されている。カメラはBlackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2、トラッカーはRedSpyを使用している。メディアサーバーはdisguise VX4、レンダリングにrx2という仕様だ。

2021年11月のInter BEE 2021でBarcoブースとdisguiseとのコラボレーションで実現したLEDウォール型xR(バーチャル)スタジオのデモコーナーに床面のLEDが加わった形となっている。

このシステムも今話題となっているLEDインカメラVFXの手法で、Unreal Engineでシーンを作りながらもdisguiseでレンダリングやLED送出の制御をすることで、よりシンプルで安定度のある運用ができる。

床面までバーチャル空間を表現することで全身のショットも可能になっている。しかし残念なことに、今回、訪問した時はInter BEEと同様のアセットを使用していたため、手前にカウンターを配置した足元を隠すセットになっていた(Inter BEE時の床はLEDで無かったため、手前にレイヤーを置くことで問題を解消していた)。今後は床までLEDを使用している強みを生かせるデモシーンも見てみたい。

コンパクトなステージで無限の広さを実現

入って最初の印象は、想像していたよりもこじんまりとしていると思うかもしれない。だが、disguiseのシステムの利点はLEDの外側はリアルタイムレンダリングしたCGで補うことが出来るということが大きい。一度撮影された映像をdisguiseに戻してLEDでカバーしきれない領域をCGで補ってくれることで、ステージよりも広い画をカバーできる。人物の手前に机や透過物などのレイヤーを重なることができるのも同じ機能だ。それによって、このコンパクトなシステムでも、被写体さえLED内に収まっていれば、スケールを感じる引き画も表現できる。

ただ、自分が今まで経験してきたロケ撮影さながらのインカメラVFXでは、床面LEDを使用したことがない。これは地面が発光面になるとリアリティが失われてしまうことと、まだ、床面用のLEDとなるとピッチ数が広いものに限られていて今回使用しているBM4も4.7㎜とVFX撮影に使うには粗めのピッチになる。近々、2.8㎜ピッチの床面用LEDもラインナップされるということで、それが出れば応用の用途はグッと広がってくるだろう。

この場所が「xR STAGE TOKYO」と題しているのも、さながら実写ロケセットのように見えるというよりもLEDステージならではの現実世界では表現出来ないようなイメージをこのコンパクトな一角で表現できるというプレゼンテーションとしての意味合いが強い。これを見てもらうことで、設置するスペースや使用用途によって、LEDのユニットを増やすことで様々な状況に対応できる。

そして、このコンパクトさゆえの利点もある。2112×880(背景)+640×640(床面)というピクセル数で運用できるため約2Kの処理能力でも対応できる。4K×4出力出来るdisguise VX4とrx2の組み合わせは、この解像度にはややオーバースペックだが、より大きな解像度のLEDへの対応も考えると1ラックでこのスペックは心強い。

カメラトラッキングはRedSpy。今後はマーカー設置不要のNcamも検討中

LEDとシステムのほかに重要な要素としてカメラとトラッキングシステムが挙げられる。前述の通り、カメラはBlackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2、トラッキングシステムはstYpe社のRedSpyを使用しており、これはナックイメージテクノロジーからの提供になる。カメラとトラッキングシステムは別のものも検討しており、今後トラッキングシステムをNcamにするということも考えているそうである。

RedSpyのような赤外線マーカー認識のタイプはトラッキング用に天井、もしくは床面などにマーカーを設置しなければいけない。それがNcamになると超広角のステレオカメラで受像した映像をもとに位置情報を収集するため、マーカーの設置が必要ない。精度はマーカータイプのトラッカーに適わないが、マーカーの設置が困難な屋外や天井が高いホールなどでは威力を発揮するだろう。

取材時はstYpe社のRedSpyが使用されていた

カメラはGenlockが入るということを条件に考えると、URSA miniProのコストパフォーマンスは何物にも代えがたい。今後、ARRIのAMIRAなども考慮に入れていると聞いた。レンズはFUJINONのZK 19-90mm T2.9が付けられていた。インカメラVFXの場合、レンズを変えるたびにキャリブレーションを取らなければいけない。そうなると汎用性の高いレンズ域と明るい解放値のFUJINON 19-90はバーチャルプロダクションで重宝される定番レンズとなりつつある。

ステージ裏にはROE Visual製LEDディスプレイの最新ラインナップを展示

ROE Visualのショールームということもあって、「xR STAGE TOKYO」の裏に回ると様々なLEDパネルを見ることができる。ステージに使っているBP2よりも高精細のものや高輝度のもの、メッシュ状になって透過できるもの、軽量化を図っているLEDなどは天井に配置するのに適しているだろう。それらをこのxR STAGEのシステムと組み合わせることで、使用用途によって、どんなLEDを選択していくかという判断基準になる。

ROE Visualとしては、今後も「xR STAGE TOKYO」はショールームに常設していきたいということである。なかなかLEDインカメラVFXに興味はあっても体験出来るというところは少ない。この技術は、仕上がった映像も見ても分かりづらく、実際に目にして納得するテクノロジーだと思う。ぜひ、八丁堀のROE Visualショールームに来て、映像技術の最新トレンドを体感して欲しい。

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