【中原中也 詩の栞】 No.36 「宿酔」(詩集『山羊の歌』より)

朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールする。

私は目をつむる、
  かなしい酔ひだ。
もう不用になつたストーヴが
  白つぽく銹(さ)びてゐる。

朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールする。

    

【ひとことコラム】「千の天使」のバスケットボールは酔眼に浮かぶ幻想とも頭痛がもたらす幻聴とも解されます。日差しや風、艶を失ったストーブという現実感のある描写と交錯させながら、二日酔い独特の心境を巧みに表現していくところに、詩人ならではの感性とユーモアを感じさせます。

中原中也記念館館長 中原 豊

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