<神戸市>アスベスト除去費5億円増は適切か 分析3機関で結果不一致も「検証」なし 情報公開で裏付け

神戸市の市営住宅解体でアスベスト(石綿)の分析結果が3機関で食い違い、解体費用が約5億円増加した問題をめぐり、市が十分な検証をしないまま再入札していたことが情報公開請求により明らかになった。安全側に立った対策が追加されたことは間違いないものの、そこに至る手続きの透明性や今後への影響といった観点から疑問が残る。(井部正之)

神戸市市営下山手住宅で食い違うアスベスト分析結果の概要。じつに50%で有無が割れている。ほとんど仕上塗材

◆仕上塗材の分析めぐり混乱

市は老朽化が進む市営下山手住宅4号棟(中央区)の解体を2020年11月から開始する予定だった。ところが、元請けの春名建設(同市)が鍵が掛かっていた電気室を調べず、危険性の高い吹き付けアスベストを見落とすという初歩的な調査ミスをしていたことが兵庫県保険医協会らの指摘で発覚し、解体が延期された。

第3者機関による検証を求める声が市議会や保険医協会などで上がったことから市は同社に指示して同11月、兵庫県の外郭団体「ひょうご環境創造協会」に再調査させた。

その結果、入札前の予備調査、受注業者の事前調査、公的機関の再調査でアスベスト分析で有無が割れる箇所が相次いだ。とくに調査した計112カ所のうち、複数の分析機関が顕微鏡でアスベストの有無を調べた50カ所について、分析結果の不一致が25カ所と半数に達した。そのうち22カ所が外壁などの仕上材「仕上塗材」である。

市から分析結果が異なる理由を調べるよう指示を受けた春名建設は、各分析機関に聞き取りするなどしたが結局判断がつかず、分析結果で有無が割れている場合、すべてアスベスト含有とみなすと結論づけた。ところが当初の契約金額の約2億7000万円(税込み)を大幅に超えることになり、市は契約解除し再入札。解体費用が約7億7000万円まで増えた。増加分のほとんどはアスベスト除去費用である。

2021年12月市議会で油井洋明副市長は「予備調査・事前調査等の不一致についてでございますけれども、本市における予備調査で、外壁仕上塗材の下地調整材にアスベスト含有なしの部分が、請負による事前調査では、アスベスト含有ありとなったものでございます。このように、結果が異なることについて、請負人が事前調査の再調査を行うとともに、専門機関にも確認を行いましたけれども、原因の特定に至らず、アスベストの含有について否定することはできないとの判断で、今回、新たな解体の工事をしようとするものでございます」と説明。元請けが調べてわからなかった以上、一度でも「検出」の分析結果があるものはすべてアスベストを含むとみなして対策を講じるしかないと理解を求めた。

◆再調査で分析不一致の検証なし

しかし市が実施させた再調査には疑問が残る部分も少なくない。

入札前の予備調査と同社の事前調査における分析で同じ建材についてアスベストの有無が異なっていれば、改めてひょうご環境創造協会が分析したとしても2択である以上、結果がそのどちらかになることは最初からわかっていたはずだ。

だからこそ再調査では、その分析が適切であることはもちろんだが、アスベストが有無どちらになるにしても分析結果が正しいことを裏付けるためにそれまでの2機関が分析した試料の残りや採取箇所の周辺をさらに何カ所も採取して徹底的に調べるなどの検証作業が必要になる。

まして今回は予備調査と事前調査で2機関が仕上塗材の下地調整材(下地を平らにするのに使うセメント系などの材料)から国際標準の定性分析法「JIS A 1481-1」と日本独特の簡易的な定性分析法「JIS A 1481-2」でアスベストを検出していた(たとえばA棟2階の階段内壁A棟2階の階段内壁)。これに対し、同協会では「JIS A 1481-1」で不検出としているのだが、単に分析結果を提出しているだけで検証的な報告はない。これでは再調査の意味がない。

なぜそんなことになっているのだろうか。情報公開でその一端が見えてきた。

筆者が市に今回のアスベスト調査・分析費用について情報公開請求をしたところ、元請けの春名建設に対して市が設計変更して支払ったのは約1846万円だったと開示された。市住宅建設課によれば、そのほとんどがアスベスト調査・分析の費用という。

その使途として、春名建設の事前調査を請け負った1社と再調査のひょうご環境創造協会に対して支払われた費用の項目などが開示された。各項目の単価や金額は非開示だが、「アスベスト含有建材事前調査」として「定性分析 214検体」「定量分析 52検体」というのが委託内容だ。これはアスベストの有無を調べる定性分析とその含有率を調べる定量分析として委託された検体数で、つまりは通常の1検体いくらの分析委託だったことがわかる。当初の2機関による調査・分析を「検証」するための委託は記載がなかった。

情報公開での開示結果をふまえ、市住宅建設課に同協会への委託内容を改めて尋ねると「試料採取と分析」で、それまでの調査・分析の検証は「入ってない。そもそもそういう趣旨でやったわけではない」と認めた。

◆問われる検証なき再調査

では再調査はなぜ実施されたのか。

「当時電気室すら調べないような業者の事前調査が信用できるかと指摘を受けており、アスベストの見落としの方が大きな問題であって、ほかに見落としがないのか確認することを重視していた」(市住宅建設課)

たしかに市議会でも見落としをめぐって追及を受けている。同時に検証の必要性も指摘されていたが、市にとっては見落としがないことを確実にすることのほうが重要だったということのようだ。

結局、再調査は単に分析をもう1度頼んだというだけにすぎない。検証的な位置づけが明確でなかった以上、これまで分析していなかった箇所を除くと行政費用としては無駄といわれても仕方あるまい。そして、再調査の位置づけをきちんとせず、漫然と同じ分析委託を繰り返したことが今回の混乱を引き起こしたのも間違いない。まさしく検証なき再調査の弊害といえよう。

市は独自の検証をしていないと認めている。そのため県保険医協会などが改めて3機関によるアスベスト調査・分析の検証を実施するよう求めてきた。今回情報公開で検証の委託がされず、その費用が支出されていないことが判明した以上、専門的な見地による適切な検証がされないまま再入札に至ったことは間違いない。行政的な判断により安全側の対応をしたことは事実だが、市が問い合わせた業界団体からは「検証可能」との返答が来ている。今後のためにもやはり改めて検証する必要があるのではないか。

神戸市職員として定年直前まで勤めた後に議員となった高橋秀典市議は「検証となると責任問題が発生するのでやりたがらない。それが役所の常です。契約が成立しているのに業務の見直しにつながりかねない検証はやりたくないというのが本音でしょう」と指摘する。

現場ではアスベスト除去の開始に向け着々と準備が進む。仕上塗材の除去開始は5月の予定だ。タイムリミットまであとわずかである。

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